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情けは人の為ならず

作者: ゆき

とあるおじいさんのお話。


 おじいさんは、人には親切にするものだと信じていました。

 それに、おじいさんは友達が欲しいと思っていました。

 おじいさんは、いつも近所の人に明るい笑顔で話しかけていました。

 近所の人達も、明るい笑顔で挨拶を返し、おじいさんと楽しく会話をしていました。


 ある日、おじいさんは少年と出会いました。

 その少年は、町一番の不良で、既に自分自身を見限っており、将来に何の望みも持っていませんでした。

 しかし、おじいさんはその少年の吐き出す不安などの言葉に黙って耳を貸し、時に励まし、慰め、いつしか少年は少しづつ自分の将来に光を見出し、のちにちゃんとした仕事に就くようになりました。少年はおじいさんに深く感謝し、仕事先の上司などに「自分にとって一生の恩人です。」と常々こぼすほど、生涯忘れることはありませんでした。


 またある時、恋に深く傷ついた女性と出会ったおじいさんは、女性の気持ちが落ち着くようにと、温かいスープをふるまってやり、いつまでも耳を傾け、時には友のように、女性が立ち直れるまで、手を差し伸べてやりました。女性もおじいさんに深く感謝し、その後、女性の周りで同じく、落ち込むような人が現れたら、おじいさんの事を思い出し、同じように、ずっと話に耳を傾け、手を差し伸べてあげるようになりました。


 このように、おじいさんはいつも明るく親切に振舞い、必要とあらばいつでも全力で手を差し伸べ、傍らにいてやりました。

 おじいさんは、誰かが立ち上がりまた歩き出すためには、何度も背中を押してやり、送り出してきました。みんなが歩き出すのを、おじいさんは心から喜んでいました。

 街の人達もおじいさんを慕い、心から感謝し、何か落ち込むことや不安なことがあると、すぐにおじいさんを尋ね、相談しました。みんなの傍にはおじいさんがいました。


 ある日、おじいさんは急な発作に襲われました。息苦しくて、膝から崩れ落ちたおじいさんは、薬を取ろうと戸棚の方へ向きましたが、苦しくて体が進みませんでした。


 誰もいない部屋で苦しみもがくおじいさん。


 手を伸ばしてはみますが、もう少しという所で、届きません。もう力尽きそうになり、諦めたおじいさんは、そのままゴロンと仰向けに寝転がり、天井を見つめながら、荒い呼吸で最後に一言つぶやきました。


「そうだ、みんな送り出してあげたんだった。」


                                     


                              (終)

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