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魔王はなぜ死ななければならないのか  作者: For AP
第二章 始まりの村
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6話:4歳の体

 「何もしないっていうのも時間が勿体無いし、早速だけど魔法の練習をしてみるかい?」

 「はい!お願いしてもいいですか?」


 師匠――ダインさんは話が早くて助かる。俺とダインさんが師弟関係となった後、すぐに魔法の練習の提案を受け、早速練習は始まるのだった。


 「もちろんだとも。じゃあこの椅子に座ってくれ、近くで話そう。」


 そう言って師匠は立って話をしていた俺に、優しく対応する。そしてゆっくりと近くにあった本の積み重ねられた椅子をガシッと掴み、無理やり引っ張りだそうとした。


 「あぁ――――あぶないですよ師匠!崩れちゃいますって!」

 「大丈夫大丈夫、よっと」


 力技で無理やり椅子の上からどかした本の山を、他の本の山に積み重ねて片付けていく。なるほどこうやってこの家の惨状は形成されてきたのか。第一邪魔なものを寄せているだけで、片付けているとはいえないから、師匠がこういった少しズボラな面を出すたびに、綺麗好きな俺は毎度ムズムズした感覚を覚える。


 「はい、どうぞ座ってくれ」

 「ありがとうございます」


 用意してもらった椅子に埃が溜まっていたので、近くにあった雑巾でコッソリと拭う。……なんでこんなところに雑巾が落ちているんだ……そして師匠と俺は部屋の端にしまい込まれていたテーブルを引っ張り出し、対面するように座った。


 「じゃあ早速授業を始めよう!魔法を扱う上で重要なのは何かわかるかな?」

 「魔力ですよね?魔力がないと魔法は使えませんから」


 魔力が実際にどういったものなのか異世界生活4年目にしても未だわからないけど、この世界ではありふれたエネルギー源として様々な分野に利用されているらしい。実際にうちにも魔力を用いて料理用の火を生み出す魔力コンロという魔道具があるしな。


 「まぁそれもそうなんだけど、生物としてこの世に生を受けているならば、ほぼ例外なく魔力を持っているんだ。村の人もみんな魔道具を使っているだろう?」

 「……確かにそうですね。農業とか土木作業にも魔道具を使ってますね」

 「魔道具を使えるということは、魔道具を動かす魔力が使用者に存在しているということだね」


 俺も最初は魔道具と聞いて高価なものなのかなと想像したものだが、意外と安価に取引されているらしい。森の中のこのオリガン村でもありふれたものとして普及していた。最も、希少価値の高いものは目が飛び出るほどの高値が付くという話だけれども。

 

 「だから、魔法を使うという目的だけならば魔力自体はさほど重要ではないんだよ。それに、魔力を使わずに魔法を使う術もあるしね」


師匠は重要な内容を強調するかのように一呼吸いれ、タメを作る。そして人差し指を立てながらゆっくりと語りだした。


 「だからこそ、魔法を使う上で必要なのは想像力なんだ」

 「想像力……ですか?」

 「体内にある魔力を知覚、制御してイメージをもって魔力を魔法に転化する。これが魔法の基本であり、真髄でもある。この基本が程度の規模、精度、速度で行えるかというのが使い手の技量だね」

 「もっとややこしいものだと思ってましたけど、意外とシンプルなんですね」

 「これは入門編ってことで簡単に説明しているからね。難しく説明しようと思えばいくらでも話はできるんだけど……魔法を使う分にはそこまで必要のない知識だ。研究職に就くとかじゃなければね」


 まぁ確かにゲームの登場人物たちは勉強をせずとも使えているような気がする。それに天才みたいな感覚派の人間だったら理論なんて必要なさそうだし。でも魔法って言ったらあれが足りないよなぁ……


 「呪文は必要ないんですか?」


 ここでふと感じていた疑問を口にする。ゲームの影響もあって魔法って言うと呪文を唱えて使うのを想像していたんだけど……違うのだろうか?母さんが家事で魔法を使う時は呪文のような文言を口ずさんでいたののを覚えているんだけど。


 「呪文か…よく勉強しているね」

 「勉強をしたわけじゃないですけど、母さんが魔法を使う時は呪文を唱えていたので……」

 「うん。確かに魔法を用いる際には呪文を唱えるのが一般的だね。だけど、呪文の意味自体が、人の想像力を発音によって補強することにあるんだ」


 まだ魔法を使えるわけじゃないから何とも想像が難しいけど、魔法を使う際のルーティーンとして呪文が存在しているという解釈でいいのだろうか?


 「だから十分な想像力が元からあるならば、呪文は必要ないということですかね?」

 「そうそう!!よくわかったね。だから極論を言って仕舞えば、呪文は不純物でしかない。ということで私はアルガには呪文に頼らない魔法の使い方、無詠唱魔法を学んでもらいたいと思うんだけど……どうだい?」

 「その方が強くなれますかね?」

 「間違いなく。難易度は上がるけどアルガなら覚えられると思う」

 

師匠の自信に満ちた言葉を聞いた俺は迷うことなどなかった。


 「無詠唱魔法を教えてください!」

 「わかったよ。とはいっても最初は呪文を使ってもらって構わないんだけどね」


 え……何の話だったのさ……そう思っている俺を尻目に師匠は、話を戻そうといってテーブルに肘をつく。


 「少し脱線してしまったけど、つまりアルガはまず魔力の知覚ができるようにならなくちゃいけない。そうしないと魔法を使う段階にすら至れないからね」

 「魔力の知覚ですか?そんなに簡単にできるものなんでしょうか」

 「まだアルガは4歳だから少し難しいかもしれないな。大体の子供たちは宿命がわかる8歳ごろには魔力が成長して自然と知覚することができるようになるものなんだれど……流石に4歳じゃあ魔力は成長しきってなさそうだしね」

 「えっ?何とかなるんですよね???」


少し不安になってきたんだけど……俺はできるだけ早く強くならなきゃならない理由があるんだ。そんなところでつまずいている暇はない。


 「多分大丈夫だと思うけど、早速やってみるかい?」

 「はい!早く練習したいです!」

 「うむ、元気よし。じゃあ心の臓の近くにある魔力の源を探してみようか。まぁ……いきなり言われても難しいだろうけど試してみよう。


 師匠は自分の左胸を指さしながらトントンと叩く。全く想像できてないし、あんまり自信はないけれどもとりあえずやってみるか……


 「じゃ目を閉じて、瞑想しよう。少しずつ体の中にある違和感を探すんだ。集中力が大切だよ」


 瞑想っていうとやっぱり座禅のポーズかな?宙に浮いた短い脚を引き寄せ、椅子の上で座禅を組む。そして目を閉じて…集中、集中……………


 「イメージする場所は左胸、心臓の近くだよ」


 心臓か…難しいな……全くわからない…いやいや集中!…………違和感を探すんだ。


 








――――――――――――――――




村の人々が一時仕事を行う手を止め、昼食を食べるために帰宅し始める頃。魔法を練習するつもりでいた、赤い髪の少年は眠りこけていた。


 「うーん……お腹減ったなぁ」


ムニャムニャと気持ち良さげに口元を歪め、呑気に寝言を口に出す。


「ア……、ア……ガ、アルガ!!」

「うわっ!!」


(びっくりした!!あれ?ダインさん?いや師匠か。ん?ここは……ヤベッッ) 


 声をかけられながら、体を揺すられ目覚めたと思ったら眼前には師匠の顔がある。ベットに寝かされていたことも相まって、状況把握は早く、一瞬で目が覚めた。


 「……寝てました?」

 「そりゃもうぐっすりと。大きな声を出して悪かったね」

 「いえいえ僕が悪いです!すみませんでした!!」


 怒らせてしまっただろうか?……申し訳なさと情けなさで肩身が狭い。思わず謝り倒してしまった。しかし、師匠は全く気にしていないかのように、楽し気に笑う。


 「フフッ……仕方ないよ、まだ4歳だもの。大人びていたから忘れてしまっていたけどね」


 中身は成人済みなんですけどね…いや恥ずいな。


 「すみません……わざわざ教えてもらっているのに」

 「気にしなくていいよ!責めているわけじゃないんだ、まだまだ始まったばかりだからね」


 優しすぎて涙が出そうだ。この優しさに甘えていては腑抜けた男になってしまうんじゃないだろうか。……師匠ってもしやダメ男製造機か?


 そんな失礼なことを考えていると師匠は唐突に俺の頭を撫で始めた。どうにも撫で心地が良いのだそうだ。両親も同じようなことを言って俺の頭をよく撫でてくる。


 「気持ちよさそうに寝ていたところ悪いと思ったんだけど、もう昼時だからね。そろそろ帰らないとじゃないかい?」


 忘れていた!早く帰らないと今度こそ飯抜きになってしまう!それにシトリーとの約束もあるし!

 

 「そうでした!早く帰らなきゃ。じゃあまたお邪魔しますね!」

 「あぁ待っているよ。そうだ!空き時間にでもさっきの訓練をしてみてね〜」

 「はい!やってみます!」

 「またね〜」

 

 ヤベー…時間大丈夫かなぁ。まさか修行中に寝ちまうとは……気を引き締め直さないとだ。


 寝起きでぼんやりとした体に鞭を打ち、できる限り急いで家へと向かう。今度はおにぎりでも作って持ってこようかな?そうすればお昼も帰らなくて済むんだけど……師匠に迷惑かな?





 数分後家に辿り着く頃には、もう急ぎ過ぎて、息も絶え絶えであった。く、くるしぃ…体力が全然足りねぇ……

 

 玄関の柱にもたれかかるようにしてドアを開いた。


 「た、ただいまぁ。」


はぁはぁと自分の口から喘ぐように空気が漏れる。

 

 「あら、遅かったわね。そんなに急いでかえってきてももうごはんは無くなっちゃったわよ」

 「え!そんなぁ」


 こんなに急いで帰ってきたのに……あまりにも無慈悲だよ母上……


 そうして悲壮に暮れていると、母上は俺の顔を見て笑いを耐えかねたかのようにクスクスと声を漏らした。


 「ウソウソもちろん残してあるわよ。ほら汗を拭いて椅子に座って」


 母上は、笑顔で濡れたタオルを手渡してくる。


 なんだぁ嘘か……育ち盛りの子供から食事をとりあげるなんて冗談はあまりにも酷だよ……ほっと胸を撫で下ろしながら、走って汗をかいた体を濡タオルで清め、火照りをとる。


 「でもシトリーと約束があったでしょう?約束はちゃんと守らなきゃダメよ?お兄ちゃんなんだから」

 「ごめんなさい。だからそれやめて……」


 母上は俺が何かしらポカをやらかすと頬を人差し指でツンツンと触ってくるのだ。なんでも、普段はしっかりしたいい子なのに怒るとしょぼくれるのが可愛らしいとのこと。……同年代の人に怒られるのって思ったより辛いんだよ?口には出せないが、怒られる時は毎度虚しい気持ちになっているのだ。


 それに修行をしている時に寝てしまうとは自分でも思わなかったんだよなぁ。


 「はい。よく反省できました。じゃあすぐに用意するから待っててね。」

 「あい」






 数分後用意された美味しい昼飯を勿体無いとは思いつつもかき込んで、子供部屋へと急ぐ。どのぐらい待たせてしまったのだろうか?部屋の中ではシトリーが1人で遊んでいた。


 「あ、にいたんおかえり」

 「ただいま。待たせてごめんな?」

 「だいじょぶだよ。おにいたんいつもいっしょにいてくれるから。おそとたのちかった?」


 我が愛妹はこの歳にして思いやりに溢れているなぁ。愛しさが爆発して思わず、頭を撫でてしまった。サラサラで触り心地がいいなぁ。これが師匠や母さんの気持ちか……


 「うん、すごい楽しい時間だったよ」

 「いいなー。シトリーもおそとであそびたい」

 「……にいちゃんが外で遊べるようにしてやるからな」

 「ありがと、おにいたん。でもしとりーがまんできるよ。にいちゃんのおはなしたのしいし、えまちゃんよくきてくれるもん。さっきだってじるくんといっしょにきてたんだよ?」

 「そうなのか?後でお礼言っとかなきゃだなあ」


 本当に大人びた幼なじみたちだと思う。エマとジルドは俺の幼なじみでまだ4歳と6歳のはずなんだけども、俺よりもしっかりしていそうでならない。まぁエマは年齢相応にかまってちゃんだけどな。


 「2人と何をして遊んだ?」

 「おにんじょうあそびをしたの!ジルくんがまものでしとりーとえまちゃんがゆうしゃ!」

 「おおそうか、ちゃんとやっつけたか?」

 「うん、ぼこぼこにしたよ」


 あぁ哀れなるジルドよ、話を聞いただけでアイツの苦悩が感じられる。今度お菓子を譲ってやるとしようか。あいつガキ大将気取っている癖に、自ら率先して面倒ごとに首を突っ込むタイプだからいっつも損をしてるんだよなぁ。


 「そうだ!しとりーにいたんのおはなしがききたかったの!」

 「悪魔のお話の続き?」

 「そう!たのしみだったの!」

 

 そう言って立ち上がったシトリーはベットに座る俺の足の間に腰掛け、話の続きをせがむ。どうにもこの位置がお気に入りらしい。


 「ええっとどこまで話したかな?」


 妹の寝物語がわりに前世で楽しんだゲームのストーリーを話しているんだが、思った以上に気に入ったみたいでよくせがまれるのだ。最初のうちは童話だったりをよく話していたんだけど、次第にネタ切れになって困った俺は、前世の偉大なる作品に頼ってしまったのだった。ちょっと3歳の女の子に話す内容ではなかった気もするけど、気に入ってもらえたようなのでよかったか。


 「まおうになるとこ!!」

 「あぁ思い出したよ、ありがとう」


 ちなみに今話しているゲームは俺の大好きなデモンズクエストだ。ちょっとひねられた作品で魔王が世界を救う話なのだが、実際に勇者と魔王が存在する今世はちょっと教育に悪いかな?


 「男の子は幼馴染の女の子に言いました。俺を殺してくれ―――――――――――――――




 そうしてシトリーにお話の続きをしてあげていると、次第に寝息が聞こえ始めた。まぁいつものことだ。シトリーは体が弱いこともあって、眠るのが好きな俺以上に眠っている時間が長い。


 俺に寄りかかって眠るシトリーをベットに横たえ、布団をかける。


 「ふわぁ」


 無意識に欠伸がもれる。なんだか俺も眠くなってきてしまったなぁ…………いかんいかん!!!隙間時間なんだし、早速練習をしよう。ピシャリと頬を叩き、気持ち程度に眠気を覚ます。


 そうして椅子に座りこみ、座禅を組んだ俺は、魔力の知覚の練習を始めるのだった。

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