2 出会い
村を飛び出して森の中を走っていく。
森深くとなると人間の手が届いていないため大樹がたくさん生えている。
その大樹の隙間を軽やかにタンッタンッとかけていく。
身体能力の高さも鬼族の特徴だ。
「ふんだ!あんな筋肉だるまたちに繊細な私の気持ちなんてわかるはずないわ!」
怒りがなかなか収まらないまま森を下っていく。
「今まで行ったことない所まで行ってみよう。何か新しい発見があるかもしれないものね。」
私は変わらず軽やかに走っていく。
たまに魔物ともすれ違うが目もくれずに。
村を出てしばらくたった頃
「あれ、ここどこ。」
いつもと違う道を選んだり、怒りに身を任せて走ったせいもあって自分が今いる位置がわからなくなった。
「うーん、来た道を戻ってみる?」
どうしようか考えていた時。
ガシャーン!
大きな音がした。
なんだろう。
音のする方へ向かってみると石のゴーレムが動くのが見える。
あれって確か遺跡かなにかの前を守っているとかなんとか鬼パパが言っていたっけ。
遺跡に近寄らなければ何もしてこないっていう。
つまり遺跡に近寄ろうとしている人間がいるってことか。
人間!
見てみたい!
もう少し近づいてみようと歩みを進める。
すると茶色い髪を後ろで一つに結んだ男の人が石のゴーレムと戦っている。
戦うと言っても攻撃なんてする余裕なさそうだ。
周りには何人か倒れている。
複数人で遺跡の調査にでも来たのかしら?
どうしようか大樹の陰から見守る。
石のゴーレムが体を大きくのけぞらせる。
男性が身構える。
危ない!
私は考えるよりも先に体が先に動く。
右足で地面に思いきり蹴る!
ゴーレムがこちらに振り向く前に一瞬でそのそばまで飛ぶ、
「鬼パンチ!!」
ガシャーン!!
思いっきり右ストレートを石のゴーレムに叩きつけると大きな音と共に吹っ飛ばれるゴーレム。
ガラガラに崩れた体の上にトンッと立つ。
「あれ、思ったよりだいぶ軽かったわ。」
石のゴーレムだった石の塊たちを見下ろしながら呟く。
「あ、あの。」
声をかけられた先に振り向く。
ゴーレムに気を取られていて存在を忘れていた。
人間だ。
人間の男性だ。
「きゃー!初めて生きてる人間を見たわ!」
私の大きな声にその人はビクっとする。
しかしその後すぐに頭を下げる。
「どなたかは存じませんが、危ないところをありがとうございました。」
その人はそのように言うと膝をつく。
「大丈夫?」
私はその人に駆け寄り声をかける。
「え、ええ。少し血を流しすぎてしまったみたいです。」
よく見ると頭や手足から血が流れている。
「ここまで来るのにポーションも全て使い切ってしまった。私はもちろん倒れている仲間ももう助からないかもしれません。」
彼はうなだれ、止まらない血を見ながら答える。
「もし貴女が私の願いを聞いていただける優しい方ならば街に残した家族への伝言を頼みたい。」
彼は最後の頼みと言わんばかりに私に話しかける。
「いやよ。」
私の間髪入れず答えた返事に彼は目を見開く。
「そう、ですよね。すみません、助けてもらった上に図々しいお願いをしてしまいました。」
そういうと彼は紙の束を取り出す。遺書でも書くつもりなのだろうか。
「ちょっと待っていて。」
「え。」
私は彼に背を向けて軽やかに森の中を走っていく。
えーとこの中で一番大きな大樹はっと。
あ、あれか。
この森の奥地に生えている大樹には特性があった。
大樹の中にも上位がいる。
その上位の大樹は土の中の木の根を通じて周りから栄養を吸い上げている。
そしてその集めた栄養が凝縮された葉がどんな効果をもたらすか。
この辺りで一番大きな大樹を見つけた私はその大樹まで向かい、トントンと木を登っていく。
そして緑の葉の中に微かに輝く黄色い葉を見つけると無遠慮にそれをブチリと引き抜く。
そして軽やかな足取りで元来た道を戻っていく。
まさか戻ってくるとは思っていなかった青年は彼女の顔を見ると驚く。
「どうして。」
「これ傷口にくっつけてみて。何故だかはわからないけど傷によく利くの。」
私は先ほどとった黄色い葉を彼に渡す。