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魔王はなぜ死ななければならないのか  作者: For AP
第二章 始まりの村
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10話:帝国と共和国

 「とりあえず次の国に進もうか」


 あっ、いつもの顔に戻ったな、冗談だったのか。やり返されてしまったな。

 

 「テューゼ神王国についてだけど……アルガ、テューゼ神教とはどういうものか知っているかな?」

 「テューゼ神教ですか?…えっと確か、神テューゼを信仰する宗教で世界で1番大きな宗教だった…かな?帝国を除くほとんどの国家に浸透しているだとか。知っているのはそのくらいですね」

 「まぁ国を理解するだけならばそのぐらいでいいのかな?詳しく知りたかったら君のお母さんに聞くといいよ」

 

 そういえば母上の出身地は神王国だって聞いた覚えがあるなぁ。だから昔はシスターとして協会に努めていたのだとか。清楚で清廉な雰囲気の母上のイメージと合致した経歴だなと印象に残っていた。……本当にどうやって父さんは母上を射止めることができたのだろうか。イケメンとはいえ、疑問でしかない。


 「そのテューゼ神王国なんだけど、テューゼ神の聖地であるのと同時に最大の教会である大聖堂も存在しているんだ。首都エルミエルにあるんだけど、大聖堂には教皇と聖女が暮らしているからテューゼ神教にとって最大の要衝でもあるね」

 「へぇーなんだかすごそうな場所ですね」

 「あぁ、純白の建物が立ち並ぶ姿はすごく壮観だよ。一度見に行ってみるといい」


 宗教のことは全然わからないけど、観光ついでに訪れてみたいものだ。


 「暮らしているのは、人族と天族がほとんどで他の種族の人々は……あまり良い待遇を受けているとはいえないね。大らかで良い人が多いんだが……ちょっと教義に合わないことがあると途端に排他的になるんだよね……」


 …なるほど宗教的にってやつかぁ、なんとなくだけど察したわ。そういう面も異世界とはいえ当然のようにあるのかぁ。今の話だと人族は差別の対象ではないってのが救いだけどさ。


 「まぁそれは置いておいて、アルガが聞きたいであろう話しよう!」

 「なんでしょう?」

 「それは三大迷宮のうちの一つ、天界への入り口、『アベルの塔』についてさ。アルガが冒険者を目指すなら忘れちゃいけないね」

 「え!?実在していたんですか?」


 アベルの塔については俺も軽く知っている。俺たち人間が暮らしている世界、人界(ミズヘイル)の遥か彼方、上層に位置していると言い伝えられているのが、天界(ヴァルヘイル)なんだけど、そこに繋がる唯一の道であるとされているのがアベルの塔だ。童話なんかでよく語られていたけど、本当に実在しているとは思わなかった。


 「お?やっぱり勘違いしていたようだね。僕はこの目で確認したことがあるし、なんなら入ったこともある。実在しているのは間違いないよ」

 「どのようなところなんですか?」

 「うーん…それこそ階層によって違うんだけど、塔は階層構造になっているんだ。そしてその中の一つ一つの階層内に、独自のバイオームが形成されている。森もあれば、砂漠もあるし、海のようになっている場所もある。出現する魔物や天使もそれぞれのバイオームによって違うし、どういうところかは階層ごとに説明しなくちゃあいけないから、冒険者になってその知識が必要になった時に勉強するといいよ」


 天使っていうのは、簡単に言ってしまえば神が創り出した魔物のようなもので、聖域や神域にのみ出現される生物だ。総じて魔物より強力だって話だし、遭遇するのはまだ先の話だろうけど見てみたいなぁ。


 「天使に会ってみたいです!!!」

 「うーん、天使はとても珍しいから難しいなぁ。でもアルガが冒険者として大成できればいつか出会うことができるかもね」


 温かい目で見つめてくる師匠の目が痛い。きっとかわいらしい少年を見守る視線なのだろうけど、流石に精神年齢成人済みの俺には辛い視線だ。何歳になっても中二病なのは生まれついての性みたいなものだから仕方ないじゃないか。


 「そんなわけで、テューゼ神王国は神の加護による肥沃な大地とアベルの塔から産出される品々のおかげで、もっとと豊かな国とされているね。だから冒険者も多く拠点を置いているよ」


 そう締め括った師匠は紅茶を啜り、髪を整えた。人族と天族の冒険者は、という但し書きが付いていそうな気がするけどな。次は……帝国についてか。


 「じゃあ最後にアンブロス帝国について説明しようか。アンブロス帝国は帝政を敷いている国で、3人の王の上に1人の皇帝が存在しているという統治のあり方をしているんだ。ちょっと今までの話を振り返るけど、共和国は議会の上に首長が立ち、神王国は王と教皇、聖女長の合議制だからそれぞれ特徴的な統治を行っているよね」


 なんだか割と現代的なのも混じってるんだなぁ。俺は政治に関わるつもりはないけど、国ごとの個性がよく表れているような気がする。


 「確かに多種多様ですね」

 「おやおや興味なさそうだなぁ」


 師匠はニヤニヤしながらこちらを見てそう言う。なるべく興味があるような反応をしたつもりだったのだけど……


 「……バレました?」

 「まぁアルガのことは割とわかっているつもりだよ。割と表情に出るからね。でも、冒険者をやっていく上で、権力者や権力のあり方について知っておくことは重要だよ。自由な冒険者とはいっても戦力を有しているなら国から目をつけらえるのは当然だからね」


 確かにそれもそうだよな。魔法なんてとんでもない力があるのだから、人一人の影響力は前世とは比較にならない。そりゃ国も警戒をしているだろう。


 「わかりました師匠!勉強しておきます」

 「うむ、そうするのだ弟子よ。後で本をまとめておこう」


 なんだか師匠、ノリノリだよなぁ。こっちもノリノリで教えてくれるなら色々聞きやすくていいんだけれど、なんだかかわいい。


 「首都はグリューエンベルク、世界最大の城塞都市として有名だね。環状に広がる城塞の中に、都市機能が集約されているんだ。人口も世界随一で、観光も産業も大規模。朝も昼も夜も関係なく常に人でにぎわっている都市、まさに不夜城みたいだね」


 城塞都市!なんともはファンタジー色あふれる地だ。どのぐらいの規模なのだろう……行ってみたいなぁ。

 

 「それに国民の特徴として忘れちゃいけないのが徹底した実力主義だね。国民の価値観として強さが重要視されていて、優れた才能や能力を持つならば厚遇される。まぁまた逆も然りなんだけどもね……皇帝も皇族の中から戦闘力や能力で選出されてきたって言ったら染みついた価値観の凄さがわかるかな?」

 「それは……相当シビアな国ですね。他の2カ国と比べてもかなり毛色が違うというか…なんでそのような弱肉強食の国家が形成されたのでしょう?」

 「人間を選別しないと生きていけなかったからだね。帝国は国土のほとんどが痩せた不毛な大地でばかりでね。それに大地から無限に湧き出る魔物たちに怯えながら生活をしなきゃいけなかったんだ。そんな土壌があったからこそ、弱者が淘汰され強者が生き残る世界になったんじゃないかな。まぁここ数百年で人類も発展して、生活は安定するようになったんだけどね」


 ずいぶんとシビアな環境で帝国の人々は生きてきたんだな。神王国は恵まれた環境にあったって話だから環境にとてつもない格差があったんだな。そりゃあ帝国の人々は神様を信じなくなるよなあ。


 「奴隷制……アルガは奴隷ってわかるかな?」

 「所有物のように使役される人間…ってところですか?実際どのようなものなのかはちょっと…」

 「それであっているよ。奴隷制が今でも残っているのは帝国ぐらいだから、人手に困ったら帝国に行って契約するのも良いかもね。僕はあまりお勧めはしないけど、奴隷を持っている冒険者は結構多くいるからさ」

 

 師匠がそんな提案をしてくるなんてかなり意外だった。ファンタジーには奴隷身分というものが存在していることが多いけれども、この世界でも存在していたとは。倫理的には憚られることではあるけれど、奴隷という労働力が必要になるときが来るかもしれない。覚えておこう。


 「それって国外に出ても有効な契約なんですか?」

 「おお、そこまで気が回ったのか。帝国で結ばれた奴隷契約は、三大国間で結ばれている協定によって保護されているから国境を跨いでも維持されるよ。だから冒険者は奴隷が奴隷を持っていることが多いんだね」


 どうせ違法な奴隷契約とかが裏で発生していたりするんだろうなぁ。もしかしたら俺も奴隷身分に落とされないように気を使っておかないといけないのかもしれない。


 「じゃあ最後にアルガのお待ちかね、アカシアの根幹やアベルの塔と並んで三大迷宮とされる、悪魔の巣窟(デモンズネスト)の話に移ろうか」


 おっ!ついにきたか、三大迷宮の3つ目。


 「悪魔の巣窟は帝国の中央に開いた大穴でね。さっき説明した帝国の首都、グリューエンベルクはその大穴を囲うように形成されているんだ。数十年に一度、大穴から魔物や悪魔が溢れ出してくる大氾濫(カタストロフ)に対処するために、蓋をする形で作られたのがグリューエンベルクというわけさ」

 「大氾濫ですか……とんでもないですね」

「ここ数回は規模も依然と比べて小さい傾向にあるという話だし、悪魔の巣窟には冒険者が数多く挑戦しているってこともあって、常に一定の魔物は間引かれているから安定しているよ。まぁその分帝国の治安がいいとはお世辞にも言えないんだけど」

 「でもなぜその3か所が三大迷宮と呼ばれているんですか?すごいって言うのはわかるんですけど、わざわざ括る必要があるのかわからなくて」


 この世界には迷宮(ダンジョン)と呼ばれる建造物や洞窟が無数に存在しているらしいから、どうしてアカシアの根幹とアベルの塔と悪魔の巣窟の3か所を特別視するのかわからない。そりゃあ、ただ単に規模が大きいからと言われてしまったらそこまでなんだけどさ……現にこの村の近くにも名前の付いていないような小規模な迷宮があるという話だし、何か理由があるようでならない。

 「それはね、その3か所の迷宮は未だに踏破者がいないと言われているからなんだ。あとそれに付随して、踏破者は人類を超えた存在に至ることができると言う伝承があることも共通しているね。まぁこれは誰も踏破したことがないから言われるようになった迷信だけどね」


 迷宮を踏破したものがいない……それって歴代の勇者や魔王すらも果てを見たことがないってことか。どんだけやばいところなんだよ……


 「まぁ帝国についてもこんなところかな。今まで、説明してきた3国がお互いに睨み合いつつも、小康状態を保っているのが現状だね」

 

 数百年前には戦争もあったという話だしなぁ。思ったより国同士の関係は良くないのかもしれない。特に神王国と帝国、なんだか相容れないものが多そうだ。


 「他にも小国だったり、海で隔たれている国はあるけど今日はここまでにしておこうか」


 そして師匠は身に着けていた腕時計をちらりと見ると、いつもと変わらないダンディな顔をくしゃりと歪めた。


 「あちゃあ、話しすぎてしまったね。ごめんごめん語りすぎてしまったよ。日が暮れる前に魔法を試しに行こうか」

「そうですね!急ぎましょう!」


 わかりますよ師匠!僕もオタク特有の好きなものについて話すときは早口にな悪癖を持っているんです!仲間ですね!!……いや失礼か。


 「よし、ついてきて。村人にバレると足止めされそうだから抜け道から外に出よう」

 「あい」

 「…スコーンは後で包んであげるから…そこまでにしようか」

 「あぐ」


 だって美味しいんだもん仕方ないよネ。

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