プロローグ
「志望動機を教えてください」
「え、あ、はい。えっと……」
黒服の男たちに取り囲まれた若者は、沈黙している。
「どうしました?」
「す、すみません。えー……」
再び沈黙。
面接官は履歴書に記載された「使用デバイス」の欄を確認する。
「茜7号……?」
それは聞き馴染みのない機種だった。
学生が退室した後、人事部長とその補佐が小声で話している。
「旧世代の性産業アンドロイドに組み込まれていたAIのようですね」
補佐の桜木が、ネットワークに接続して調べた情報を述べた。
部長は知っていた口ぶりで言う。
「どこから仕入れてきたか知らないが、あんな性能で、ろくに勤められるわけがないだろう」
部長は笑い、桜木は悲しげな表情を浮かべた。
「しかし、電子テストはパスしています」
それが何だ、と言いたげな表情で、部長は次の学生の履歴書に視線を落とす。
書類をいまだに電子化しないで肉眼のスキャンに頼るあなたも、たいがい旧世代だと内心で謗った。
「何か言ったか?」
部長の視線に、桜木の心臓は飛び跳ねた。
『大丈夫です。ハックは検知されていません』
桜木の脳内で女性の声がする。
彼の使用する蒼月2.0の声だ。
「いえ、何も」
安心した桜木は、白々しくも部長に笑みを浮かべた。