8話:魔法の才能
打ち切り漫画みたいなことを考えてしまっていたけれども、異世界人生はこれからが本番ともいえる。今までは言語学習とか人間関係の構築、異世界生活への順応ぐらいしかやってこなかったからな。
「ゴホン、よし魔力を知覚できるようになったことだし、次のステップに移ろう。次は魔力の制御を覚えてもらうよ」
わざとらしい咳払いをした師匠はいつもより早口でそう言った。恥ずかしかったのだろうか。
「制御って言うと…この胸に感じる魔力を思いの儘に操れるようになるということですよね?」
「そうそう!その魔力を身体中に循環させたり、一部に集中する訓練をしていこうか」
「……魔力を動かす方法がわからないんですけど」
魔力を感じ取れるようにはなったものの、結局どうしたらいいのかはわからない。
「言っただろう?魔法の真髄はイメージだって。やっぱり制御も完全にイメージだよ。こっちの方が感覚や慣れが必要だから苦戦するかもしれないなぁ」
ここでもやっぱりイメージですか……難しそうだなぁ。やっぱりどうしても前世の常識だったり感覚ってのが足を引っ張っている気がするだよなぁ。だって地球の人間はパイロキネシスを使えるわけでもないし、手から炎が出てくるイメージなんてしたことないし。
「まぁとりあえず。やってみますね……」
「そうそう、なんでもやってみることが重要だよ、壁を越えるためにはね」
体験談だろうか?師匠は昔を懐かしむようにしみじみと呟いた。そして続け様に師匠はアドバイスをくれた。
「足を組んで心臓との距離を近づけたり、手を体の前で組むと魔力を循環させやすいね。だからいつもアルガがやっている…あの足を組んだ姿勢…?がおススメだよ」
というといつもの座禅のような姿勢でいいのか。よいしょっと…足を椅子の上に持ち上げ、足を組んだ。子供の柔らかい体はこういうところで便利だから硬くならないようにしてきたい。前世の体はカチコチで前屈すらままならなかったからな。
「あとは…そうだな左胸にある魔力を左手から左足、右足にと順番に沿って送り出していくことかな。それぞれの部位を順番にイメージしていくんだ」
「じゃあ、丁寧にやってみますね」
「うん、焦らなくていいからね。こればっかりは本人のイメージだからゆっくりじっくりと基礎を固めていこう」
ゆっくりと目を瞑り息を整えていく。なぜだろうか魔力の塊という集中すべき対象を感じ取れていることで以前よりも深く集中することができている気がする。
(心臓から血流と一緒に魔力が押し出されるイメージ…か……)
魔力が身体中に行き渡るように…まずは左腕へと—————————————————おお!少しずつ動かせてる。体の中身が解きほぐされているような、未知でむず痒い感覚が身体に走る。今まで使われていなかった感覚器が刺激されているみたいだ。——————いてて…あんまり急ぎすぎると、足が痺れた時のような痛みが走るなぁ。———————————ゆっくりゆっくり……………
左足へ…
右足へ…
右手へ…
最後に頭部にいって……左胸に戻す……
そんな地道な動作を時間を忘れるように繰り返す。なんだか楽しいな。こういう地道な努力意外と好きかもしれない。勉強や運動なんて反吐が出るほど嫌いだったけど、魔法を覚えるためって考えると、無限に続けられそうだ。これが好きこそものの上手なれって感じか――――――ってめちゃくちゃ邪念が出てきてるな。集中、集中!!!
そんな調子で時間も忘れて修行に励んでいるとおもむろにトントンと背中をつつかれた感触を感じた。深くまで潜っていた意識が急激に浮上したことで魔力操作が乱れた。でも結構慣れたものだ、落ち着いて魔力の制御を取り戻し、左胸に落ち着かせることができた。
「————————なんですか?」
「おお!!ちゃんと制御できているじゃないか。急に話しかけても大丈夫だったね」
「できてましたか!自分でもできているような感触はあったんですよぅ!!」
「うんうん!すっごく良かったよ!」
師匠も嬉しそうに笑ってくれるの嬉しすぎるだろ!やっぱり褒めてもらえるとモチベーションが上がるよな。
「それに魔力制御だけじゃなくてなんなら魔法を使えていたしね。」
「えっ!!魔法を使えていたんですか!!」
「そうそう!僕もびっくりだよ。いきなりできちゃうなんて思わなかったよ」
知覚は自力じゃあできなかったのに、そっからは一気に進んだな。なんなんだ俺才能あるのかないのかどっちなんだ?
「魔力強化っていう無属性初級魔法なんだけどね。魔力の循環を素早く、効率よく行うと発動する魔法なんだ。効果は魔力による身体能力の強化、基本的でシンプルな魔法だけどそれだけ便利な魔法だね。要するにそれだけうまく魔力制御が行えていたってことだよ。どうだい体が熱くない?」
「確かにちょっと熱いような?」
「それが証拠だね。魔力強化は身体能力を上げるのと同時に代謝も良くなるから。
そうかぁ魔法を使えてたのかぁ…案外あっけなくて実感がないなぁ。魔力強化かぁ……めちゃくちゃ重要そうな魔法だ。練習して練度を高めていく必要があるだろう。
「だけど本当に不思議だなぁ。本当は魔力の知覚より制御の方が苦労するものなんだけど」
「本来どれぐらいかかるんですか?」
「早い人で1週間、かかる人で1年とかに渡ることもあるよ」
「じゃあ僕はすごいっていうことですか?」
自分でも思わず得意げになってしまう。鼻が伸びまくっていないか心配だ。でも考えてみたらこの優秀で幼い体は本来俺のものじゃなかったな……
「コラコラ、調子に乗らないの。自信を持つことは重要だけど、それを誇ってはいけないよ?」
「あーすいません。気をつけますね」
一応冗談のつもりではあったんだけど…いつにも真面目な表情をした師匠が珍しくて驚いてしまった。確かに重要な事ではあるけど…なんだかいつもの師匠とは違うような気がする。過去に何かあったのだろうか。
「ゴメンゴメン!そこまで指摘することでもなかったんだけどね。ただ、他の人との違いを見つけて、見下すことだけはしてほしくなかったから」
まぁ俺はまだ4歳だから、増長する可能性も十分にあるよな。流石師匠、身の丈にあった指導をしてくれる。流石っす、前世で大っ嫌いだった勉強も師匠が先生だったら熱心に取り組めたかもしれないな。
「はい!そんなことは絶対にしません!」
「でもアルガに才能があることは確かかもしれないな……」
考え込むように師匠は俯き、顎に手を当てた。
「もしかしたらだけどアルガは魔法に関連する宿命を持っているかもしれないね」
しゅくめい…宿命か……あんまりよく知らないけど宿命っていうのは世界が、その人間に求めている役割…だったかな?勝手にゲームの職業システムみたいなものだと思っている。
「魔法士かその上位の宿命か……そんな気がするよ」
「だったらもっと魔法を勉強しなくちゃですね」
宿命は8歳になると分かるんだったかな?楽しみだなぁ冒険者に向いた宿命————戦闘に関する宿命だと嬉しいんだけど。
「まだまだアルガは元気みたいだね。早速だけど少し休憩したら外にいって魔法強化を試してみる?」
「やりたいです師匠!!」
やる気に満ち溢れた若い体はまだまだ活動することができそうだ。師匠の家を訪れることができる日は限られているのだから、詰め込んでおかないとな。
「よし!じゃあちょっと休憩してから外に出よう。お茶でも入れるから待っていてね」
そう言い残し、師匠は部屋から出ていった。流石に精神年齢成人してる身として手伝わないのはないな。俺はあとを追いかけた。