19 お礼
「あなたも懲りないわね。そもそも負けても別に付き合ったりしないから。」
このやり取りも何回目だろうか。
「うるせえ!俺は強い女が好きなんだ!あの時お前にやられてビビビ!っと運命を感じたんだ!!」
周りはやれやれー!と騒ぎ立てている。
「それでなんでミーア負けると付き合うことになるのさ?」
「フィン坊がいる時にケヴィンが来たことなかったっけか?ミーアちゃんがあまりにもしつこいから都合よく断るのに私に勝ったらねって言ったら真に受けちゃってよ。」
「はあ?」
「なんど負けてもめげずに勝負に来るものだから今やこの食堂の風物詩だぜ!」
「はあああ?」
フィンは驚きと呆れが合わさったような顔でこちらを見てくる。
そうこうしている内にケヴィンが勝負!と襲い掛かってきたけど、
私はいつものように軽くかわしつつ、ケヴィンの右手を持って背負投げをする。
すると衝撃でダーン!!と音が鳴ると同時に床にたたきつけられたケヴィンが横たわる。
「いえーい!ミーアちゃん最強!!」
「可愛いのに強いって反則でしょ!」
「ケヴィンまた頑張れよー!」
とまた口々にミーアへの賛辞が飛び交う。
私は勝利のポーズをしてその場を盛り上げればまた歓声が鳴り響く。
最近はこの風物詩を見たくて来るお客さんも増えている。
私なんかでこのお店を盛り上げることが出来るのならとっても嬉しい!
けれど、なんだかフィンはあんまり喜んでいない。。?
また知らず知らずのうちに変なことしちゃってるのかな私?!
フィンの様子を気にしつつ、営業終了の夜9時になったので閉店準備をするのだった。
「ミーア、この後少し話いいかな?」
閉店の片づけをしながら手伝ってくれているフィンにそう言われた。
「う、うん。」
なんだろう。改まって。
「そしたらここまででいいよ。後は明日の仕込みだけだから。二人とも今日もありがとう。」
マールおばあちゃんの優しさに甘えることにして、私たちは食堂の二階部分にあるリビングに足を進めるのだった。
私はもう勝手知ったる我が家のように、リビングに併設されているキッチンでフィンに温かいお茶を出す。
「はい、どうぞ。」
リビングのテーブルに座っているフィンに湯飲みに入ったお茶を差し出す。
「ありがとう。もうここはミーアの方が詳しくなっちゃったね。」
お茶を受け取りながら笑顔で言ってくれる。
「そうかも、マールおばあちゃんがね、なんでも教えてくれるの。でもこれも全部フィンのおかげだよ!」
先ほどの気まずそうな顔のフィンはいなくなったみたいで安心した。
「それで、話ってなーに?」
私はわざわざこのように改まって話す内容は何か聞いてみた。
「うん、実はね。ミーアにお願いがあって来たんだ。」
「お願い?」
フィンが私にお願いだなんて珍しいな。
「ミーアに初めて出会った時に、毒に侵された友人の話をしたのを覚えているかい?」
「あーフィンの友人が襲われた際に、別の友人がかばって毒のナイフで刺された?だっけ?」
私はあの時のことを思い出しながら話す。
「そう。その倒れていた友人があの時出来た特効薬でなんとか回復してね。今は日常生活を送れるくらいまで戻ったんだ。」
「そうなの!それは良かったわ!」
フィンのお友達が無事なことに心の底から嬉しくなる。
「フィンの話したいことってそのことだったのね。」
嬉しい話で良かった。
「あ、いや、それもそうなんだけど。それでその友人がお礼をしたいって言っているんだけど。」
「お礼?そんなのいいわよ!お礼ならフィンから十分にもらったもん。」
これ以上はお礼の供給過多になってしまうからいい!という意味を込めて手を胸の前でブンブンと振る。
「そうだよね。ミーアならそう言うと思ったんだけど。その毒で倒れた友人ではなくて、実際に襲われそうになった方の友人がどうしてもミーアにお礼がしたいってうるさくて。。」
「お礼は別にいらないけど、フィンが言うなら私は会ってもいいよ。」
それで彼の助けになるのならお安い御用だ。
「ごめんね。ちょっと面倒なことに巻き込んでしまうけど。」
「いいのいいの。気にしないで。私はフィンのためならなんでもするよ。」
「ありがとう。」
「でもフィンがさっき渋い顔してたのがお願い事のせいだってわかって良かったよ。何かしちゃったのかなって心配していたの。」
「さっき?」
フィンは先ほどのことをあー、と呟ぎながら思い出している。
「あれはミーアがケヴィンに負けたら付き合うって約束していたから。好きでもない人とそんな約束しちゃダメだよって思っていたの。」
フィンはしっかりと私の眼を見ながら言ってくる。
「そ、そうだよね。ごめん。私も好きな人としか付き合うとかしたくないし。」
私はケヴィンとそういうことになるつもりはないって弁解する。
すると私の返答にフィンがピクリと肩を動かす。
「ミーア。好きな人出来たの?」
「え?」
好きな人はフィンだよ。
でもそんなこと言ってもフィンが困るだけっていうのはわかっていたからなんて言えばいいかわからなくて固まってしまたった。
どうしよう。
何か言わなきゃ。
そう思っていたらフィンが先に口を開こうとした時、
ガチャ!
「あら、まだお話中だった?ごめんなさいねー。」
マールおばあちゃんが絶妙なタイミングで入ってきたことによってこの話は強制的に終了した。
あ、危なかったー。
ドキドキする胸を抑えながら、この気持ちはフィンにばれないようにしなきゃって思うのだった。




