16 ブラウン
そのコーヒーなる液体はとてもではないが飲めるようなものではなかった。
口の中目一杯に広がる苦みに耐えていた時。
「ふふっ。」
目の前のフィンが急に噴き出した。
「あははは。」
しまいには笑いだしたのである。
「ふぃ、ふぃんー。」
私は口の中にまだ残る苦みと謎に笑い出したフィンに困惑して泣きそうになる。
「ご、ごめん。ミーアが面白くて。あはは。」
落ち着いたかと思ったら思い出し笑いしたみたいにまた笑い出す。
「ゴホン!」
隣のマダムな女性がこちらを見ながら大きく咳払いをした。
よくよく見ると周りの人たちもこちらを見ている。
この静かな空間で賑やかにしていたらそれは目立つよね。
「「しー。」」
私たちは見つめあってお互い人差し指を自分の口に当てて静かにしなきゃって合図する。
すると周りの人たちは自分たちのテーブルへと視線を戻した。
安心した私はふー、と胸に手を当てて一息つく。
ふと見るとフィンはこちらを見ていて目が合った。
数秒見つめあった後に、声を出さないように笑いあった。
私、フィンといるこの雰囲気が好きだなぁ。
「ごめんね。ミーアが何を知ってるのかまだ把握しきれてなくて、コーヒーと紅茶を知らないってわからなかったんだ。特に何も聞かれなかったし。」
お互い落ち着いた後にフィンが私に気を使って謝ってきてくれた。
「ううん!店員さんの前で聞いちゃいけないのかなって私が勝手に思っちゃっただけだから。」
フィンは悪くないよってジェスチャーをしながら言う。
「そんなことないから、わからないことがあったらいつでも聞いて。」
「あ、ありがとう。じゃあ今さっそく聞きたいことがあるんだけど。」
なに?と笑顔で聞いてくれるフィンに今一番困っていることを伝えてみることにした。
「このコーヒー?苦くて飲めないの。。」
心底困っているという顔をして言えばフィンはまた声を出さないように笑ってから。
「そうだね。初めて飲む人にはブラックはビックリするよね。」
そう言うとフィンは一番近くを歩いていた給仕さんに目線を合わせながら片手を上げた。
そんなちょっとした仕草がすごく格好よく見えてしまう。
「いかがなさいましたか?」
フィンの合図に気付いた給仕さんはすぐにこちらに近づいて来てくれた。
「ミルクと砂糖をお願いします。」
「かしこまりました。」
フィンが頼み事をしてから給仕さんは一度下がった後に再度こちらに来て望みの物を持ってくれた。
フィンはそのミルクと砂糖を持ってきてくれた給仕さんにお礼を述べた後、私に向かってこれをコーヒーに入れてみるように言ってきた。
私は言われた通りにミルクと砂糖を黒い色したコーヒーに入れる。
そしてスプーンでかき混ぜる。
するとどうだろう。
黒い色したコーヒーが白い色したミルクと合わさって茶色になっていく。
「それでもう一度飲んでみて。」
フィンに促されるままに、私はあの苦みを覚悟して今一度口にしてみることにした。
ゴクリ。
「あれ、苦みが減ってまろやかになっている。」
先ほどの衝撃的な苦みを予想していた私は拍子抜けしてしまった。
「これはコーヒー豆って言う豆から作られる飲み物なんだけど。そのままだと苦いけれど、ミルクや砂糖を入れると苦みが中和されるんだ。他にも牛乳を入れたり、生クリームを入れたりするとまた違った味わいになってね、女性達が好んで飲んだりしているよ。」
そうなのか、フィンと同じものを頼めば正解だと思ったのは間違いだったのね。
一人心の中で反省会をする。
「コーヒーにはカフェインっていう成分が入っていてね。頭をスッキリさせたり、眠気を覚ましてくれたりする効果があるんだ。仕事中とかに飲むと捗るから僕はよく飲んでいるよ。」
なるほどなるほど。
飲み物一つでもいろんな味や効果があって面白いのね。
すいいつについてはまだわからないことはあるけれど、コーヒーについてはもう理解できたわ。
ミルクと砂糖が混ぜ合わさったものが私には合っていたから、ブラウンでって頼めばいいのだわ!!
私が自信満々にコーヒーをブラウンで!と頼んで大恥をかいてしまうのはまた後日として。
食事を終えた私とフィンはお店を後にするのだった。




