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魔王はなぜ死ななければならないのか  作者: For AP
第二章 始まりの村
23/32

21話:闘法



 冬の落葉した木々の間を赤髪の少年が駆け抜けていく。人間とは思えない速度で走る少年は、時には忍者のように木々の間を飛び移る立体軌道を駆使して何かを追いかけているようだ。


 少年の視線には狼の魔物が映っているようで、一心不乱に魔物を追走している。


「おい! 逃げるなって! 散々俺のこと食べようとしてただろ!!」


 少年はうんざりしたように苛ついた声をあげるものの、狼との距離は依然近づかない。少年の体は人間離れした駆動をしている者の、少々足の長さが足りていないようだ。……無論、狼が俊敏という理由もあるのだが。


「くっそ、ここからでも届くか? 今やらないと追いかけてるだけで日が暮れちまうか」


 もどかしげに走る少年は思い立ったかのように魔力を手元に集中させる。何らかの魔法を扱うようだ。


 

「大いなる旅人よ!大勢を擁き、大威を為せ! 【空圧壊(エアルト)】!!」



 呪文の詠唱が完了するとともに、緑色の魔法陣が完成し魔法が発現する。


 轟————と周辺の大気が揺れ、木々が揺れる。天空から空気の鉄槌が大地に墜落し、叩きつけられた狼の魔物の頭部は弾け飛んだ。


 しかし少年の攻撃は未だ終わらない。なぜなら、狼は一匹ではないからだ。数秒の残心の後、新たな呪文を詠唱する。



「世界に満つる水霊よ!ここに現し、宿痾を穿て! 【業水槍(アクアス)】!」



 少年の手元に魔法陣が収束しきった瞬間、少年は狼に向かって手を振るった。空気中から凝縮した水で長槍が生成され、魔物を貫いた。


「はぁ~」


 残された少年は疲れたのだろうか。体を重たそうに動かしながら魔物の死骸に近づいていった。



・・・



 魔物の討伐に成功し、魔石を抜くための解体作業を始めた。かなりグロいけど、狩りに出るたびにやっているから流石に慣れてきたな。だるいけど、魔石を抜くと魔物の体は自然に消滅していくから環境を守るために忘れてはいけない作業だ。


 それに魔石をため込んでおけば後々の貯金になるらしいって話だ。今のうちに集めておいて冒険者になった時の活動資金にしたいところだ。


 魔石ってのは魔物の体内に存在しているこの世界の石炭とかガソリンみたいな物質だ。魔道具を使ったり作ったりするときに使われるらしいけど、俺はそっちの勉強はしていないからよくわからないな。

 

 そんなこんなで数匹の魔物を討伐して魔石を抜いた。こうしておくと死体が勝手に消えていくんだから不思議だよな。


(アルガ君。僕の魔法はどうだった?)

(良かったんじゃないか?威力も俺が使った時と変わらないし、何より俺が何もしなくてもいいのがトンデモすぎる)


 先ほど使った魔法は、実はフィドが使った実質無詠唱の魔法だ。近くで俺のことを見守っている師匠に不自然に思われないように呪文は俺が後付けしたが、威力に変化はなかった。


 フィドが魔法を使うときは俺は魔力を制御する必要もイメージする必要もない。魔力だけ融通すればいいから、とんでもなく便利だ。現段階でも無詠唱かつ魔法の同時詠唱ができるんだもんな。

 

「お疲れ~」

  

 魔石を取り出し、腰に括りつけた袋にしまっていると師匠がどこからともなく表れた。師匠とは数か月前に喧嘩?というか気まずくなったりもしたけれど、今はそんなことは無かった。


「うん、いいね。前よりも魔法の精度が上がってるよ」


 しばらくの間練習のメインに風属性を据え、たくさんの魔法を習ってきたんだが、なんと風属性と水属性は中級魔法まで収めることができた。初級魔法とは比べ物にならないぐらい難しかったし、何度か暴発しかけたけれども、苦労の分強力な魔法だったからヨシだ。


 風属性中級魔法、【空圧壊】は空気を圧縮し、標的にたたきつけるという単調な魔法なのだけれど、制御を大雑把に行っていい分、破壊力に優れている。ミスると全く違う場所に攻撃してしまうから気は抜けないけどな。


 水属性中級魔法、業水槍は大気中の水分を凝縮することで水をその場に生み出し、更に形状を変化させることで攻撃する呪文だ。イメージしなければいけない工程が多くて繊細な魔法だけれど、規模が小さい分魔力の消費量も少なくて効率的な魔法だな。見た目が良いからかなり好きな魔法だ。


 あとは……生活に便利な生活魔法を収めることができた。今の季節、寒さをしのげて便利な【耐寒(カリーダ)】だったり、快適な夏を過ごせる【耐熱(フリッド)】、光の玉を生み出して光源にできる【光明(ルータス)】みたいなあったら便利な魔法をたくさん習ったな。


 魔法に関してはこんなところで終わりかな。あとは身体能力が前世を超えたぐらいか。この体の才能が頭抜けているのか、この世界の住民の標準なのかわからないけれど、トレーニングを毎日続けた結果、魔力強化を施さずとも前世より足が速いし、力も強い。……前世が貧弱とは言うなよ?事実だから。


(アルガ君!変なことを考えてないでさ。ほら、ダインさんが喋ってるよ)


 ん?あぁ

 

「アルガもそろそろ闘法に手を出してもいいかもしれないな」

「おお!本当ですか!」


 やっとこの時が来たのか。師匠の家から借りた本で闘法とはどのようなものか学んでから、教えてもらうことを夢見ていたんだ。どうにも知識だけじゃあどうにもならない類の能力みたいだからな。


『闘法とは四法の内、経験を司る法である。技能の成熟によって習得することのできる技術であり、精神力を糧に人の眠れる力を呼び覚ますことで、発動することができる。経験を重要視する法であるた都合上、書面で説明することは非常に難しい。初心者諸君には、闘法を扱える師を見つけ、師事することを推奨する』

 

 って本に書いてあった。魔法と同じく適正もあるようで、適した宿命を有していないと習得は難しいとの話だ。4年間生きていて感じたけれどこの世界は適性が無いと何もできないよな。潜在的に身分制度が存在している……そんな感じがする。


(アルガ君、たまに言っているけど宿命って何なのさ)

(E?え?お前知らんの)

(うん)


 フィドは宿命について知らなかったのか。だからたまに話が合わないなと思っていたんだよ。


(あとで教えてやるよ。今は闘法についてだ)


「じゃあ早速やってみようか」

「ハイ!」


 今度は焦らさないで教えてもらえるみたいだ。師匠のことだからまた今度ね?とでも言われるかと思った。


「2時間ぐらいしか時間が無いから急いで教えよう。アルガ。もう数か月前のことだけど、初めて魔物を見た時のことを覚えているかい?」

「打骨……でしたっけ? そんな感じの技を使っていたのを覚えています」

「それそれ!まずは見てもらおうか。基本の技だからね」


 そういった師匠は近くに生えている大木に近づいていく。


「闘法は見て覚え、それを再現することができるようになって初めて成功するんだ。もちろん適性や才能に依存するけどアルガなら大丈夫だろう」


 だから何なんだ?師匠のその俺への厚い信頼。


(信頼されているうちが花だよ? 失ってからじゃ遅いからね)

(ちなみに俺はお前のことを信頼してないぞ)

(ツンデレなんだから~アルガ君ったら!)

 

 クソ、なんか悪口耐性ついてきてるんだよなコイツ。


「この木に【打骨】を使うからよく見ていてね」


 いけないいけない。集中しなければ。目に魔力強化を施し、師匠を凝視する。


 どっしりと腰を下げ、広くスタンスをとった師匠は、赤い覇気のようなものを身にまとう。そして右足を引き下げると同時に右腕を弓のように引き絞った。そしてその右腕をゆっくりと大木に打ち付ける。


 あれ? 特に音もしないし、木も揺れてすらいない。ただ木を触っただけ……?いやそんなわけないだろう。師匠は木に触れたまま静止していて、失敗したわけじゃなさそうだ。


 そう考えた俺は大木の周りをぐるりと回り様子を見る。大木の裏側に回ると……大木の中心にきれいな風穴があいていた。穴はちょうど師匠の手が見える位置に空いている。


「……これは!?」

「打骨はね。力を一転に集中させ、最大限の破壊力を発揮させる技術なんだ。うまく扱って無駄を削ぎきれれば、ゆっくりした動きでも木に穴をあけるぐらいの威力になるんだよ」


 え?これ魔法と何が違うんだ? 闘法を扱えない身からしたら超常現象でしかないのだけれど。いくら無駄がない動きと言えど、そんなことになるか? てか闘法の初級なわけだろ?こんな威力出るのやばすぎるだろ師匠。絶対全力だしてねぇし……相変わらず半端ねぇぜ師匠……


(いくら興奮しているからって早口すぎるよアルガ君)


「師匠の周りに赤い靄? みたいなものが見えたんですけど一体なんですか?」

「それはね闘法の元となる闘気だよ。魔法でいう魔力みたいなものさ。闘法を扱うときは自然と表出するのさ。体術だったり、剣術だったり、武術に取り組んでいるといつの間にか使えるようになるから、継続して取り組んでいこう」


 ……まずは闘気を出せるようにならないといけないわけだ。察しました。


「じゃあ早速アルガも、私と一緒に格闘訓練をしようか。気づいているとは思うけど、闘気が発現しないと闘法は始まらないからね。とにかく多くの武術を練習して適性を模索していこう」

{ハイッ!」



—————————数時間後———————————


 師匠と格闘訓練を行ったわけだが、前世でボクシングでもやっておけばよかったな。何かを殴ったことも蹴ったこともないから、攻撃的な体の動かし方というのが分からない。トレーニングをしているから身体能力こそあるものの、うまく戦闘に生かせていないのを感じた。


「うん。格闘術と剣術と杖術の筋はよさそうだ。今後はこの3つの練習もしていこうか」


 とはいっても才能自体はあったようで、助かった。師匠が魔法で生み出した武器で色々とお試しをしてみたけれど、剣術に適性があったのはうれしい。やっぱり剣術って男の憧れだよなぁ!

 

 でも今までの訓練に武術が加わるとなると、オーバーワークになりそうだから、効率的に時間を使わないとな。


(でもやるんでしょ?)

(モチのロン)

 




―――――――――――――――――――――――――

【アルガ•リベルタ】 (4歳)

 (称号)ませた子供

(Level )8 次のレベルまで〈42rp〉  Spt〈22Pt〉

 HP 35/43

 MP 16/47

 SP 23/68

 筋力 21

 耐久 19

 敏捷 26

 魔法力 24

 運命力 18

 アルフィドの瞳 クラス 1 (Cond Lv10)


〈戦闘技能〉

 Active

 [魔法]

 ・生活魔法               +

 ・魔力強化(ウィスマギア)   無・初

 ・水球(アクア)      水・初

 ・業水槍(アクアス)    水・中 

 ・風刃(エアル)      風・初

 ・空圧壊(エアルト)    風・中

 ・土塊(テラマ)      土・初

 

 Passive

 ・水魔法の心得 水属性魔法習得速度の向上  

 ・風魔法の心得 風属性魔法習得速度の向上 

 ・土魔法の心得 土属性魔法習得速度の向上

 ・格闘術の心得 格闘術の習得速度の向上

 ・剣術の心得  剣術の習得速度の向上

 ・杖術の心得  杖術の習得速度の向上


〈非戦闘技能〉

 Active

 なし


 Passive

 ・家事見習い 家事を行う際の効率向上

 ・目覚ましい成長  6歳までの成長補正

 ・異界言語 異界の言語を理解できる

 ・初級演技 演技が少しだけ上手くなる

                      +

――――――――――――――――――――――――




 


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