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雑踏。
交差点を行き交う人々は生き生きとして見える。
なにせ自分の足で立って歩いているのだ。
僕も傍目からはそう見えるかもしれない。
笑っている人が羨ましくて仕方がない。
『すみません。さきほどは、翻訳と、文章生成がうまく、いかなくて』
アカネが謝った。
「いいよ、悪いのは僕だから」
短く言って、信号を見ると、青になっている。
立ち止まる彼を人々が追い越していく。
一様に彼のことを振り返り、睨んで去っていく。
「もう、いいかな」
『まだ、諦めないでください。次こそは、ちゃんと』
「自尽組合に、申請を」
『キリト、だめ』
踵を返し、植え込みの脇に座り込むと、こめかみに手を当てて、通信を試みる。
「君に、主人の行動を制御する権限はないだろう」
力無く笑う。
『やめて、キリト。まだ、私はあなたと話がしたい』
「もう、十分話したよ。あ、も、もしもし、じ、自尽、組合ですか?」
彼の発話を邪魔するように、茜7号は脳内を騒がしくさせた。