人攫い
「凛凛、文字が雑だ」
「……」
わたしの隣に居る兄妹達三人は、わたしのことを見て笑う。どうせ、九歳になっても未だに文字が綺麗に書けないんだなとか言っているのだろう。文字が綺麗じゃないのは仕方ないじゃん。日本でもそうだったんだから。めっちゃムカつく。本当は「うるさい!」と言ってやりたいのに、末っ子のわたしには何もできないという事を恨みたい。いつもバカにされてばっか。
お父さんは、自分が文字を書けるから娘や息子にも覚えてほしいという事は大体分かる。けどそういうのって、近所の人に自慢するようなものじゃん?わたしら近所いないのに、まだ九歳なのに、貧乏人が文字覚えたってしょうがないのに、お父さんはめっちゃ文字を教える。意味不明。
「次までに綺麗に書けるようにしとけよ」
そう吐き捨てるとお父さんはどっかに行ってしまった。お父さんがいなくなると兄妹達はわたしをからかい始める。
「だっさ。お前、字が汚ねえじゃん!」
「ちょ、ちょっと、やめてあげなよ」
やめてあげな、と言っている姉は、口で言っているだけであって、顔は笑っている。わたしは何も言わない。こんな時、お母さんが居たらいいのに、と思いながら。
わたしのお母さんは、わたしが四歳の時、天国に逝ってしまった。お母さんは唯一わたしの味方だった。お母さんが怒ったら、兄妹達も口を閉ざすから。だけど、お母さんは病弱だったから、病気にかかってそのまま、死んでしまった。
「うるさい」
一瞬、シンとなる。何驚いてんだ。わたしが声を発する事なんて、なかったから?
「お、お前、一番下なのに、いい気になりやがって!お前が居たから、母さんは死んだんだ!母さんを返せ!」
……何言ってんだこいつ。
なんでわたしのせいで死んだとか思っているんだ。わたしはなんもしていないよ。
「無理に決まって」
いるでしょ、と言おうとしたら、言葉を塞がれた。
「畑仕事をしてこい。それがお前の反省だ」
わたしはぺいっと家から追い出された。今日も畑仕事かぁ。
夜中の一時。みんなが眠りについた頃に、わたしは大事だと思う物をこっそり作ったトートバッグに詰めた。こっそり作っておいたのだ。そして、そーっと家を抜け出した。走るとばれるから。
服も替えるべきだったのだが、中々外に行く機会がなかったのだ。わたしは外に数えるほどしか言っていない。何でも、外に行くと人攫いが出るらしい。お母さんが言っていた。そうかな?今のところ、安全そうに見えるけれど。
わたしは歩き続けている。家から随分離れた筈なのに。そう不思議に思っていると、「よお」と前から男性の声がした。顔とか服装を見ると、盗賊っぽい感じがするけれど、人攫いだと直感で思う。怖い。逃げたくて後ろに後ずさると、わたしの後頭部に、硬い何かが、コチンと当たった。見なくても想像は大体つく。拳銃みたいな物を突きつけられているのだと思う。多分。後ろにも仲間が居たんだ。気付かなかった。
逃げる暇もないまま、わたしは黒い布を被せられた。