謎のイケメン宦官
女官に推理を披露した数日後。わたしの事は「人の過去が読める下級下女」と後宮中に噂されているらしい。その噂を知ったのは、わたしの友人・莱莱がその事について話していたからだ。「誰なんだろうね、会ってみたいなあ」と言っていた。口調から、どうやらわたしだとは気づいていなさそうだ。どうりでここ最近女官や下女がたくさん来るわけだ。その事は男性達にも耳に入っているらしい。少しずづ下男が訪れるようになった。別にわたしは超能力者でも何でもないのだけれど。
今日も仕事をし、三時くらいに終わって一段落しようとした時、女官がこちらに来た。わざわざ口に出さなくても分かる。わたしは一旦仕事を中断し、過去を読むならぬ、ちょっとした推理をする。
「貴方様はもしや、今日紅葉を見にいったのではないでしょうか。楼蓮館で」
「ええ、そうよ。本当にすごいわね。どうして分かったの?」
どうして分かったの、という程の事でもない。女官の髪に、紅葉や銀杏の葉がついていたから、紅葉を見に行ったと分かる。そして、紅葉を見に行く場所といえば、楼蓮館が絶景スポットとして有名だからだ。何でも、あそこの部屋から見る景色は最高だとか、お土産の紅葉型饅頭が美味しいのだとか。楼蓮館は後宮側の人間がよく行く場所だから、女官はそこに行ったのだと考えられる。それだけの事だ。少し頭を使えば、誰だって分かる話である。わたしが特別な能力を持っているわけないのだから。
女官はお礼に紅葉型饅頭をくれた。うわあ、うまそう。早く食べたい。
もちろん自分の部屋まで待てるはずもなく、パクっとその場で食べる。う~ん、うますぎる!本当にいいよなあ。推理しただけで饅頭が食べられるなんて。
紅葉型饅頭をたいらげると、顔だけいいような、日本で言ったらイケメンが、こちらに来た。こいつは宦官だろうけど、宦官が下級下女に何の用だよ?
「君が噂の枯娘さんか」
「はい」
「わたしが誰だかは分かるか?」
「……」
何だ、こいつの眼は。まるでわたしを試しているようではないか。やばいぞ、ここでヘマをしたら、鼻で笑われ、「わたしが誰なのかも分からないのか」と言われてしまう。
そんな事は御免だ!
かと言って、こいつは宦官というくらいにしか見えないが。
「貴方は宦官ですよね」
「ああ、そうだが」
宦官と言っても色々いる。下級宦官、中級宦官、上級宦官。こいつはパッと見た感じ上級宦官だと思うが、どうも引っかかる。
(こいつ、鍛錬をしていないな)
宦官は鍛錬をする人間だ。後宮を守る為に。だから宦官の手は決まって硬い。でもこいつの手は白く、ごつごつとしていなく綺麗で、女装してもばれなさそうな手だった。
(こんなに手が綺麗なんだから、宦官じゃないな、こいつ。なんで嘘ついてんだ)
手が綺麗な人といえば、女性か、男性でいうならば帝や東宮だろう。年齢的に考えたら、この男は東宮だ。
「貴方、宦官じゃなく、東宮の麗申様ですね」
「その通り。さすが噂の枯娘さんだ」
(はっ!何言ってんだ、そんな事はこれっぽっちも思っちゃいないくせに。このイケメン野郎)
「じゃあお礼は……」
麗申様は箱から包子を取り出した。
「どうぞ」
と言うと笑顔を振りまいて帰って行った。本来なら気持ち悪!と思うわたしだったが、眼は包子に釘付けになっていて、もぐもぐと食べながら、(アニメがあったら、倍以上に喜ぶんだろうなあ)と考えるわたしなのであった。