16話:ステ振り
「おはよー!」
あれ?ちょっと早く起きすぎたのだろうか?ステータスについて考えているうちに、寝落ちしてしまったみたいなのだけど、あまり寝ていないにもかかわらず、魔法の練習をしてみた過ぎていつもより早く起きてしまったようだ。子供部屋から降りてきたリビングには母さんしかおらず、窓から見える空はまだ薄暗かった。いつもはこんな時間に起きないから新鮮だし、眠そうにしている母上は中々見ることがないから珍しく感じる。いつもこんなに早く起きていたのか。
「おはよう。アルガったら今日はこんなに早く起きてどうしたの?……それにその肩に留まっている可愛い子はだぁれ?」
部屋のソファに座りながらのんびりとお茶を嗜んでいた母上はいつもより穏やかにそう言った。母上の指摘で気づいたけれど、何も考えずにフィドを鳥のまま連れてきてしまった。どうしようか……
「あー…なんかこいつ窓を開けていたら勝手に部屋に入ってきたんだよ……それで懐かれちゃってさぁ……飼ってもいい?」
「あらそうなの?アルガは動物に避けられてるみたいだったから嬉しいわね。……でもちょっと考えなきゃいけないことがあるのよねぇ」
母さんは悩ましげに頬を手を当てる。母上が驚いているように俺が動物に避けられてるってのは事実なんだよね。前世ではこんなことは無かったけれど、村で飼われている動物なんかは悉く俺を見ると逃げていったりして触らせてくれないのだ。
「ちょっとその子を調べさせてもらってもいいかしら?」
「全然大丈夫だよ」
(ほらフィド、母上のところに行ってくれ)
ん?どうしたのだろうか……反応がない。フィドはその小さな白い体をプルプルと震えさせるだけだ。
(おい聞いてんのか?)
(あ、アルガくん……この人がお母さんってほんと……?いや本当なのは知ってるけどさ……)
(だったら聞くなって。ほら母上が呼んでるぞ)
(めっちゃ美人じゃーん!!)
大きく強調されたテレパシーが送られてくると同時に、俺の肩に留まっていたフィドがいきなり羽ばたいて、ソファでくつろいでいた母さんの元へ飛びたった。いきなりなんなんだ?びっくりしたんだけど。
「わわ、お利口さんなのねアルガの言ったことを理解しているみたい」
フィドは母さんの近くに留まり、かわいこぶってふわふわの体で羽毛に埋もれた首を傾げる。
「あら可愛い。なんて名前の子なの?」
「えぇと、一応フィドって名前にしたんだけど」
「いいじゃない!アルガったらセンスあるのねぇ」
俺が名前を付けたわけじゃないけど、褒めてくれるのはうれしい。母上はことあるごとに褒めてくれる子育て上手なのだ。俺も母上の優しさを常々見習いたいと思っている。
(うぉー!!うぉーー!!!)
キモっ……。涼し気な容貌でフィドを観察する母上とは対照的に、馬鹿鳥は興奮したかのように羽をバタつかせ叫んでいる。コイツ…女好きみたいなのか……?
「あらあらどうしたの?」
興奮した様子のフィドを母さんが両手で優しく持ち上げる。本当なら母さんに触ってほしくないんだけど、邪魔するわけにもいかない。
「すっごくモコモコで可愛いわぁ!」
(うわわ、ちょっとやめやめ。やめてくれー!!アルガ君止めてぇ!!!)
そんな風に苦々しく思っていたら、フィドの野郎が母上の手で揉みくちゃにされていた。止める気などさらさらない。気に入られてよかったじゃないか、フィド。—————フフッ……母上ったら容赦ないなぁ。
「うーん。この子は危ない感じもしないし魔物でもないみたいね。……うん、ちゃんとお世話してあげるなら飼ってもいいわよ?」
「ほんと!ありがと母さん!」
「後でお父さんとシトリーにも紹介してあげてね?シトリーなんてフィドちゃんすごく気に入りそうだもの」
(とりあえずなんとかなったみたいだなぁ。よかったじゃないかフィド)
そう小馬鹿にしながら母上に撫でられすぎて、ダウンしたフィドに目を遣ると……
(そりゃこのプリチーな僕だもん。当然だね!)
いつの間にか復活したフィドが鶏むねを張りながら、自信満々にそう断言した。少しでも中身を知っているとかわいいとは思えないけどな。
「フィドちゃんは何を食べるのかしら、私動物のお世話をしたことがないからわからないわ。アルガ、分かる?」
(フィド、お前何食べんの?)
(普通にご飯食べられるよ?僕動物に偽装してるけど結局のところただの魔力の塊だからね)
(随分高度なことをしてんだな)
(だから言ったでしょ?偽装には余念がないって)
ずいぶんと念入りに細工を施しているもんだ。何を嫌がってそこまで干渉を隠ぺいしたがっているのだろうか。
「多分なんでも食べられると思うよ?」
「あらそう?でも、食べちゃいけないものとかありそうだけど……」
「気にしないでいいよ。食べられないものは食べないと思うし」
「わかったわ。確かにフィドちゃんお利口みたいだものね。今度からフィドちゃんの分もご飯を用意するわ」
「うん!ありがとう」
ここまで寛容な母というのもなかなかいないだろう。言いかたは悪いかもしれないが、今世では親ガチャというものに成功したのだろう。前世の運が無かった分、このぐらいは保障されていないと困るけどな。
(感謝しとけよなフィド。母さんが優しくてさ)
(僕、お母さんに恋しちゃったかもしれないよ!)
(ふざけたこと言うなってトリ頭が!)
(ひどいぃ!!)
コイツ本当にあの白い男なのか?分け身だとしてもここまで色ボケているのはおかしいだろう。
「じゃあお母さんそろそろ朝ごはんの準備をするから、ごめんね」
母上が立ち上がり、近くに掛けてあったエプロンを着ようとしている。
「僕も手伝おうか?」
「いいのよ〜。アルガはいつも家事を手伝ってくれるでしょう?新しいお友達ができたわけだし、フィドちゃんと遊んでていいわよ?」
(うーん……じゃあお言葉に甘えて二度寝でもするかぁ?)
(アルガ君!今のうちにスキルポイントを割り振っておくのはどうだい?昨日は結局決めきれずに寝ちゃったじゃないのさ)
確かに。方向性すら決まらなかったし考えとくか。今日は魔法の個人練をするつもりだし、先にスキルをとっておきたい。
「じゃあお言葉に甘えて遊んでるよ!」
「はーい。」
そう伝えると母さんは台所へと歩いて行った。ほんと感謝しています母上。
(アルガ君はどんなスキルを取りたい?それとも強いスキルを取るために温存しておくかい?)
(うーん…とりあえずなんかしらのスキルは取ってみたいと思って、候補は考えてたんだけど……)
(スキルポイントもまだ少ないから取るスキルも絞らないとね)
昨日考えてたのは、確かこの辺のスキルだったかな?
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【スキル習得】 残存Spt 〈15pt〉
〈戦闘技能〉 (消費Spt)
Passive
[魔法]
・無魔法の心得 無属性魔法習得速度の向上 20pt
・火魔法の心得 火属性魔法習得速度の向上 5pt
・水魔法の心得 水属性魔法習得速度の向上 5pt
・風魔法の心得 風属性魔法習得速度の向上 5pt
・雷魔法の心得 雷属性魔法習得速度の向上 5pt
・土魔法の心得 土属性魔法習得速度の向上 5pt
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(魔法系のパッシブスキルをとって魔法の練習効率を上げていく……結構よさそうな選択だと思うんだけどどうだ?)
(永続的に効果が続くパッシブスキルだし、習得しておいて損はないかもね。それにコストも安いし)
効率を上げる方法が目の前にあるのにそれを取らないっていう選択はやっぱりちょっともったいないよな……とらなかったらなんだかやる気に影響してきそうだし、やはり優先するべきだろう。
(じゃあこの心得を習得するわ)
(どの属性の心得にするんだい?)
それも一応寝る前に考えておいた。最初は火魔法だったり、雷魔法みたいな派手な魔法を練習したいからその心得を習得するべきだと考えていたんだけど、今の限られた練習環境のことを鑑みると、風魔法か水魔法か土魔法ってことになったんだよな。
(風と水と土属性の心得を習得しようと思ってる)
(ずいぶん地味なとこ行くねぇアルガくん)
(魔法を使いなれてないうちはこういうのがいいんだよ。森の中で火なんて使って火事になったらヤベェことになるってわかるだろ?)
(それもそうか。確かに3つの属性を考えるとバランスはよいのかな?でも無属性魔法って手もあったよね?)
無属性魔法……属性魔法に分類されない魔法全てだったか?これも重要そうだし、取りたいけど流石にポイントが高すぎてとれないから後だな。
(無属性はそのうちだな。師匠から借りた教本も属性魔法についてのものだし、しばらくはそっちに力を入れよう)
(じゃあその3つで決まりかぁ。本当は火属性魔法で魔物を燃やしまくりたかったぜぇ!)
(俺だってほんとは雷魔法を使いたいとは思ってるわ!我慢してるんだっつの!)
現実的な思考と、浪漫を追い求める気持ちの狭間で俺は揺らいでいるのだ。だからこそ昨日も決めきれずに寝落ちしてしまった。それにフィドは転生させるなんていう所業ができるんだから炎を出す程度のことはできると思うけどなんでそんなにワクワクしているのだろうか……超越的な何かを感じたあの時のフィドはなんだったんだ?
(フィドなら炎を出す程度のことは造作もないだろ?)
(あの時の僕と今の僕って別人だって何度も言ってるだろう?切り離された人格って感じでさぁ。本当にアルガくんにまつわる記憶ぐらいしかないんだよね。だから僕は大したこと知らないよ!)
確かに何度も同じことを聞いている俺が悪いけど、なんでそんなに威張っているんだ。そのぐらい疑問に思っているんだぞ。
(まぁその話は一旦置いておいて、とりあえず風属性を最初に練習するってことで【風魔法の心得】を取るぞ)
(OK!スキル名をタップして、習得だよ!)
スキル名をタップして……確認と……
————————【風魔法の心得】を習得しました。
合成音声のような機械的な声が脳内に響き渡る。こんなアナウンスまで用意してあるんだな。
これでスキルを習得できたわけか……にしても、やけに気取ったスキル名が多いんだよなぁ。
(フィド。スキル名が妙にポエミーなのはお前の趣味か?)
(バレた?こういえの好きなんだよね)
やっぱりか。気取ったスキル名が多いなと思ったんだよ。
(まぁ俺も嫌いじゃないけどな)
(流石アルガくん気が合うなぁー!)
(ウルセェゲーム脳野郎)
(君もだよね?ブーメラン刺さってなぁい?)
(否定はしないでおくわ)
死ぬまで厨二病は完治しないだろうな。まぁもう死んでるし、治ってないから嘘だけどさ。とはいっても異世界で気にするほど重要な事じゃないよな。合唱とかでも、恥ずかしがって声を出さないやつが一番恥ずかしい云々かんぬんはよく言われる話だ。
「アルガー朝ごはんできたから配膳を手伝って―!」
「はぁいーー!」
おっと母上からお呼びがかかったみたいだ。手伝いに行こう。そして朝食を食べたら早速属性魔法を練習するとしようか。