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魔王はなぜ死ななければならないのか  作者: For AP
第二章 始まりの村
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29話:父と母


 父と母 オリガン村の夜は暗く、家から漏れる光と月の明かりのみが世界を照らしている。そんな夜を過ごしている俺はというと、夕飯を済ませ、家族団欒を楽しんでいた。

 


「そういえば父さんと母さんの馴れ初めってどんな感じなの?」



 徐に以前から感じていた疑問を投げかける。父さんは冒険者、母上は教会のシスターと全く縁のなさそうな関係性だからちょっと気になるよな。

 

あ〜アルガも冒険者やってたのは知ってんだろ?その時に色々あって口説き落としたんだよ。



「「へぇ〜」」

 

(エレインさんをどうやって落としたんだろー?)

(俺にはわかんねー)

(……)

(なんか言えよ)

(……いや、アルガ君らしいなって)



 俺も女性経験がないことは自覚してるけど、他人に言われるとムカつくもんだな!!いいだろ別に!ほっとけよ!

 


「父さんはこの村の出身ってことは知ってるよな?」



 そんな俺の荒ぶりに反して、父さんは懐かしむ様にゆっくりと話し出す。なんだか父さんの顔にすらイライラする様になってきたぞ。



「しってるー!」

「おお!シトリーも知ってたか!よく覚えてるなぁ!」



 父さんはニヤニヤした顔で膝の上に座ったシトリーの頭を撫でる。何笑ってんだ!

 

(落ち着いてってアルガ君。さっきのは冗談だよぉ〜)

(フン!)



{でな?13だったか?4だったかの頃にな。エマちゃんのとこの親父と村から出てったんだよ。まぁ宿命も割と戦闘向きでいいものだったこともあって調子に乗っててなぁ。可能性を試したい! 冒険したい! ってんで、大手を振って冒険者に成りに共和国に向かったんだ」



 いかにも冒険者志望の少年って感じだなぁ。無謀なとこといい、無鉄砲さといい、なんとも父さんらしい。それにしても父さんとエマの親父さん――ガイウスさんは幼なじみだったのか。やけに仲がいいと思っていたんだよな。



「それで最初のうちは共和国で下積みしてたんだ。そうやって仕事をこなしていくうちに、色々あって仲間が増えてったんだよなぁ」



 父さんは懐かしむように髭をいじり、白湯を口に含んだ。でもそれは母上じゃないはずだよな。母上は聖王国の出身だって話だし、かなり離れた共和国にいるってのはかんがえずらいだろう。



「私はその頃のこと知らないから羨ましいわ」

「まぁその頃は15、6ぐらいだったかな。そこで仲間になったうちの1人がエマちゃんの母さんだな」



 へぇ。あの2人は職場結婚というかパーティ結婚だったのか。なんだか知的な女性とパワー系の筋骨隆々の男性の夫婦だから、違和感があったんだけど、2人とも冒険者だったのか。



(命をかけて一緒に冒険する距離感も近い異性ってなったら、恋に落ちてもおかしくはないと思うけどね〜)

(そんなもんかな?俺はもう1人の仲間の人の肩身が狭そうだなと思ったけど)

(それはねぇ〜僕もそう思うねぇ。僕だったらちょっとイヤかも)



 仕事仲間が結婚するってのはちょっとやりづらそうだ。大学生で死んでしまったから、仕事経験がないわけだけど、職場結婚って側から見るとどんな感じなんだろう。



「それで共和国で3,4年冒険者をやってたんだが、軌道に乗ってきてなぁ。新進気鋭の冒険者として騒がれたもんだよ」

「それほんとー?」

「シトリー疑うなってぇ!そん時はもう蒼位になってたからかなり凄かったんだぜ?」



 蒼位か…… 俺も父さんと同じ様に白湯を啜りながら、朧げな記憶を掘り返していく。

 冒険者の階級は確か……白→紅→蒼→銅→銀→金→黒の順番で位が上がっていくって感じだったような気がする。だとしたら若くして蒼位ってのは凄いんだろう。父さんは鼻高々と語っているし、母さんも否定しないからな。



「ふーん」


「そんで共和国の迷宮やらクエストやらをこなしてたんだけど、学園のダンジョンも入れるわけねぇしなんか物足りなくなっちまったんだよ。ってなわけでダンジョンがある神王国に本拠を移したんだわ。仲間にも回復役が居ないってことで、神法を使える仲間集めもしたかったしな」

「母さんは神王国の出身なんだよね?じゃあそこで出会ったってことか」



 母さんの方に目を向けると懐かしそうにしている。



「そうね。私が神王国の教会育ちってことをアルガは知ってるわよね?この人ったら教会に態々押し寄せてきて、パーティに入ってくれって強引に迫ってきたの」



 なんだなすごいバチの当たりそうなことをしているな父さん……一歩間違ったら衛兵に捕まってしまいそうだ。


「いやよぅ父さんは神法を使える人を教えてもらいに教会に行ったんだけど、レイに一目惚れしちゃってなぁ。何度も何度も口説いてやっとパーティに入ってもらったんだわ」

「本当にあの頃のジェイったら本当に強引でね。私の方が折れちゃったの。あの頃は大変だったんだから。」

「いやーあの頃は褒めるたびに恥ずかしがってよぉ〜赤くなる顔の可愛いこと可愛いこと……懐かしいなぁ〜〜」


       ――――イテェ!


 母さんの躊躇のない拳が父さん脳天を打ち据えた。あれは腰が入ってて痛そうだぁ。


「あの頃は無知だったの!教会からほとんど出ないで祈りを捧げたり勉強してばっかりだったから男性と会うのこともほとんどなかったし!!」


 母上って箱入り娘だったんだなぁ。色々と聞きたいことはあるけど、深掘りすると俺の方まで怒られそうだ。強引に話を進めよう。



「じゃあ父さんと母さんも冒険者仲間だったんだね」

「そうね、その縁で冒険者を辞めるって時に結婚したの。後はこの村に引っ越してきて、今に至るってことね」


 腰を据えるために父さんの故郷を選んだんだな。もしも父さんがここに引っ越してきていなかったら、俺はあのまま死んでいたのかもしれない。恐ろしい話だ。


「なるほど〜僕も父さんと母さんみたいに仲がいい家族を作りたいなぁ」

「アルガなら出来るだろ!なんてったって俺の自慢の息子だからな」

「ジェイと違って頭もいいもの、きっと良い子を見つけられるわよ。それこそエマちゃんだっていいしね~」


 ………………ははは。

 


(子供のふりが上手いじゃないのアルガ君。墓穴を掘ったみたいだけどねぇ!!!このままエマちゃんルートをガンガン進めていこうぜ!)


 母上といいエマの両親といい、なんか4歳にして外堀を埋められていっているような気がするんだよなぁ……フィド、お前は黙れ。


 愛想笑いをしながら、なんとか母親の言葉を誤魔化そうとしていると、シトリーが衝撃的な一言を言い放った。


 

「しとりーおにいたんとけっこんする!」


 ハッッッッ!!!


 あまりの可愛さにハートを撃ち抜かれた音が脳内に轟いた。まさかシトリーにそこまで愛されていたとは。



(アルガ君、流石にキモイよ?)

(――――コホン!冗談に決まってるだろ)

(本当かなぁ?)


 俺がシトリーに抱いている愛は当然家族愛だから、卑しい思いなんて一つもないけどな。


 俺が純粋に喜んでいる一方で、嘆いている成人男性も約1名いらっしゃる様だ。

 

「シトリー……嘘だよな……父さんと結婚するんだよな……嘘だと言ってくれぇ!!」


 母さんが頭を抱えながらシトリーに抱きつく父さんを見つめている。なんでこんな人と結婚しちゃったんだろう……そう言いたげな表情だ。

 

 とは言っても父さんでも母さんに一途みたいなとこは尊敬できるんだよなぁ。イケメンで親しみやすい性格、更に引き締まったムキムキの身体。モテないわけがないのに、女の人と話しているところすらほとんど見たことがない。

 

(案外尊敬してるんだね)

 

(そりゃそうだろ。親父よりできた人間はそうそういねぇよ。俺も三枚目なところ以外は見習いたいと思ってるよ)

(アルガ君容姿はともかく、中身はインキャ大学生だもんね〜)


――――――――ウッ


 この村で暮らすようになって多少はまともにコミュニケーションを取れるようになったけど、心の中では結構苦しんでたりする。家族と打ち解けるのも時間がかかったしな。


(結構効いちゃってるみたいだから話を変えてあげるけど、アルガ君って冒険者になるのを猛反対されたんだっけ?)

(母さんがそれはもう大反対だったからそれ以来話に出さないようにしてるけどそれがどした?)

(いや、なんでご両親は冒険者やってたのに反対なのかなって)

(酸いも甘いも噛み分けてきたってことだろ)


 ――――あぁそういうことか


 冒険には危険が伴うなんてことは、人類史が始まって以来の常識だからな。俺も一応覚悟をしているつもりだ。

 



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