3 ポーション
「こ、これはハイポーションに使われる素材!市場にも滅多に出てこない貴重な葉をどこで!」
彼は驚いた様子でこちらに語り掛ける。
「どこって、そこら辺の大きな木に生えているわよ。」
彼の必死さに戸惑いながら答える。
「そこら辺?い、いや疑問はあるけれど今は治療に専念しなければ。」
自分の傷の深さを思いだしたのかすぐにその葉をカバンの中から取り出したすり鉢に入れて、元々持っていたであろう薬草たちと一緒に煎じ始める。
ゴリゴリ、無機質な音が森に響く。
私は今まで見たことないものが見られて少し興奮した。
「それはなに?今は何しているの?」
血まみれで作業している彼を覗きながら山ほどある聞きたいことを聞いてみた。
「これはポーション作りをする際の工程です。本当はもっと蒸留水を使ったり、必要なことがあるのですが贅沢は言っていられませんから。」
「ポーション?」
先ほどから言っているポーションとはなんなのかしら?
「ポーションとは薬草をそのまま食べるだけでは得られない効果効能を発揮することができる飲み物、みたいなものですね。」
「ふーん。」
その葉っぱをむしゃむしゃ食べたり、傷口にぺたっと貼るだけで大抵の傷は治るのに。
人間って思っていたより不憫な生き物なのね。
「よし、荒いけれど出来た。」
黄色い葉から作られたからだろうか、黄色い液体が出来たみたいだ。
その黄色い液体を彼は口に含む。
ぱああ。
彼の体が黄色く輝く。
「す、すごい。今ある道具だけで使っただけなのにこの効果。」
彼の傷口はふさがり、血は止まったみたいだ。
「早くこれを他の仲間たちにも。」
そう言うと彼はそのポーションを周りに倒れている仲間たちの口に注ぎ始めた。
3人ほど倒れていたが、3人とも血の気のなかった顔色がみるみる良くなっていく。
「良かった。本当に良かった。全員生きて帰れないとさえ思ったのに。」
安心したのか涙がぽろぽろ流れ始める。
手で目を覆う彼を私は傍らでしばらく見続ける。
しばらくすると落ち着いたのか、ふーっと息を吐く音が聞こえた。
「取り乱してしまって申し訳ございませんでした。まずは改めてお礼を言わせてください。」
そういうと深々とお辞儀をする。
「私はゴーレムをぶったたいただけよ。」
手を振りながら答える。
「それだけではありません。貴重なハイポーションの素材まで用意して頂いて。あれがなければ我々は全滅するところでした。出来ることは限られてしまいますが何かお礼をさせてください。」
正直ゴーレム殴って、木登りして葉っを千切っただけだからそんな恐縮しなくても良いんだけど。
でもせっかくだから一つお願いしてみることにした。
「貴方のことを教えて!」
私はキラキラした目で彼を見つめる。
「ぼ、僕のことですか?」
なぜ自分なんか?と戸惑う彼。
「貴方のこともそうだけど、私は人間の街の様子を知りたいの!」
「人間のこと?え、貴女は。。」
彼は不思議な様子で私を見る。
「あ、私鬼族なの!」
満面の笑みで答える。
「鬼族?!」
驚いた様子で私を見た後に私のことを上から下まで見る。
「た、確かに角があるし、トラ柄の洋服を着ている。自分に精一杯で気付かなかった。」
「牙もあるわよ。」
私は自分の口の端に人差し指を突っ込んで横に広げる。
「鬼族、伝説の存在だと思っていたけど実在したんだ。」
呆然とした様子で私を見ながらつぶやく。
「伝説?!私ってそんなかっこいい存在だったの?!」
きゃーきゃー一人ではしゃいでる私。
「なるほど、確かに鬼族であればあのゴーレムを一撃で倒したりするのも納得です。なぜ人間の街に興味があるかはわかりませんが私でわかることであればお答えしますよ。」
「本当?!嬉しい!」
自分がずっと憧れていた街の様子が知れることにテンションが上がる。
何を聞こうかしら。
倒れていた彼の仲間たちは傷が深かったのかまだ起きる気配はないため、2人で彼らを大樹の木の根元に横並びに移してから、彼らが起きるまでの間二人で話をすることにした。