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絆のトレーニングノート:始まりの春、強さの種  作者: たまに何かを書く人
【第2章】初レースと手にした自信
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第五節 それぞれの壁、それぞれの挑戦

「今日は、25メートル泳ぎきるつもりだったのに……」


さちはバスタオルを肩にかけたまま、プールの端に座り込んでいた。


ビート板を使っても、息継ぎがうまくいかず、体が沈んでしまう。どうしても最後まで泳ぎきれない。


「でも、さっきのバタ足、すごく良くなってたよ」とハルが声をかける。


「うん。蹴りの音がしっかり出てたし、水面で足がきれいに跳ねてた。あれができると、全然ちがうよ」とユキも微笑む。


さちは少しだけ笑って、うなずいた。


「ありがと……そう言ってもらえると、やっぱり嬉しい」


その横で、コーチが練習メニューを見ながら声をかけてきた。


「ハル、ユキ。今日はターンとスタートを集中してやろう。体力はもう十分。タイムを縮めるには、“切り替えの速さ”がカギになるよ」


ふたりは真剣な表情で頷いた。


「はい!」


「お願いします!」


スイミングスクールのあと、三人はいつものように、ハルとユキの部屋に集まった。少し休んでからの“補強トレーニング”は、すっかり日課になっている。


「今日のメニュー、これにしよう!」


ホワイトボードにはこう書かれていた。

•スクワット ×40

•プランク30秒 ×3セット

•チューブで肩のインナーマッスル強化

•腹筋ローラー ×10(補助あり)

•フィンを使った足首ストレッチ


「ターンのときに腰を回す力って、意外と腹筋使うんだよね~」とハルが言いながら、フォームを確認する。


さちはプランクの姿勢になって、ゆっくりと呼吸を整えた。


「ねえ、ユキ。ターンのとき、壁を蹴るタイミングが合わなくて、手前で減速しちゃうの。どうしたらいいかな」


「私もそこ、ずっと苦手でさ。コーチに言われたのは、壁が近づいたら“脚をまとめる意識”を早めに持つこと、だって」


「そっか……今度やってみる!」


ふたりの会話を聞きながら、さちはぽつりとつぶやいた。


「いいなぁ……。私はまだ、壁まで届くのが目標だけど……でも、私も、ふたりに近づきたい」


ユキがタオルを巻き直しながら、にっこりと微笑む。


「さちはもう、立派な“チーム”の一員だよ」


「うんうん。トレーニング、一番真面目にやってるしね!」


「えへへ……ありがとう」


三人はスクワットのカウントをそろえて、声をかけ合った。


「いち、にー、さんっ……!」


「背中まっすぐー! お尻落としすぎ注意!」


「いいよ、その調子!」


汗が背中にじわりとにじんでも、誰もやめようとはしなかった。

自分の限界に、少しずつ挑みながら――。


トレーニングが終わると、三人は床に座り込み、水を飲みながら空を見上げた。


「……もうすぐ、夏が来るね」


「うん。今年の夏、きっと忘れられないよ」


「私、25メートル泳げたら、そのとき絶対言う。“ふたりがいたから、ここまで来られた”って」


「そしたら私たちも言う。“さちがいてくれたから、頑張れた”ってね」


風がカーテンをやさしく揺らし、三人の笑顔を包みこんだ。


挿絵(By みてみん)

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