28 エイリークさん
「ま、眩しい!」
その青い髪の美青年はピカーっと眩い光を発していた。
「み、ミーア?大丈夫?」
私がその青い髪の美青年から発せられる光を眩しがっていたら心配されてしまった。
当然である。
その光は私にしか見えないのだから。
「ふぃ、フィン!この人すごい光が輝いているわ!あとなんで背中に赤い薔薇を背負っているの?!」
これも幻覚の一種なのか青い髪の美青年はバックに赤い薔薇の背景があるように見えた。
「光?薔薇?どういうこと?」
フィンは私の言動がどんどんおかしくなることに益々心配しているようだ。
「ミーアちゃん?大丈夫?」
青い髪の美青年も挙動不審の私を心配して一歩近づいてきた。
「ぎゃああ!眩しい!!」
何故だかわからないが、彼の一挙手一投足の全てから光が漏れ出してしまう。
「面白い子だね。」
その青い髪の美青年はフィンに対して笑いながら話しかける。
「面白がらなくいいですから。」
これ以上からかわないでくださいとフィンはたしなめるように返答している。
「はあ、はあ。」
私は一旦落ち着くように後ろを向いてその青い髪の美青年が視界に入らないようにする。
そうだ、最強種族の鬼族でも、どうしても苦しい時が訪れる。
そんな時に心を落ち着かせる呼吸法があるって鬼姉が教えてくれたっけ。
今がその使い時。
私は大きく呼吸を吸ってから。
「ひっひっふーーーー。」
と教えられた呼吸法を繰り返した。
「「なんでラマーズ法?」」
フィンと青い髪の美青年が同時に疑問を投げかける。
「え、フィン。もしかしてもうそういう関係なの?」
「馬鹿言わないでください。」
フィンは呆れながら答える。
あ、なんだか落ち着いたかも。
何度目かの呼吸をした後に、最後に大きく、ふーーー。と吐いてからもう一度青い髪の美青年の方に振り返る。
「大変失礼しました。私はミーア。フィンの友達です。」
敬語なんてわからないけど、自分が思う精一杯の丁寧な口調で挨拶をする。
「ミーアちゃん。何で目を瞑っているの?」
そう、私はもう眩い光に惑わされないように目を瞑って視界を閉ざした。
鬼族の私にかかれば視界が遮られても声や音、五感を駆使して人や物をなんとなく把握できる。
「もう眩さに惑わされないためです。」
私は目を瞑りながらどや顔をする。
「ぶは!」
噴き出したかと思ったらあははは!と大きな笑い声が聞こえた。
「ふぃ、フィン!この子めっちゃ面白いんだけど!」
あはははと笑い続けながらフィンに話しかけたみたいだ。
「エイリーク様。その辺にしましょう。フィンがこれ以上怒る前に。」
フィンとは別の人が青い髪の美青年に声をかける。
目を瞑る前に青い髪の美青年の横に立っていた騎士だろう。
「フィンの顔怖っ!」
青い髪の美青年はそう言った後に、笑い声を整えて、ふー。と一呼吸置いてから。
「改めまして、私はエイリークです。」
きっと笑顔で挨拶してくれているのだろうが私には何も見えない。
「フィンのお友達って聞いているわ。」
「ええ、フィンの友人です。以前森の中で倒れていた私を助けてくれたとお聞きしました。ぜひそのお礼をしたいと思いまして。このようなところまでお呼びして申し訳ない。」
「い、いえ!すっごい緊張はしましたけど。お城に入るのは夢でもあったので。」
「夢?」
「ええ。絵本に出てくるお城に憧れがあって。」
「そうですか。それなら夢を一つ叶えられて良かったです。実はそこにいる私の従者である騎士が騎士長の息子でね。まあちょっとしたコネがあったのでこの場を用意できたのです。」
「そうなんですね。」
「ダニエルです。よろしくお願いします。」
ガシャっとした音が聞こえたので恐らくその場でお辞儀をしたのだろう。
目を瞑っている私に対してもきちんと礼儀を通すなんて騎士さんってすごい。
「ミーアです。よろしくお願いします。」
私も目を瞑りながらもお辞儀をして挨拶をする。
「フィン、この子凄いな。目を瞑っているのにちゃんと話しかけられた方を向いている。体の軸もぶれていないし。相当鍛えているのではないか?」
ぎく!
ちょっとした仕草で私の本質がわかるなんてこの人ただのイケメンではない?
「ミーアは元々体を動かすことが好きですから。」
フィンが代わりに言い訳をしてくれた。
さすがにこれだけで鬼族ってことはバレないか。
「ふーん。」
何故かそれでも怪しむエイリークさん。
「ま、いいか。とりあえず席に座ってお茶でもしようか」
「は、はい。よろしくお願いします。エイリークさん。」
私は騎士が仕えているということはこの人はやはり貴族だと確信したので呼び捨てで呼ぶことは避けた。
「え、ミーアちゃん。さん付けなんて寂しいことしないでよ。エイリークでいいよ。」
「そ、そんな、呼び捨てなんて!」
私は貴族を方を呼び捨てなんて出来ないと驚いてしまう。
「そうですよエイリーク様!」
「なんだフィン。私たちが親密になるのが余程嫌らしいな。」
わからないけれどニヤニヤした顔をしてそうな言い方だった。
「違います!貴方の立場を考えてですね!」
フィンはエイリークさんに抗議をする。
なんだかいつもの違ったフィンが見れて嬉しい。
私は少し緊張が解れたので目を開けてみようかなと思い始めたのだった。




