34 殺気
「あの刺客を捕まえられたのは良かったのだが、依頼人の名前を明かさなければ証拠にならずなんの意味もない。トカゲのしっぽ切りだ。」
あの刺客とはまた別の刺客から命を狙われる。
それを繰り返すだけなら、確かにあの刺客を捕まえただけでは終われない。
「そこでだ。」
改めてエイリークは体を私に向き直す。
「私とミーアちゃんが恋人になろうと思う。」
綺麗な顔をこれでもかとニッコリとする。
「え?」
「はあ??」
私も驚いたのだが、フィンはもっと驚いていた。
「エイリーク王子、ちゃんと説明しないと刺客に殺される前にフィンに殺されますよ。」
エイリーク付きの騎士であるダニエルがエイリークをたしなめる。
「いやー、フィンがこんなに感情をむき出しにするだなんて今までなかったから面白くって。」
エイリークはフィンをからかうのが楽しいみたい。
「え、エイリーク王子。フィンの顔めっちゃ怖いですよー。」
エイリークの横で執事のリーヤが子犬のようにプルプルと震えている。
「すまんすまん。じゃあちゃんと説明するか。」
最初からちゃんと説明すればいいのに、見た目は王子様なのに、言動は全然王子様っぽいくない。
「これから私とミーアちゃんが恋人同士のふりをして、街中を歩く。刺客をこちらが捕らえたことは内密にしているから、きっとそのことも含めて私を捕らえようとするだろう。向こうとしても、仲間が行方不明なのは気になるだろうからね。」
ふむふむ。
私はなんとか理解しようと前のめりになってエイリークの説明を聞く。
「それでなんでミーアと恋人のふりをするのですか?」
フィンの機嫌の悪さは悪いままである。
そんなにエイリークにからかわれるのが許せなかったのかしら?
「私に護衛がついていたら敵は襲ってこないだろう?私が庶民の愛人とこっそりデートするってことを王宮に噂を流す。ミーアちゃんは一度王宮に招待しているからきっと上手く誤解してくれるだろう。無防備な私がいたら、きっと敵は、恐らく今回は刺客の中でも中枢の人物が襲ってくるだろう。そこを捕まえてやろうではないか。」
確かに。私は見た目だけは普通の人間だ。
今回の刺客を撃退した実力があることも、あの場にいた4人しか知りえない。
私と二人で歩いていたら向こうからしたら絶好のチャンスだわ。
「ミーアちゃん。この作戦は君にかかっている。襲ってくる刺客から、私を守ってくれないか。」
今まで茶化していた彼は嘘だったかのように、真剣に私の目を見つめてそう告げた。
この作戦。
聞けば聞くほど私にかかっている。
責任重大だ。
けれど。
これは私にしか出来ない。
私以外では絶対に出来ない。
これがフィンに対する最大の恩返しでもあるとも思った。
「任せて!どんな敵が来ようとも。私にかかればおちゃのこさいさいだわ。」
私は自分の手を胸に当てて、胸を張って堂々と宣言する。
「ありがとう。では今週末。さっそく仕掛けるとしようか。」
そうして今に至るわけであるが。
恋人のフリをすると言っても、ここまでする必要があるのかしら。
よくわからないけれど、エイリークの言うとおりに従うだけだった。
フィン、ダニエルは私たちが見える位置くらいのどこかに隠れている。
刺客とやらも見ているだろう。
色々な視線を感がると少し緊張してしまう。
ぷに!
「ん?」
エイリークは私のほっぺを人差し指でつん!ってしてきた。
「こらこら。よそ見しない。周りを見ると私たちが周囲を警戒しているのがばれるだろう。あくまでも自然体で。」
笑顔でそう言ってくれるエイリーク。
さすがは見られる仕事をしている王子様だ。
この状況で堂々としている。
けれど、エイリークが私のほっぺをぷに!っとした時。
殺意にも感じる視線を感じた。
もしかしてもう既に刺客が狙ってきている?
私が臨戦態勢に入ろうか考えているのに、エイリークは本当に楽しそうにしている。
この視線たまらないねーって。
いったいどういうつもりなのかしら?
王子様ってみんなこんな変な人なのかしら?
私は疑問に思っていたが、エイリークはじゃあお店を出ようかと飄々としていた。
人通りが多い中、堂々とエイリークは歩く。
「なんでみんなにばれないのかしら?」
私はコソコソと聞いてみる。
一応帽子や眼鏡、庶民の服装をして変装はしてはいるが。
「みんなこんな街中に王子がいるだなんて思わないだろう。堂々としていれば意外とばれないものさ。」
そう言いながらエイリークは私の手を握る。
「なんで手を握るの?」
「これも大事なことだから。」
ここまで親密にする必要はあるのか?と思っていたら再び刺すような視線を感じる。
こんなに刺客が殺気をもらすならば意味はあるのか、と納得はした。
この殺気を感じると、更にエイリークは上機嫌になる。
この人この状況わかっているのかしら?
何とも言えない雰囲気の中、私たちは刺客が襲いやすいように人が少ない裏路地へと足を踏み入れるのだった。
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