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35 計画

私とエイリークは手を繋ぎながら裏路地を歩いて行く。

王都の華やかな道沿いとは違い人通りもまばらだ。


まるで襲ってくださいと言わんばかりの雰囲気で、私たちはどんどん人気のないところを歩いて行く。


陽の光さえあまり入らない道。


ついには誰もいなくなり、静寂に。

私たちの歩く音だけが響いている。


普通ならば足音だけが聞こえるだろう。


けれど。


私の耳には聞こえている。

近くの物陰で、息をひそめる音が。

普通の人間にはまず聞こえないだろう。


私はエイリークと結んでいる手に力を入れる。


私より高い位置にあるエイリークの顔が少し揺れて、ちらりと目線だけを私に向ける。

私はその目線を受け取り、目で合図した。


次の瞬間。



物陰に隠れていた人物が私たちの死角から飛び出してくる。


相当人を襲うことに慣れているのだろう。

私でなかったら襲われたことに気付く前に殺されていたかもしれない。


でも残念でした。


私の目と耳は誤魔化せないよ。



私たちの背後からナイフを持って襲い掛かってきた相手に、私は後ろを向くこともなく、後ろ手に突き刺そうとしていたナイフを持った手首をグッと掴む。

相手はその私の行動に相当驚いたことだろう。

見た目だけではその辺にいるただの町娘なのだから。


「ミーアちゃんさすが。」

ひゅー!と口笛を鳴らしながら私の腕前を素直に褒めてくれるエイリーク。

私が傍にいるからか、命が狙われている最中だというのになんだか余裕を見せている。


「ちっ!離せ!」

相手は私の手を振りほどこうとするがびくともしない。


「はあ?!なんでその体制でこの力??!!」

私はなおも振り返ることなく後ろ手で捕まえている。


力の差を理解して、振りほどくのは無理だと悟った刺客は右足で私を思いきり蹴飛ばそうとする。

私はそれをいち早く悟り。


後ろ手にあった手をそのまま上に持ち上げる。

もちろん刺客の手首を握ったままで。


「鬼!一本背負い!」

ドギャガンッ!!


私は高く上げた右腕をそのまま前に振り下ろす。

すると手首を持ったままなので一緒についてきた刺客は流れのままに地面に叩きつけられる。


前回の刺客の初撃の時に、手加減してしまったことで相手に反撃を許してしまった。

相手はこちらを殺す気で来ているのだ。

もう二度と同じ過ちはしない。


私は思いっきり地面に叩きつけた。

そのため地面にはヒビが入ってしまったが、きっとこの王子様がどうにかしてくれるだろう。


突然のことで何が起こったかわからない刺客は意識を失いそうになっている。


「ミーアちゃん本当にすごいね。どこで習ったの?掛け声する時に最初に鬼ってつけるのはなんなの?」

気になったことを矢継ぎ早に聞いてくる。

エイリークって本当に目ざとい。

その内本当に鬼族だってことがばれるんじゃないかしら。


「う、うう。」

大の字に伸びている刺客が良き絶え絶えに声を出している。

あれだけ痛めつけたのにまだ意識があるのがすごいわ。


その刺客は意識を取り戻したと思ったら急に眼を見開いて。


「お、お前ら!もういい!正体がばれてもいいからこいつらを殺せー!!」


と大きな声で宣言する。


すると数人の黒い衣装を身にまとった人たちが私たちを囲ってくる。

気配で仲間が数人いるのは気付いていたが、まさか全員でかかってこようとは。


でもなめてもらっちゃ困るのよ。

一時期森の中でイノシシが大量繁殖した時、100頭くらい同時に叩き潰したことがある。

それに比べればこのくらいどうってことない。


私はエイリークを守るように構えを取って臨戦態勢に入る。


「どこからでもかかってらっしゃい!」

こんな状況でも物怖じしない私の態度に一瞬怯むが、やはり相手はプロ。

すぐにあちらも戦闘態勢をとる。


一触即発。


その瞬間。


「ミーアちゃん。もう大丈夫。ここまでありがとね。」

エイリークは臨戦態勢に入っている私の頭をポンと叩いた。


「大丈夫って?」

何が大丈夫なのか、頭の中を?でいっぱいにしていると。


「第二王子の名で命ずる!この賊たちをひっ捕らえろ!!」

エイリークの掛け声と共にたくさんの兵士たちが駆け寄ってきた。

その中にはダニエルもいる。


「え?え?みんなどこから?」

兵士たちは私服で市民に擬態していたみたいだ。


相手の刺客も手練れだろうが、さすがに多勢に無勢。

数の力には勝てず、一人ずつ縄に捉えられていく。


「黙っていてごめんね。奴らを一目瞭然にするタイミングを計っていたんだ。」

全て計画の上だったのか。

私にすら全貌を教えず、確実に相手を根絶やしにする方法を考えていたのか。


でもそれって最初の刺客を私が確実に捕まえる前提だ。

そんな重大なことをまだ会って間もない私に託すだなんて普通は出来ることじゃない。


「これでもう大丈夫さ。」


眼鏡と帽子をとって青い髪を揺らしながら笑顔でそう告げる。


王子様って想像よりもずっとずっとすごい。

私はこの混乱の中でも彼の笑顔が眩しく見えたのだった。


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