15 真相
ヴェルディーンとクレシュへの襲撃は、現王派閥の犯行だった。
厳密に言えば、宰相とその懐刀と言われるハントス公爵が中心で、ほか多数が関わっていることが後に明らかになった。
屋敷の護衛を引き上げさせた指示、クレシュを出張へ引きずり出した指示、襲撃者の身元や証言、使われた武器や毒の出所--それらは偽装工作されていたが、丁寧に辿っていけば犯人を指し示した。
あの夜、ヴェルディーンが護衛再配備要請を託した使者は、王宮執務棟の小さな控え室に通され、重要性を理解していないかのようにだらだらと何時間も待たされた。
それも犯人側の手回しだったのだろう。使者は平民でなく下級貴族の出だったが、相手の権力が大きすぎた。
早朝、たまたま早出だったルーゼル団長の元にディアが現れ、屋敷襲撃とその鎮圧の報を伝えた。
配下を連れ自ら出陣しようとしたところで憔悴した半泣きの使者と出会い、彼も連れて屋敷へ急行した。
そして色々と凄い惨状の屋敷で、勇者と元王子の無事を確認して息を吐いた。
役に立てなかったと泣く使者をヴェルディーンは、いや君は危険な仕事を立派に遂行した、不安に過ごす皆にとって君は希望であり心の支えだったと労った。
ルーゼル団長が部下達にすぐ現場検証させたのがよかった。その日の昼頃、検証を中止しすぐ帰るようにと、上--現王派の制武大臣から指示が来たが、団長はのらくら言って続行した。
彼らは、早朝からいなかったルーゼル団長の所在を掴みそこねて後手に回った。
ルーゼル団長は現王派閥ではない。彼らは自分の手の者以外に現場の証拠を集められることを阻止しようとしたが失敗した。そして彼らに不都合な証拠が集められていった。
無論、出張先でクレシュが捕らえた刺客や副村長、関与した領主、いくつもの証拠も派遣隊が既に押さえていた。
しかし、いかに明確な証拠が大量にあっても、権力を独占するブラックボックスが「俺達はこれを嘘と決めた」と言い情報操作すれば全て握りつぶされるのが現実だ。
それを阻止し、迅速に情報を世に晒し世論を味方につけたのがネルフィア殿下だ。
布告騒動以来、ネルフィア殿下が支持を伸ばし、一方で現王派閥が分裂して権力構造に皹を入れていたのが幸いだった。
ネルフィア殿下は集められた証拠と自身の力を持って楔のようにブラックボックスを割り、公正の守護者となった。
必要なのは実力や事実だが、それを権力に不当に潰されない盾として権力は重要だな、と、それを知る故に白の騎士団を務めるルーゼル団長はしみじみ思い、そしてネルフィア殿下のおわす王宮王族棟に向かって敬礼した。
◇◆◇◆◇◆
執務室で、クレシュはルーゼル団長から渡された現王派からの陳情書を読んだ。
--事件は全てネルフィア殿下の謀略であり、宰相及び現王派閥を冤罪に陥れるものである。以下こそが事件の真相であり、正義が示されることを願う。
ネルフィア殿下は王位への醜い野心に固執していた。
勇者への降嫁の布告は、王女の歪んだ野心を封じ安らかに女の幸せを求めて貰おうとした周囲の心ある配慮であったが、勇者がたまたま女性であったという悲劇的アクシデントで無に帰してしまった。
しかも腹黒い裏工作だけは得意な彼女は、ヴェルディーン殿下を陥れ臣籍に落とし王家から排除した。更に実の父を厳しく責め、壮健な大の男を心痛で寝込ませる程に人間性に欠陥のある烈女だった。
最早ネルフィア殿下の天下となるかと思われたが、そんな醜く愚かな者に国を委ねてはならない、と心ある者達は決して従わなかった。
中でもヴェルディーン殿下を次期王にと推す声は、彼の臣籍降下後も未だ根強く、優秀な兄に長年劣等感を拗らせていたネルフィア殿下は憎悪を募らせた。
そして今回、ヴェルディーン殿下とその妻の殺害を企て、その罪を目の上の瘤である我々になすりつけた--
「気持ち悪いな」
「全くだ。男の妄想力は怖いねぇ」
クレシュとルーゼルは一蹴した。
妄想界の住人を相手にしていると病みそうだ。まぁ、男社会歴が長い二人はこの手の妄想癖は山程見てきたので免疫があるが。
無論、捜査部局の悲しさで、こんな馬鹿馬鹿しい言い分に沿った調査もしなければならなかったが、彼らの主張の根拠は妄想しかなく、現実の証拠は悉く彼らの有罪とネルフィア殿下の無実を指し示した。
夜会の前にルーゼル団長から聞いた双子殿下の不仲説の噂、あれも現王派閥が出所だった。
恐らくそれでも、従来のように現王派閥で権力を独占した箱庭で裁定されたなら、容易に黒を白に白を黒にと塗り替え断罪されただろう。彼らは今までずっとそうした手口を繰り返してきたのだから。
事実関係でなく自分の欲望と権力で全てを押し通せるという甘えで自分達をスポイルしてきた結果、これ程お粗末な有り様になりはてたのだろう。
クレシュと屋敷の襲撃がどちらも失敗に終わり、証拠や証人が大量にできたのも彼らの誤算だろう。
ヴェルディーン襲撃は、「犯人」が彼を一旦誘拐して監禁し、後に現王派が「救出」するが、心身が傷ついていたため「保護下で療養」して頂くという筋書きだったそうだ。無論、犯人も救出者も仲間である。
現王派は救出者兼保護者として「病床のヴェルディーンの意志」を王宮に伝え采配を握る。実際に語られる意思は彼でなく現王派の意志だ。
ヴェルディーンを一生閉じ込めておけるものではないことは彼らも分かっている。
「保護」下にいる間に、「妹の非道」に気付き改心して救出してくれた現王派に感謝するようになれば--その過程で洗脳や薬物投与があるにせよ--表に出し傀儡として次期王の座に就けられる。
上手く洗脳できなければ「病死」し、その頃にはネルフィア殿下も「断罪」され消えている以上、王族外戚の男子を次期王に据えられる。
この胸が悪くなるような筋書きは、襲撃者達に吐かせたヴェルディーン「監禁」「保護」予定場所で襲撃成功の連絡を待っていた者達から聞き出した。
仲間の振りをした騎士団諜報員に、彼らは色々話してくれた。
クレシュへの襲撃は、ヴェルディーン誘拐の副産物だった。誘拐にしろ傀儡にしろ、ヴェルディーンが危機となれば鬼神もかくやと暴れて脅威となるからだ。物理的に。
また、王位継承者に復帰させるとしたら彼を臣籍に縛る妻は邪魔だったそうだ。
クレシュはため息を吐く。
「諜報員は大変だな。私は剣を振り回して解決する方が楽だ」
ヴェルディーンのいる屋敷を襲撃され、鬼神もかくやと暴れた勇者の言葉に、ルーゼル団長は苦笑する。
「適材適所。諜報員達は、魔物の巣穴に飛び込むよりはましな仕事だと思っているさ」
クレシュは顔をしかめて、分かったような分からないような意を表した。




