18話:シトリー
「母さんお代わり!!」
「あら、今日はいつにも増してたくさん食べるわね」
魔法を習得してから数週間、勉学から運動へと毎日精力的に活動してきた。今日なんて早朝の運動に始まり、友人との付き合い、家事手伝いとキツキツの予定をこなし、ノンストップで活動してきたからな。そんな俺のエネルギーは底を尽きていた。空き時間があれば、大体魔法の習得に費やしているし、魔力もすっからかんだから栄養を摂取しないと、午後には活動限界が来てしまうだろう。
「デカくなるためにはたくさん食べなきゃいけないと思ってね!それに最近運動めっちゃしてるからお腹が減っちゃうんだよ〜」
「あら、じゃあお母さん頑張って今度から沢山、栄養満点のご飯を作るわね」
「おねがーい!!」
「ちょっと待っててね、すぐにご飯をよそってくるから」
母上は席を立ち、台所の方に歩いて行った。
今まではどこかで聞き齧った覚えのあった、『体がある程度出来上がるまで本格的な運動はしない方が良い』という知識を間に受けて、控えめにしかトレーニングはしてこなかったのだけど、ここ最近本格的に身体能力強化に力を入れ始めた。だからその分めちゃくちゃお腹が空くんだよなぁ。前世では考えられないほど健康的な生活習慣になっている。
「レベルアップだけじゃなくて、基礎トレーニングでもステータスは伸びていくから、すごく効率的だよね」
「まぁな、経験値も手に入るしいいことづくめだろ」
そういえばトレーニングで得た経験値でなんと、先日レベルアップを果たしたのだった。寝起きでステータスを確認したときに気づいたのだけど、まさかレベルが上がるとは思っていなかったので、驚いて目が覚めたのを覚えている。
あと修行の成果と言えば何より水と土の心得スキルも習得して、水球と土塊を覚えたことだ。それに使える魔法のレパートリーが増え、ステータス画面に文字が増えていくのは何とも表現しがたい喜びがある。まさに我が世の春といったところだろうか。毎日が充実している。
水球と土塊は、その名の通り水の玉を生み出す魔法と、土や石でできた塊を打ち出す魔法なのだけど、かなり便利で使い勝手がいい。水球に関しては、魔力で水をうみだせるということもあり、母上がよく家事で使う程度には一般的で便利な魔法だ。
それで一方の土塊なんだけど、最初は全く使い道が分からなかった。だって土を相手に投げつけるより、炎や風の刃で攻撃したほうが強いに決まってるじゃないか……ということで戦闘以外の使い道を模索した結果、体にウエイトとして土塊を貼り付けると、効率的なトレーニングができることに気づいた。維持しながら魔力強化を使って走るとめちゃくちゃ疲れるけど、とんでもなく鍛えられるんだよなぁ。
(急にトレーニーになったよねアルガくん)
(正直、自分自身ですらここまで頑張れるとは思わなかったんだわ)
修行がステータスに反映され、努力の成果を視覚で感じ取ることができるから、やりがいがあるんだよなぁ。あーあ、前世でもステータス表示があったらなぁ……
そんな無いもの強請りをしていると、母さんがホカホカのご飯を茶碗に盛って戻ってきた。
「アルガー、お待たせ。沢山食べてね」
「ありがとう母さん!」
熱々のご飯をうけとり、もう一度食べ始めようと箸を持った瞬間、隣でご飯をパクついていたフィドが硬直しているのが目に入った。
(どうしたんだよ?食わないのか?)
(いやぁ、だってさぁアルガくん。君のお母さん可愛すぎないかい?本当に経産婦?若々しすぎでは?)
なんだコイツ!?この散々可愛がられて懲りたはずではなかったのか?
(キモいからやめろって)
(アルガ君にはありのままの僕を知ってもらいたいと思っているのさ)
(カッコつけたって意味ねぇぞ)
脳内にこんな同居人がいると気が滅入る……と思っていたけれど、案外慣れてきてしまった自分が恨めしい。
――――――――――――――――――――――――
「食べすぎたわぁ……」
(あれだけ食べればそうなるよ。君まだ4歳だもの)
(美味しいんだから仕方ねぇだろ?)
母上のうまい昼飯を食べ終えた後、俺はベットで横になっていた。あぁーこの血糖値が上がってく感じ……眠くなるなぁ。頭の上で両腕を組みながら、寛ぐのきもちぇーー。
(そんなにくつろいじゃってさ……この後もう一度修行をするつもりだったのにできるのかい?)
(流石にギブだな。今動いたら中身が出そうだ。最近根を詰めてたし気分転換も必要ってことで、俺は寝る)
(そんな調子で良いのかなぁ……早く風魔法を中級までおさめたいよぉ)
ここ最近の忙しさでは考えられないほどの穏やかな時間が流れていく。窓から吹き込む穏やかでフレッシュな風はなんとも気持ちが良く、お気に入りだ。こうやって自然を楽しむ時間は、前世にはなかった経験でいつまでたっても新鮮なのだ。俺は田舎暮らしの方が向いているのかもしれない。
ガチャッ
徐にドアノブが下げられ、扉が開く音がした。誰が入ってきたんだ?首だけを持ち上げて様子を見ると、妹がこちらに向かってトテトテと歩いてきていた。
「にいたん、今日もお出かけ?」
「そのつもりだったんだけど、ちょっとお腹が一杯でうごけないから、休憩しようかなって思ってるよ」
「じゃあいっしょにあそんで……?」
「おお!もちろん構わないぞ!」
なんだそんなことか。暇な俺が断るわけなんてないじゃないか。
(君、ほんとに妹ちゃんに甘々だねぇ)
(仕方ないだろ?実際に可愛いんだから。前世では妹なんていなかったから可愛いんだよ)
(前世は一人っ子だもんね。まぁ僕もシトリーちゃんの将来には期待しているし、もう一人の兄として成長を楽しみにしているからね)
(どういう意味だ?)
(そりゃ美人になりそうだなって話さ。君含め、君の周りには美男美女が多いよねぇ。まぁ僕が1番イケメンだけどさ)
フィドは相変わらずだけど、指摘は的を射ているように感じた。確かに異世界の顔面偏差値の平均水準は異様に高いんだよな。老人もずっと若々しいし、魔力がなんらかの作用を及ぼしているのだろうか?調べたら研究している人とかもいそうだな。
(てかどっからそんな自信が出てくるんだよ。俺から見たら顔に電球がついてるのと同じようなもんだったぞ)
(失礼な!イケメンすぎて見えないだけだ!!)
それはそれでよく分からんけども。でもよくよく考えてみれば、確かに母親も前世では見ないレベルの美人だし、妹もすごく美人に育つのだろう。兄として、今後集ってくるであろう虫たちには然るべき対処をしなければいけないな。
(シスコンめぇ)
(シスコンで何が悪い!精神年齢的には娘みたいなもんだろ!)
(それはそれで事案では? アルガ君ってば、幼なじみちゃんにも君は粉をかけているわけだし……もしかしてそういう趣味かい?)
(それはお前だろ!俺はそういうつもりなんてねぇ!)
(違う違う、僕は女性全てをリスペクトしてるだけだよ)
脳内のゴミと会話をしていると、不意に服の袖を引っ張られた。しまった、シトリーを無視してしまっていた。クソ!このバカ鳥が……!
(――――――酷い言われようだぁ)
「にいたん?なんでへんなかおをしてるの?はやくあそぼ」
変なやつの相手なんかしてないで、大切な妹と遊ぶことに集中するとしよう。大体前世でもそこまで強くなかった性欲が、子供になって存在するわけがないのだから何を言われても無視すればよかったな。
「――――あぁごめんごめん。何して遊びたい?」
「おえかき!」
「お絵描きか……どこにクレヨン置いたかな?」
確か机の引き出しの中にしまっておいたような……あったあった。後は適当に使ってない紙を引っ張り出して……と。
「はい、シトリー」
「ありがとー」
クレヨンと画用紙をシトリーに手渡した後、一旦シトリーと一緒にベットの縁に座った。
「何を書くんだ?母さんに聞いてちょっとだけお外に行くか?」
「うーん。どうしよ」
俺は絵心が無いから何を題材にするべきかわからないなぁ。ただの3歳児の描く絵だったらそこまで気にする必要は無いんだけど、シトリーとはお絵描きを良くしているから、題材が枯渇してしまった。
(アルガ君!お困りみたいだね!だったらプリチーな僕を描いてよ!)
(うーん……わかったよ)
全く我が強いんだからコイツは……まぁフィドの皮はかわいらしい小鳥だし題材としてピッタリか。
「シトリー、フィドが自分を描いて欲しいってさ」
「うん!わかったー!―――――――――ケホッ……ゴホッ……ゴホッ……」
平穏な日常会話を交わしていると、シトリーが突然嫌な咳をして床に蹲った。
「大丈夫か!?シトリー!」
「……だいじょぶだよ。ちょっと…むせちゃった……」
「待ってろよ……すぐに母さん呼んでくるからな」
シトリーに駆け寄り様子を伺う。先ほどまでの元気な様子と打って変わって、完全に青ざめた顔をして震えている。これは……最近は安定していると思った矢先にこれだ……くそ、これは俺じゃ何にもできねぇ。すぐに母さんを呼びに行かないと。
(アルガくん!なんだかよくわからないけど、僕がお母さん呼んでくるね!!)
(頼む!)
全身に魔力強化を施し、できるだけゆっくりと安静にシトリーをベットに移動させる。あとできることは……
「どうしたのフィドちゃん!そんなに服を引っ張っちゃダメよ〜」
(連れてきたよ!)
動揺して慌てているうちに、階段を登る音が聞こえた。フィドが母上を連れてきてくれた。大声を張り上げ、母さんにシトリーの急変を伝える。
「母さんシトリーが倒れた!多分いつものやつだと思う!!」
「えっ!!本当!?」
焦ったように走って母さんは部屋に駆け込んできた。母上がちょうど家にいる時間帯で良かったな。
「話してたらいきなり倒れたんだ。最近安定していると思ったんだけど……」
「わかったわ。ちょっと私が様子見る。すごい熱だわ……」
母上はシトリーの額に手を当て、簡単に熱を測る。やっぱり魔力の暴走って奴だろうな
「何か必要なものある!?すぐに用意するよ!」
「じゃあ一回から桶とタオルを持ってきてちょうだい」
母上の注文を受け、部屋から飛び出ていく。兄として、今できることをしなければ。使命感と焦燥感に駆られながら、俺は必要なものをかき集めた。
―――――――――――――――――――――――――
【アルガ•リベルタ】 (4歳)
(称号)ませた子供
(Level )4 次のレベルまで〈14rp〉 Spt〈8Pt〉
HP 19/25
MP 17/19
SP 48/57
筋力 14
耐久 11
敏捷 14
魔法力 10
運命力 10
アルフィドの瞳 クラス 1 (Cond Lv10)
〈戦闘技能〉
Active
[魔法]
・魔力強化 無・初
・水球 水・初
・風刃 風・初
・土塊 土・初
Passive
・水魔法の心得 水属性魔法習得速度の向上
・風魔法の心得 風属性魔法習得速度の向上
・土魔法の心得 土属性魔法習得速度の向上
〈非戦闘技能〉
Active
なし
Passive
・家事見習い 家事を行う際の効率向上
・目覚ましい成長 6歳までの成長補正
・異界言語 異界の言語を理解できる
・初級演技 演技が少しだけ上手くなる
+
――――――――――――――――――――――――