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魔王はなぜ死ななければならないのか  作者: For AP
第二章 始まりの村
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5話:師匠

 家を出た俺はトレーニングの一環として走りながら目的地へと向かう。うぇっ……腹一杯だから気持ち悪りぃ……まぁ目的地まで2、3分ぐらいだし我慢するか……


 「おはようアルガ!今日も早いな!ダインさんとこ行くんか?」

 「そうだよ!おじちゃんも朝から偉いね!!畑がんばってね!!」

 「アルガも頑張って遊ぶんだぞ!自由な時間が取れるのなんて今だけだからな!」


 村人のおじさんが畑を耕しながらガハハと笑う。前世では村暮らしなんて経験はなかったが……こんなに村人同士の距離が近いものなのだろうか?それこそ関係性の希薄化うんぬんかんぬんで現代では貴重な光景になっていそうだ。


 「あらアルガちゃんじゃないの。うちの孫が遊びたがってたから今度構ってやってね」

 「うん!後で遊びにいくって伝えといて!!」


 こんなふうにみんな知り合いばっかりだ。あの人は友達のおばあちゃんだしな。田畑の間を駆け抜けていくうちに村人から何度も話しかけられる。現代日本では感じない人間関係の温かみってやつだな。最初のうちは慣れなくて面倒に感じたこともあったが、こうやって声をかけてくれるのはありがたいことだろう。


 (……まぁ多くの人と関わる分、幼い演技をするのが大変なんだけどな。いつも気を揉んでいるんだ。)


 異世界であることや、魔法を除いた文化水準が中世ぐらいってこともあって、審問とか魔女裁判なんてものがあるんじゃないかと気にしてるんだ。……この村の牧歌的からそんな恐ろしいことになるとは思えないけれども気を付けておいて損はないだろう。最も完璧な演技できているとは言えないのが問題なのだけど…………少なくともこれからお世話になるダインさんには変な子供だとは思われていそうだ。転生ものの主人公ってどうやって年齢の違和感を誤魔化しているんだろうか?あーあ、前世でそういう作品に触れておけばよかったなぁ。後悔先に立たずとはいうけど、まさかこんなことを後悔するとは。


 村の人たちに挨拶を続けながら走ること数分。村の外れに隠れるように建つ木造の一軒家が見えて来る。その新しい家はこじんまりとしていながら、しっかりとした作りをしており、製作者のこだわりが感じられた。


 家に入る前に礼儀としてノックをして扉を開く。勝手に入っていいとは言われているが一応ね。親しき仲にも礼儀ありってやつだ。


 「お邪魔しまーす」


 家の中は薄暗く、外見からは想像できないほど多くの本が棚に収められている。あまりにも本が多く、家全体に古書特有の匂いが染み付いていた。なんだかんだ一年間も通っているとこの匂いも好きになってきたなぁ。


「おっと危ない危ない。」

 

 ギシギシと音を響かせながら年季の入った木造建築の廊下を進む。本が多すぎて部屋や廊下に無造作に重ねられているものだから崩してしまいそうで危ないのだ。そうして気を遣いながら足を進めると、書斎のような部屋で本を読み進めるこの家の主人がいた。


 「おはようございます!今日もお邪魔してます」

 「あぁおはよう。朝から勤勉なことだね」

 「はい!勉強するの楽しいですから!ずっと通ってて言うのもなんですけどお邪魔じゃないですか?」

 「別に邪魔じゃあないよ?老いぼれ1人の生活も退屈なものだしね」


 ここの家主である〈ダイン〉さんは、本を読み進めながらそう答える。やっぱりこのダインさんは只者じゃないと思うんだよなぁ。数十年前からこの村に暮らしているという話だけど、容姿から滲み出ているオーラが他の村の人とは違う。オールバックで丁寧に整えられた白髪が、身につけている繊細な意匠の施された眼鏡が、積み重ねてきた貫禄と大人の深みを感じさせる。ゲーマーの俺からすると、優しく落ち着いた性格も相まってすごい強キャラ臭を感じているのだ。


 ……貴族の隠居生活とかだったりするのだろうか?文字を教わる間に、色々な経験談や知識教えてくれるのだが経験が並ではないと俺でもわかる。本を片手に紅茶を飲む姿なんてほら、映画の一幕みたいだ。


 そうそう、そういえばこの世界では貴族といった身分が世界的に存在しているらしい。前世にも未だ残る身分ではあったが、現代日本においては縁遠い存在だったからなんとなく想像しにくい。まぁダインさんが貴族だったとしても優しいし、特段気にしなくても無礼打ち!なんてことにはならないと思うけど。


 「今日はどうするつもりなんだい?人界ミズヘイル語は完璧になったよね?まさかこれほどまでに早く習得するとは思わなかったけれども」


 人界語とはこの世界最大の共通語で、ちょっとした派生も覚えてしまえば、ほぼ全ての人と会話をすることができるという夢の言語だ。前世にもこんな言葉があれば余計な勉強なんていらなかったのになぁ……


 「いやー1年間かかってしまってますし早いとは言えないかなって思います。本当はもっと早く覚えたかったんですよね」

 「随分と志が高いね、アルガ」


 精神年齢は20歳を超えていて、かつ若くて柔らかい脳を持っているってことを考慮すると、逆に時間がかかりすぎだと思う。もっと早く覚えたかった。だって俺は人界語を完璧に習得してから魔法の勉強を始めようと決めていたんだから。そしてやっと今日から魔法の練習に移ることができるから俺は朝からウキウキだったのだ。


 「じゃあ次は何を目標にするんだい?」

 「――――ええっとぉ……」

 

 師匠の質問に対し、言葉に詰まる。流石に4歳児が魔法の練習をしたいっていうのは不自然だろう。普通の子供は8歳ぐらいからやっと練習を始めるらしいから尚更だ。まぁ文字とかを覚えるのも大体8歳かららしいし、今までも怪しいのには変わらないんだけど……


 「そうなのかい?聞いておいてなんなんだけど、私はてっきりアルガが魔法を覚えたいと思っているんじゃないかと思っていたよ」

 「ギクゥ!」

 

 核心をつくような言葉に顔が歪む。


 「…………アルガはわかりやすいなぁ。図星なのが表情からわかるよ?」


 ダインさんは呆れたように苦笑いを浮かべ、肩をすくめながらそう言う。そんなに表情に出てるのか?凄く恥ずかしいというか、今後のことを考えるとあまりよろしくないというか……未だプニプニな自分の両頬をムニムニと揉みほぐし、表情筋を誤魔化す。


 「気にすることはないよ?君が魔法に興味があることは薄々察していたからね」

 「…それはどうして?」

 「だって君、魔法に関しての話にすごく興味を持っていただろう?文字の勉強用教材に魔法関連のものがあると熱心に読み込んでいたからね」

 「そんな感じでした?」

 「あぁ、すごくわかりやすかったよ」


 あちゃーバレバレだったかぁ……自分でもわかる。すごく顔が赤くなっているだろう。


 「そんなに気にすることはないさ。魔法や冒険に憧れるのは誰もが通る道だ。私も小さい頃は冒険譚で語られる、勇者や魔法使いに心を馳せたものだよ」


 俺の魔法に対する憧れはそんな純粋で可愛いものではないんだが…まぁいいか。でもダインさんでもそんな頃があったのだなぁ。スマートでダンディな男の象徴ともいえるダインさんの子供の頃なんてとても想像しにくい。


 「というわけで、君が魔法を学ぶことを私は妨げないよ?むしろ手伝いたいとさえ思っているんだけれど……どうかな?」

 「え?それはなんでですか?てっきりまだ早いって言われるものだと……」

 「未来ある若者を導くのも老骨の務めというものだ。挑戦に年齢など関係ないよ。それにやっぱり時間を持て余しているんだよね」


 そうシワの刻まれた顔を歪ませ、苦笑するダインさんはいつもより、若々しく見えた。それにいつにもまして増してダインさんがカッコよく見える。


 「いいんですか?今までもそうでしたけどお返しできるものがないというか……」

 「若人が老人を気にする必要はないよ。存分に利用してくれ。それに実は打算もあったりするからね。遠慮など必要ない。珍しい種には豊かな土と豊富な水を与えるように、恵まれた才能には適切な教えが必要なんだ」


 んー?凄く感動して泣きそうなんだが?1年間お世話になってきてなんだが、ダインさんがこんなに熱い人だとは思わなかった。


 「……本当にいいんでしょうか?」

 「いいとも、なんでも遠慮なく聞きなさい」

 「師匠!!よろしくお願いします。僕に魔法を教えてください!!!」

 「師匠…師匠かぁ。僕が師匠と呼ばれるとはねぇ」


 師匠という言葉の響きが妙に気に入ったのか、ダインさんは微笑みながら頷く。本当はダインさんの持っている本から魔法をこっそりと学ぼうとしていたのだが、そんな考えは良い方向に裏切られたのだった。


 こうして俺は第3の父親ともいえる人生の師を見つけたのだった。

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