12話:謎の手紙
狼の恐ろしさに身をすくませながらも、師匠の家で教材となる本を大量に受け取って帰宅した。めちゃくちゃ重かったから魔法強化を使って帰ってきたから何とか夕飯にまにあったのだけど、思った以上に疲れたなぁ。後ちゃんと、スコーンは忘れずにもらって帰りました。
重たい体を引きずりながら風呂に入り、どうにかこうにか夕飯をお腹に詰め込んだ。後はもう眠るだけだな。
「おやすみにいたん今日もお話しありがと……」
「おやすみ、ゆっくり休めよ」
夕食後は家族団欒を楽しんだ後部屋に戻り、いつものように妹を寝物語で寝かしつけ、俺も寝るばかりになったわけだが……ちょっと勉強しておくべきだろうか?眠いんだけどなぁ……
———————次にいつ師匠のところに行けるかわからないから自分で頑張るべきだな!そう決意した俺はベットに張り付いた体をどうにか持ち上げた。頬を眠気覚ましにピシャリと叩く。家の手伝いをしていると案外自分の時間が取れないんだよね。人付き合いもするとなると尚更だし。教材もちょうど手に入れることができた今のうちに勉強を進めるべきだろう。
ゆっくりと同じベットで眠っているシトリーを起こさないように立ち上がった俺は、ベットの下に隠しておいた本を引っ張り出して机の灯りをつけた。
(えっと?帝国貴族一覧?これじゃなくて、テューゼ神教概説?これも後でいいや…おっこれこれ、魔法入門だ!今まで全く魔法を学ぶことができていなかったのだから、集中して取り組まなきゃ)
勉強のやる気なんて今の今まで一度も起きたことがなかったけど、やっぱり好きこそ物の上手なれって本当なんだな。魔法を勉強するってなると、モチベーションが泉のように湧き出てくるのだ。
そうして数冊の本から目的の品を見つけた俺はページを捲り、眠たい目を擦りながら読み進めるのだった。
えっと…
『魔法を扱うためには十分な魔力、魔法に必要な魔力を御せる制御力、魔法を成功させるに足る正確なイメージが必要である。』
うんうん。ここまでは師匠が教えてくれた内容の振り返りって感じだな。
『したがって、どのような魔法が存在しているのかを理解することが魔法を発動する第一歩となる。この本では基礎的な魔法を紹介すると共に、魔力の制御のコツや魔法ごとの制御方法、具体的な魔法のイメージ、発動に至るまでのプロセスを体系的に記していく。』
お?流石師匠が貸してくれた本だけあって、めちゃくちゃわかりやすそうじゃん。親切だし読みやすい。誰が描いた本なのだろうか?表紙には書いてないなぁ——————巻末は……っと。
『著 フィニス•トリヴィ』
……まぁ聞いたことのない名前だよな。全然知識が足りてないし。まぁ今後もこの人の本を選んで読むのもいいかもしれない。名前を覚えておこう……あれ?
元のページに戻り、文章を読み直していくと注意書きが施されていることに気づいた。
『魔法を発現する際に適切なイメージを行うことは欠かせないが、脳内のみで魔法発動に必要なイメージを行うだけではなく、発音を伴う手法である呪文活用しイメージを補助することで、より手軽に魔法を扱うことができる。したがって本著では初心者向けの本であるという趣旨に則り、呪文例も付した上で個々の魔法を解説していく。』
師匠は無詠唱について一般的じゃないって言ってたはずだよなぁ?この本においては無詠唱が一般的みたいな扱いをされているようだ。呪文は補助輪扱いというか…初心者用というか。師匠とどっちが正しいのかわからないけど、ファニスさんは普通の人じゃなさそうだ。更に興味が湧いてきた。
最終的には無詠唱が優秀なんだろうけど、俺は呪文にロマンを感じて嫌いじゃないんだよなぁ。イメージを掴むためにも、最初の内は呪文ありで魔法を使ってみようか。
えーとそれで、続きだけど……
『魔法の属性は無属性、火属性、水属性、風属性、土属性、雷属性からなっており、無属性以外において相関が存在している。したがって魔法士同士の戦闘になった際は、属性を踏まえながら戦闘を行うべきである。』
まぁこれはゲームでもよくあるよな、相性的なやつ。火→風→土→雷→水→火の順番に有利属性が決まって、無属性は相性が存在していないニュートラルな魔法になっていると……ちょっと覚えづらいけど間違いなく重要だろうなぁ。でもそもそも、魔法を複数属性扱うことのできる適性が無いと、関係のない話な気がするけどさ……
『この相関は属性を有する闘法とも一致しているため、魔法を学ぶのならば必ず押さえておくべし。」
師匠に続いてまた、匂わせダァ!闘法って一体何なんだよ!父さんも知ってそうだけど聞けないし、師匠も見せるだけ見せてあんまり教えてくれなかったからなぁ。
もどかしい思いを抱えながらも教本を読み進めていくと、本の中に1枚の便箋が挟まっていることに気がついた。
(なんだこれ…手紙?)
便箋は丁寧に封蝋が施されている。師匠のものだろうか?紙も肌触りが良く上等なものなのだろう。金箔のようなものが細部にあしらわれていた。
(ん?これなんて書いてあるんだろう。)
便箋の端に小さな文字で、何かが記されているのに気づいた。
『親愛なるアルガへ、最も古き友より』
――――は???俺宛の手紙なのか?どういうことだ?師匠のイタズラか?……なくはないけど……まぁないだろうなぁ。となると誰からのものなのだろう。最も古い友達……そうなると幼なじみのエマなんだろうけどまだ文字も書けないだろうしな……
どれだけ考えてもやっぱりわかんねぇ。まぁ同名の誰かに宛てたものとかじゃなければ、俺宛のものであることはほぼほぼ間違いないだろう。開いちゃうか。俺は封蝋の開け方に苦戦しながらも手紙を開封した。
(入っているのは手紙一枚だけか?ええと中身は…と……)
『右目に魔力を集めろ』
手紙にはただ一言の支持のみがつづられていた。意味は文字通り、魔法強化を目に使えってことだろうけど……今日魔力強化を使えるようになった身としては、あまりにも時期がピンポイントすぎて何者かの作為的な意志を感じる。本当に最も古き友とは誰なのだろうか、なんだかぞわぞわして気持ち悪い気分になってきた。
……まぁこんなところでウジウジしていても仕方ないか、誰かの悪意と言うにはあまりにも心当たりがないし大丈夫だろう。知り合いはいい人ばかりだし、悪いことなんて前世も今世もしていない。
そもそも魔力を知覚できるようになったのも魔力を制御できるようになったのも今日だから、あんまり繊細な魔力の扱いをしたら暴走させてしまいそうで怖いんだけどなぁ……
いやいや何言ってるんだアルガ!!冒険者は度胸だって師匠も言っていただろう。こんなことでチキってても強くなんてなれない!ものは試しだ!————————とは言っても目に魔力を集めるのはやっぱり怖いので少しずつだけど……だって眼球破裂したら嫌だし……
師匠の元で練習した魔力制御を振り返るように、丁寧に魔力を操っていく。慎重に……慎重に……よし!右眼に魔力は集まったな……
「うわ!!!なんだこれ!!!」