27 お城
「まあ可愛らしい。お姫様みたいですね。」
部屋の外で待っていた店員さんが私を見るなり褒めてくれた。
きっとお客さん皆に言っているのだろうけど、今はすごい嬉しい。
「さあ、行こうか。」
フィンは私の手を取って歩いてくれる。
慣れないドレス、慣れないパンプスに足がもつれそうになるが、フィンが優しくサポートしてくれる。
私がお姫様になれるなら、フィンは王子様だ。
私は幸せな気持ちでこのお店を出たのだった。
「次はちゃんと目的地に行くからね。」
フィンは馬車に乗り込むとそう告げる。
今度はちゃんとフィンのお友達の家に行くみたいね。
けれどこのちゃんとした格好ってことはやっぱり貴族のお家よね。
それってとっても緊張しちゃうわ。
私はなるべく緊張しないように窓の外に広がる城下町の景色を見ながら心を落ち着かせていた。
城下町で行き交いする人たちを見るとこちらも楽しい気持ちになる。
少しずつ緊張も解れて来た時、窓の景色がいつもと少し違うように感じる。
いつもよりもより中心部に馬車は走っている。
こんなに中心部まで来たの初めてかも。
貴族が住むってことだからお城に近い位置にあるのかしら。
私は外を見ていると少し疑問が浮かんだ。
さすがに中心部過ぎないかしら?
私の疑問をよそに馬車はどんどん、どんどん中心部へ入っていく。
あれ、このままだと。
あのお城にぶつかってしまうような気がするのだけれど。
私の目線の先にはこの街の中心部も中心部。
何しろそこを中心に城下町は作られているのだから。
そのありとあらゆる技術を駆使して作られていたであろう豪華絢爛なお城。
私があのお城を見た時はなんと興奮したことだろうか。
もちろん街の外れから遠目にではあるが。
鬼族の村にいた時に何度夢見たことか。
何度見てみたい、行ってみたい、王子様と会ってみたいと憧れたことか。
お城を見るということが現実に起こった時はあまりにも興奮してしまいフィンに迷惑をかけてしまったものだ。
私も大分この生活に慣れてきたからあのような過ちはもうしないと心に決めている。
まあ、私があのお城に入ったり、王子様と会うなんてことは起こりえないのだが。
ただ私のその予想はことごとく外れるのだ。
馬車はそのままお城の敷地の中に入っていった。
私は混乱した。
フィンに聞けばいいのだが、もう思考が止まっている。
まさか。
まさか。
お城の敷地内を走っていく馬車。
汗を流す私。
そんな私をニヤニヤしてみるフィン。
「ふぃんー。」
私はもうたまらず情けない声で彼に声をかける。
「ごめん、ごめん。ミーアの困った顔が可愛くてさ。」
「もう!可愛いなんて言葉では騙されないからね!」
とは言うもののやはり可愛いと言われると許してしまう自分がいる。
悔しい!
「ご覧の通り。今日の面会はお城の中で行うんだ。ミーア、憧れだったでしょ?」
「そ、そりゃそうなんだけど。想像するのと実際にするのはやっぱり違うって言うか。」
私は先ほど落ち着かせた気持ちはもう既に緊張していた。
貴族のお屋敷かと思ったらまさかのお城だなんて。
「私マナーとかまだよくわかってないよ。」
私が一番心配していることを言ってみる。
私にはまだ畏まった挨拶とか高級レストランでするマナーがよくわかっていないのだ。
きっとおもてなしのお茶くらいは出てくるだろう。
ちゃんとした対応が出来る気がしない。
フォークとナイフは外側から使うくらいしかわからないのに。
「大丈夫。そういうの気にしない人だから。ミーアはいつも通りにしてくれればいいだけだよ。」
フィンは優しくフォローしてくれるが私の緊張は増すばかりだ。
どんどん固くなってしまう私とは裏腹に馬車は遂にお城の正面玄関に着いてしまった。
ど、どうしよう。
フィンが先に降りてまた私が降りるのをエスコートしてくれる。
先ほどまで嬉しくて楽しかった行為だが今は何も考えることが出来ない。
降りた先には紳士服の男性が立っていた。
お待ちしておりました、とかこちらへどうぞ、とかなんとか言っていたが私の耳には届かない。
赤い絨毯がひかれた煌びやかで豪華な廊下を歩いているのだが、私の気持ちはもうここにはない。
とにかく変なことしないように、フィンの後ろをついていく、それしか考えられなかった。
あんなに夢見たお城は全く楽しむ気持ちにはなれなかった。
あわあわしている私はついにフィンの友人が待っている部屋にたどり着いたようだ。
先頭で案内してくれていた紳士服の男性は豪華な扉にコンコンとノックをする。
「入れ。」
中から声が聞こえた。
入れ、だなんて偉そうに支持するってことは相当偉いのかしら、なんてテンパっている頭の片隅で考える。
私は紳士服の男性が開けてくれた扉をフィンと一緒に入る。
入ったその部屋はお城と同様に豪華な装飾を施されたこれまた贅沢な作りになっている。
けれど不思議なことに嫌味な感じもしないのが部屋の持ち主のセンスを伺える。
「初めまして。ミーアちゃん。」
挨拶してきてくれたその部屋の主っぽい人が私に挨拶してきた。
その彼はサラサラした青い髪で、なんて形容していいかわからないくらいの美青年だった。
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