初の推理?
わたしは今、女達がたくさん居るとされている都の奥にそびえ立っている後宮に居る。
(結局、脱獄失敗に終わり、後宮で下級下女として働くだなんて……なんて最悪)
まあ来ちゃったものは仕方ない。大人しく後宮で働くとするか……と渋々思いながら一日を過ごしている。わたしの仕事は雑用で、午前中に頑張れば午後は暇になる。時間が勿体ないくらいだ。
(せめて商売でもできないだろうか?)
後宮の外に出ると上級女官や上級妃やらが商売をしているところを見かける事がある。上級妃はともかく、上級女官達を見ているといつも思う。暇なのか?と。
商売の中には、食べ物を売っているのもある。その食べ物は下級下女とかには滅多に食べられないものなのに、それが安く売っているのだ。いつも玄米と野菜しか食べられない下級下女は喜ぶのである。そう、例えば包子や饅頭とか。日本では当たり前に食べていた物が、ここでは手の届かない程高いのだ。饅頭一個で、わたしの給料五年分が飛んでいく程に。
「ねえ、わたしを占ってくれない?」
そんな事を考えながらぼうっとしていると、どこかで女性の声がした。声のしたほうに目をやると、女官が占い師に話しかけていた。あの女官、上級女官だな。
「はい。今一生懸命頑張れば、幸せな幸福が訪れるでしょう」
「まあ」と言いながら上級女官は顔を輝かせている。
はあ、とわたしは溜息が出る。何言ってんだか。占いなんて、そんなもん、嘘っぱちに決まってるだろ。本当だと思うほうがおかしいんじゃないか?
そう思いながら占い師と楽しそうに話している女官を見た時ふと違和感を感じた。
(この女官、服が濡れている跡がある。けど濡れているのは後ろの肩から結構濡れているから、ああ、この女官、さっきの雨の中早歩きでもして転んだのだろう。靴が女官の履いている靴と違うし。多分、新しく仕立てたばかりだな。それに、口に饅頭の欠片がついているしね)
真実が分かった直後、気づけば、わたしはその女官に話しかけていた。「ちょっといいですか」と。
「な、何よ?」
「わたしが、貴方のした事を当ててみせましょう」
「へえ?占い?」
「はい。まあそのようなものです。貴方はまず、饅頭を食べていた。だけど途中で大雨が降ってきたから貴方は慌てて帰った。帰っている途中にでもぬかるんだ土に足を取られて転んだのでしょう。違いますか?」
女官は驚いている。当たっていたようだ。
「ど、どうして分かったの?」
「ふふ、わたしには読めるんですよ、超能力がありますからね」
と誇らしげに自分で嘘を言う。
「そうなの。すごいわね。貴方」と女官は言うと帰って行った。
わたしは知らなかった。
まさか、わたしが数日後、とある事件を解決する事になるなんて。
この時のわたしは、まだ、知る由もなかった。