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首の世  作者: しめさば
4/5

3

金崎桐人(かねざききりと)という若者を見てから、桜木はどうも落ち着かなかった。

彼の行く末など知ったことではない。

自分がどうこうできるものでもない。

彼と私は、今後一切関わらない人生を歩むだろう。

桜木は自問する。

どうして私は、彼と自分とを、こうも切り離そうと躍起になっているのだろう?


知っているからではないだろうか。

デバイスがなければ、私も、彼と同じような人種だったと。

彼の吃音を聞いて、嫌な思い出が蘇ってきた。

身体の大きなクラスメイトのいやらしい笑顔。

取り巻きの眼が、私を蔑んでいる。

身体が燃えるように熱くなる。

屈辱を強制された日々。


「ただいま」

「あら、おかえり。どうしたの?」

妻がリビングで、テレビを見ながら、子どもを膝の上にのせて、授乳していた。

「いや、ちょっとね、疲れちゃって」

「あはは。そういう日もあるよね」

子どもに向けるのと同じように、優しく慈愛に満ちた視線。

向けられた桜木は、にわかに安寧を覚える。

あの頃の屈辱は、遠い昔の話。

今はもう、安心して良いのだ。

彼らの手が私に届くことはない。

しかし、よぎる。

現在もなお、屈辱を受けているかもしれない彼は、今、いったいどこで何をしているのだろう。

「うちの天使にプレゼントを買ってきたんだ」

桜木はおもむろに小箱を差し出す。

両手の塞がっている妻は受け取れない。

「えー? プレゼントって、早すぎじゃない? まだ3ヶ月だよ」

「でも、絶対この先、必要になるものなんだ」

サイズからして、おしゃぶりか靴下あたりだろうと予想していた妻は、開けられた箱の中身を見て、眉を顰めた。

「ちょっと、何、これ」

「蒼月、私のより新型だ」

『良い買い物をされましたね』

ベルベッドの谷間に挟まった小さなチップには、白文字でバージョンを示す“3“の印字がなされていた。

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