自サツ
扉を開けたらブワッと風が吹いてきた。
日が山へと隠れていき、空全体が美しいグラデーションを奏でる。
唐突に泣きたくなって、逃げ出したくなって物思いに耽ることにした。過去に還って行く。
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居場所がなかった。
家にも学校にも。家はキレイだけど、見た目だけ。
中に入ればグッチャグチャ。母さんの心と一緒。
慣れない土地で友人も居なくて、言葉も通じなくて大変だったって。同情は出来るし、理解もできるよ。
でも、母さんは学生時代、沢山楽しんでキラキラしてたんでしょ? 友達が沢山いて、今でも韓国に行ったら会いに行く友達が何人もさ。じゃあ、良かったじゃん。
僕は、育った町で、言葉も上手く話せたよ。でも、誰とも通じ合えなかった。この先、誰とも合うことは無いね。
父さんが言うくだらない冗談が好きだった。でも、ある時から全然話さなくなった。それに変なことで、母さんに怒るようになった。
きっと会社が大変なんだよね。上司に怒られたり、同僚や取引先と上手くやり繰りしたり。父さんも人間関係が下手なの分かるんだ。でもね、もっと色々話を聞いて欲しかったし、母さんと仲良くしていて欲しかったな。
教会っていう、良く分かんない場所にもよく連行されたっけ。日本に居場所がない母さんは、そこに居場所を見つけれたみたい。
そこでは、天国・地獄とか、キリストのみが神で、信じた者だけが救われるとかよく言ってたね。
神様は人間が悪い事するたび、虐殺して、選民思想的に天国行きを決めるなんて、なんとも器が小さいもんだと思ったけど。
その場所は母さん的には天国だったんだろ。
僕には燃える灼熱の地獄の中と、大差なかったけど。
教会っていうのは面白いもので、今考えてたら社会的弱者が多かった。そりゃ当然だ。1%も信者がいない国で、マイナーな神に縋るなんて狂ってる。
そんなとこに通う人は、人生は努力しなきゃダメだって分からないみたいだ。子供ながら直感的に分かってたのに。しかも聖書で例え話を使って、分かりやすく教えてくれるのにね。
自分の家庭環境や、教育環境。階層や社会的地位とかね。今で言う親ガチャかな? 30超えてもまだそんなこと言ってるの、笑えるね。
そんな人達が子供を産んだらどうなると思う? そんな人達が育てた、子供たちの輪に入る僕は?
中学生で相手を妊娠させて、親に殴られたって笑ってたやつも居たな。みんな笑ってたよ。まあ、殴って教育ってのはらしいか、そこが笑うポイント?
僕は何も面白くなかった。地獄に落ちるのは、こういう人間だと良いなって思った。
まあ、キリスト教的には、僕みたいなのが落ちるらしい。ダブルミーニングだね。
学校は、あまり楽しい場所じゃなかった。人は見た目と世間体で、友達を選ぶんだという常識を教えてくれた事くらいだろうか。
先生とは、給料少ない癖に多忙で、まずまともな大人がなる職じゃない。そんな狂った職につく人は、大多数が人を不快にさせ、理不尽を押し付ける天才だ。
さしづめ、学校にいい記憶があって先生にでもなったのだろう。羨ましいね。
とにかく、彼らの理不尽さは凄いんだ。相手が先に殴って、抵抗して殴っても、両方悪いと言い出す程度には。
通り魔にでも刺されて、無抵抗にタヒねばいいのに。
子供は無邪気だ。デブにはデブと言うし、ブスにはブスという。それは心地良い世界ではあった。
その矛先が自分に向かっていない間は。
あだ名はネガティブだった。分かりやすい。大人も子供を見習うべきだ。
あいつは差別主義者、あいつはオタク、あいつは行き遅れ。心の中で思ってるんでしょ?
僕はハーフだった。韓国人の。
田舎なのが良くなかったのか、それとも母が日本の常識をよく知らないのが原因か。
或いは、変に厳しく変に甘い教育が悪かったのか、早生まれで機敏に疎いからか。
昨日まで仲良くしてたのに、気が付いたら距離を取られ。一昨日まで笑い合ってたのに、今日には忌み嫌われる。
誰だってそうするさ。子供なんて、親がなんか言えばそれに従うだろう。
大人もそうさ。付き合う相手の基準は、自分の利になるかどうかだけ。
結局、友達って言ったって、自分にメリットがあるかどうかなんだ。一緒に居て楽しいとか、喜びを分かち合えるかとか、共に成長しようとか。相手の心なんて分かんないくせに。自分の為でしょ? 全部。
自分が楽しい。自分が喜べる。自分が成長できる。自分、自分、自分。ぜーんぶ自分の為じゃん。
そんな身勝手なことを、友情とか切磋琢磨とか、虹色に煌めく甘ったるいケーキみたいな言葉で良いことみたいに言って。
気持ち悪い。
大人になって友達がそれなりに出来たさ。友達って簡単にできるんだよ? 無知なふりをして、楽しむふりをして、共感するふりをして、寄り添うふりをして。
あ、いいテクニック教えてあげるね。有益な事を教わったフリが一番効果的なんだよ。
だからさ、お前も為になったフリしろよ。
最初から知ってましたみたいな顔しやがって、バカのくせに。
まあ相手がそう思ってるだけの友達さ。一生勝手に思ってろ。
そうやって、人間がどんどん嫌いになった。家にも学校にも教会にも、居場所が無い。信頼できるような友人も居ない。僕は、図書館に籠もるようになった。
小学生ながら、チェルノブイリ原発とかエイズについてとか、色んな本を読んだ。その中でも特に好きなのは偉人伝だった。
彼らは僕の周りの人とは違った。自分の周囲のことに流されないで、自分の理想や趣味に没頭して。他者評価や世間体など気にせず、自分の信念や心の赴くままに動く姿に憧れた。
ナイチンゲールのような、情に厚く改革を進めれる人間になりたかった。
信長のように、我を貫ける人間になりたかった。
他人の努力を否定できる程の才能が欲しかった。
人を愛すことのできる人になりたかった。
人に優しく接したい。仲良くなりたい。強くなりたい。自分という存在を知らしめたい。皆に必要とされたい。居てもいいって言ってほしい。誰かの唯一無二になりたい。みんなに好かれてみんなを心から愛したい。
そう思ってた。いや、そう思ってる。
今でもそう思ってる。
だけど、そうはなれないみたいだ。
僕はそんな歴史に残る人間にはなれない。Wikipediaのちょっと載る程度のマイナーな人間にもなれないだろう。
僕は人が嫌いで人が好きで、自分が嫌いで自分が好きで。好かれたくて、嫌われたくなくて。でも、こんな自分を好いてくれる人が居ないって気付いて。僕もみんなのような自己中心的な人間なんだろう。
好かれる努力をして、見た目を気にして、金にそこそこ余裕があって、子供が好きで、教育に関心があって、噂話に聡くて、いつもポジティブなことを言って、人の善意を信じれるような。
みんなもそんな人間が好きなんでしょ?
僕もそんな人間が好きだよ。成ろうと取り繕うのは、苦痛でしかないが。
だから、キリスト教徒でも来世を願いたいんだ。次は人が好きで、変に違和感を持たない人間でありますようにって。
少し肌寒い風が通り過ぎ、遠く離れた地面をハッキリと見下ろす。
そして、誰に言うでもなく呟いた。
「さよなら。」
もし学校が辛いなら、完全に休んでいいと思います。正直大人になるまでに、お金稼げるようになればいいんです。
僕も学生時代が悲惨で、どんどん精神病んで、一番酷いときは挨拶されただけで恐怖してました。提出物出さなくて、職員室で公開処刑されながら「学校なんて最初から行きたくなかった」って言って、号泣した記憶もあります。恥ずい。
でも、社会人になってから、なかなか人生面白くなって来たので、もうちょっと未来に希望を持って生きて欲しいなって。
世の中、案外優しい人多いですし、相談や愚痴くらいなら乗れるんで、Twitterの@Drawinger0096(uni)って人に話してみて下さい。
大人も案外子供で、思ってるより大人らしい大人って居ないです。みーんな案外子供です。大人のフリが上手いだけです。
だから、あんま気負わず気楽に生きて下さいね。
死なないで。
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現実を多少薄めてます。だいたい現実の方がフィクションより悲惨です。
知り合いに車ぶつけ合って、ほぼ殺し合いの夫婦喧嘩した人。酔ってるときテラスで「私と愛人どっちが大事なの!!」って言いながら、足滑らして落ちて死んだ、1児の母とか居ます。
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たとえ家族でも分かり会えないことも多いし、あなたにとって毒である事もあります。
その時は1回縁を切っちゃっていいと思います。
いつか分かり会える、或いは許せる。許せなくても、ほどほどの距離で付き合えるようになります。