第一節 その先を目指して
セミの声が静かになり、夜風がほんの少しだけ涼しく感じられるようになったころ――
夏休みが終わり、学校にはまた、いつもの日常が戻ってきた。
6年2組の教室。
黒板には「二学期スタート!」の文字が踊り、廊下には自由研究を手にした子たちの声がにぎやかに響いていた。
さち、ハル、ユキの三人も、自分の席で笑い合っていた。
「夏、あっという間だったね……でも、すごく濃かった」
「うん。大会のこと、まだ夢みたい」
「でもちゃんと現実だったよ。体が覚えてる」
さちは笑いながら、そっと自分の腕をさすった。
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放課後。
久しぶりに三人は、いつもの“トレーニングルーム”に集まっていた。
窓から差し込む光は、夏よりも少し柔らかくなっているようだった。
「今日は軽めにしよっか。学校、始まったばっかりだし」
「うん。でも、また新しい目標を立てたいよね」
そう言ったユキの一言で、三人は自然とホワイトボードの前に並んだ。
その横には、大きな鏡が立っている。
さちは、ふと鏡に映る自分たちを見て、小さくつぶやいた。
「……なんか、変わったよね、私たち」
ハルが腕を上げて、自分の肩に触れる。
「肩の形、前より丸くなった気がする。昔は“女の子らしく”って思ってたけど、今はこの筋肉がちょっと好きかも」
「背中も締まってきたし……お腹も」
ユキも鏡を見ながら、そっと自分の体を確かめた。
さちは腹筋のあたりに手を置いて言った。
「前は、すぐに諦めるタイプだった。でも、今はちょっと違う気がする。お腹の線も、がんばってきた証みたいで」
鏡の中の三人の姿には、確かに変化があった。
肩や腕、お腹にうっすらと力強さが感じられ――そのすべてが、続けてきた日々を物語っていた。
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「……ねえ、中学でも一緒にがんばろう」
ユキの声に、ふたりが静かに頷いた。
「私は、水泳を続けたい。もし中学に部活がなかったら、スクールでも。もっと速くなりたいから」
「私は、体を鍛えるのも続ける。高校生になったとき、“やってきた人の体”って言われたい」
さちは少しだけ間を置いて、ゆっくり言った。
「……私は、ふたりみたいに泳げるようになりたい。ちゃんと“勝てる自分”になってみたい」
「じゃあ、目標を書こう」
ハルがマーカーを取り出す。
三人で考え、ホワイトボードに書かれたのは――
『中学1年の終わりに、自分史上最高の体と心でいよう』
「“大会で優勝”とか“何秒出す”っていうのも大事だけど、いちばんは“自分の最高”だよね」
「うん。自分で“これだけがんばった”って、胸を張れることがいちばん大事だと思う」
三人は、それぞれ鏡に映る自分を見ながら、そっと微笑んだ。
――あの夏が終わっても、努力は終わらない。
その先に待つ、自分たちだけの“未来”のために。




