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絆のトレーニングノート:始まりの春、強さの種  作者: たまに何かを書く人
【第3章】強くなると決めた日

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16/50

第五節 わたしの初レース

大会当日。

市民プールの会場には、色とりどりのチームTシャツと歓声が入り混じり、独特の高揚感が漂っていた。


さちは、掲示板のスタートリストに自分の名前を見つけた瞬間、胸の奥がキュッと締めつけられるような感覚を覚えた。


「白川さち――女子25メートル自由形・ビギナークラス 第3組 第4レーン」


(本当に……出るんだ、私)


緊張で手のひらがじっとりと汗ばむ。けれど、その不安を打ち消すような声が響いた。


「さちーっ!」


観覧席を見上げると、ハルとユキが手作りのうちわを掲げ、笑顔で手を振っていた。

ふたりともおそろいの応援Tシャツを着ている。


「大丈夫! やってきたこと、全部出してくるだけ!」


「楽しんで泳いでね、さち!」


さちは笑顔でうなずいた。


「……うん。行ってきます!」


更衣室で競泳水着に着替えると、鏡の中に立っていたのは、見慣れたようでいてどこか違う“今の自分”だった。

引き締まった腕、頼もしさのにじむ肩、そして腹部にはうっすらとしたライン。

「鍛えるのはちょっと……」と思っていた頃とは、すっかりちがっていた。


(ここまで来た。自分で選んで、ここまで来られた)


深く息を吸い、ゆっくり吐いて、プールサイドへと向かう。


場内アナウンスが響いた。


「女子25メートル自由形・第3組、選手はスタート台へ」


スタート台に立つと、鼓動の音が自分の耳にも聞こえるほど大きくなる。

向こうの壁が、いつもより遠く感じられた。


「位置について――」


ピッ!


飛び込んだ瞬間、すべての音が消えた。

水の中はひんやりとして、静かで、それだけが感覚を研ぎ澄ませてくれる。


(1、2、3、息継ぎ)


バタ足は力強く、腕も大きく回す。途中、少しバランスを崩しかけたが、止まることはなかった。


(もうすぐ、壁――!)


壁が迫る。最後のひとかき、そして――タッチ!


「……っ!」


水面から顔を上げたさちに、タイムボードが目に飛び込んでくる。


22秒58


(……速い。練習の中でも、一番速い!)


「やったー!!」


観客席から、ハルとユキの大きな声が響いた。


プールから上がったさちは、涙をこらえながら笑っていた。


「私、泳ぎきった。タイムも更新した……!」


「かっこよかったよ、さち!」


「ほんとに、すっごくきれいなフォームだった!」


三人は思わず抱き合った。



その日の夕方。

さちはリビングで、母・真由美に報告をしていた。


「大会、どうだった?」


「泳ぎきれた! タイムも更新できた!」


「……ほんとうに、がんばったんだね。すごいよ、さち」


真由美の言葉に、さちは「ありがとう」と小さくつぶやいた。


その夜、さちは「絆のトレーニングノート」の新しいページを開く。


“初めての大会で22秒58。泳ぎきれた。次は20秒切りたい”


ページの隅に、小さな星マークを描き入れる。


(ここからまた、始まる)


挿絵(By みてみん)

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