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16 結末

 その後、一連の事件について王の裁定が下された。

 宰相や現王派は、当然いつものように形ばかりの謹慎や軽い罰だけで済み、自分達の権勢は一時的に若干弱められても変わらず続いていくと信じていた。

 しかし、王の裁定は彼らの甘い予想を超えた厳しいものだった。

 臣籍に下ったとはいえ王族直系のヴェルディーンの拉致監禁未遂、その目的は国政の私物化、更に王位継承権1位のネルフィアを冤罪で陥れようとしたとして、国への反逆者と位置付けた。

 

 直接的な主犯であるハントス公爵、その命令者である宰相は役職を解かれ、厳しいと有名な僻地の修道院へ送られることになった。国家機密を知るゆえ国外追放もできない者達の牢獄でもある。

 彼らはそれぞれ公爵家当主であったが、当主は交代され家格は伯爵まで引き下げられ、領地もかなりを没収され国の直轄領になった。


 彼らは、逆上と言っていい程反発した。

 仮にも一国の宰相や要職に就いた者を、公爵家当主だった者を、清貧にして日々の労働を伴う修道院へ送るなど前代未聞だ、と。

 最悪でも領地で「静養」、実態はそこから王都を操る権勢を持ち続けられるものだ。修道院に押し込められるなど人生の終わりではないか。


 しかし王は言った。

「過去の判例は調べた。似た企みを行った王妃を修道院へ送った例がある。今回よりむしろ規模は遥かに小さかった。お前達は王妃より格が上で、それ故見逃されるべきだと思っているのか?」

 そう。思っている。

 女の野心など愚かで自分本意に違いないから、徹底的に叩いて身の程を知らせるのは当然だ。他の女達もそれを見て弁えることを学ぶだろう。

 しかし男の野心は崇高なもので、女のそれと一緒にするなど馬鹿げている。それに男が野心をもつのはいいことだ。ちょっと行きすぎた位で潰しては人が育たないではないか。


「二重基準で男だけ甘やかして当然という、愚かで自分本意なその認知の歪みこそがお前達の致命的な欠陥だ。

ネルフィアを排しヴェルディーンを傀儡にと企んだ自身の罪の根底を、未だ自覚できていない。

お前達は最早、この国にとって益より害悪が遥かに大きい」

 王はかつての重臣を切り捨てた。


 処断を受けても、やはり彼らは改心などしなかった。

 各貴族を味方につけ覆そうと手を回し、大貴族を蔑ろにするなど国の基盤を傾ける愚行だ、とクーデターすら唆した。

 以前の、国政を私物化した現王派ならそれは成功したかもしれない。しかし布告の失敗以降、現王派は分裂・弱体化しており、更に彼らの家が家格を下げられたことで、彼らの発言力は地に落ちていた。

 前当主の愚行のせいで公爵から伯爵まで家格が落とされた親族は彼らを憎んだ。

 権勢も資本力も激減してしまった中、彼らの尻拭いで必死に奔走している時に、未だ現実を見ず俺の過去の栄光を取り戻す協力をせよと当然の顔で要求してくる老害の前当主は見限られた。

 

 主犯であるこの二人の他、関わった者達も罪に応じて罰が下された。クレシュ殺害未遂に関わった領主や副村長や実行犯も。

 ちなみに、夜会でクレシュに絡んだ中年男も企みに端役で参加していて、一族から身一つで追放された。

 一方、罪を犯した者の家族に対しては寛大だった。家格が落とされるなど間接的に苦労を被ることはあっても、共犯でない限り連座での処断は免れた。



 こうした公正な処断は、現王派閥の重臣の言いなりだった近年の国王の振る舞いとは大きく違っていた。

 国民は喜んだ。実の子供である王子王女の二人が陰謀により人生と尊厳を奪われる企みを目の当たりにし、重臣の腐敗に気付き心を改めたのだと。かなり遅くはあったものの、歓迎すべきことだ、と。


 しかし実態としては、人はそう変わるものではない。特に国王程に老いれば。

 国王は昔から変わらず、強い者に流される人為りのままだった。

 宰相達重臣が犯罪者として遠ざけられ、被害者たる自分の子供達ヴェルディーンとネルフィアに散々理詰めで叱られた結果、同調先が重臣から二人に替わっただけ。

 処断の言葉も、彼らに言われたことを真似ただけに過ぎなかった。


 正直に言えば、双子殿下もある程度それを予測して父を叱った。長年側で父を見てきたので、そういう人だと失望と軽蔑と共に理解していた。

 必ずしも計算だけではない。特にヴェルディーンは父に対し強い怒りを露にした。

 自身が拉致監禁されかけたのみならず、妻を殺されかけたのだ。未遂に終わったのは妻がこの国最高の勇者だったからに過ぎない。

 父は企みを知らなかったとはいえ、宰相達が増長・腐敗するに任せ温床を作ったという意味で多大な責任がある。

 そもそも、王女を勇者の報奨にと布告を出したのは現王派にのせられた父だ。

 今回の事件だけでなく国政全般にも言えることで、双子殿下は長年苦言を呈し父を諫めてきたが、それを無視してきた末路がこれである。

 国最高の意思決定者としての責任を厳しく問うた。


 何度も「親子水入らずの話し合い」が持たれた結果、国王は半年後に退位しネルフィアに王位を譲ることが決定した。

 父はまた誰かに何か強く言われると流されるかもしれないので、二人はさっさとそれを書面化し公告し、揺るがないものとした。

 こうして、時間はかかったものの国の旧弊は一掃され、半年後、ネルフィアが国王として即位した。



 数奇な運命を辿ったのが、宰相の娘グローシェである。

 彼女はヴェルディーンに「擦り寄る」ことを長年強いられた結果、評判が落ち嫁ぎ先は悪条件に限られた状態だった。

 ヴェルディーン誘拐未遂事件発覚後も事態を軽く見ていた宰相は、現王派閥内の結束を強め一枚岩となれば国王とて忖度して処断を軽くせざるを得なくなると判断し、派閥の重鎮に娘を嫁がせる手配を進めていた。

 相手は宰相と同年代、グローシェにとっては父程の年のヒヒ爺である。

 貴族女性の婚姻は当主が決め王が許可を出す。

 しかし公務を休みがちの父から決裁代行権を与えられていたネルフィア殿下は、書類の中にその婚姻許可申請を見つけ手元で止めた。

 やがて事件の処断が下され、そのおぞましい縁談は立ち消えた。


 家格が伯爵家へ落とされ叔父が当主になり、グローシェは家の厄介者となった。いずれ別のヒヒ爺に嫁がされるだけかもしれない。

 そんなある日、彼女はネルフィア殿下から王宮へ呼び出された。

 王宮の一室で、ネルフィアは一対一でグローシェに持ちかけた。官吏として王宮で働かないかと。


 --国王譲位が公告され旧王派閥で占めていた重臣の入れ替えを進めているが、優秀な人材はいてもこれまで役職から遠ざけられ経験を詰めなかった者が多く、人材育成に力を入れているところである。

 ネルフィアの治世では女性官吏を増やしたい。その先駆けの一人になって欲しい。

 グローシェは王妃候補として国王を補佐できる程に内政、外交、通商、風土、歴史、言語、社交術等、広きに渡り高い教育を受け身につけた優秀な人なので、是非欲しい。

 今後の貴女の働きによるが、いずれ宰相候補にもなる人材だと思っている。--


 グローシェは即答で承諾し、ネルフィアに深く感謝の意を述べた。

 これまで血の滲むような努力をして身に付けてきた知識や能力が生かせる。これまで築いてきた人生を、自分という人格を無に帰して、夫の都合のよい人形であることを喜びにせよと強いられなくていい。

 それは、人間の根元に根差した大きな喜びだった。父の檻や嫁ぎ先の檻に閉じ込められていては決して手に入れられないものだ。


 ネルフィア殿下は満足げに頷いた。

 これ程優秀な人材を、仮に優秀でなかったとしても尊厳ある人間を、ヒヒ爺の性処理用品として飼い殺すなどあり得ない。

 淑女の振る舞いもできるが、本質はヴェルディーンとよく似ていて不公正へは辛辣な物言いも辞さない彼女は、心でそっと呟いた。


 ちなみに、グローシェはかつて思いを寄せていた相手のことは吹っ切っていた。彼女が窮地にある時、彼女に近づくのを避けた相手に未練はない。

 王宮で職に就き、自信と生き甲斐に満ちた新しい魅力を放つ彼女に惹かれる男性は数多くいたが、彼女は当面仕事で手一杯だと微笑んだ。

 今後誰かを選ぶことがあっても、二度と檻には戻らないだろう。


メイン二人の出番が少なくてすみません…

次回からは二人の出番とほのぼのが増えます。

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