殺害される直前の実況中継をするラジオ
これは、ある女性が大学生になって、一人暮らしを始めたばかりのこと。
当時はまだ、スマホもガラケーもなく、ラジオがよく使われていた。
彼女もラジオを持っていたが、引っ越しの際に落として壊してしまい、リサイクルショップで中古のラジオを買った。
その日の夜……
『つよ~…く………っ…………………』
ラジオから流れてくる流行りの曲を聴いていると、突然、ジジジ…とラジオが乱れ始めた。
「あれ?さっきまで綺麗に音が出てたのに~!」
そう言いながら、彼女はラジオのチャンネルのつまみをゆっくりと回した。
───────ジジ…あ…ジ…お………ジ……
……だれ……ジッ……おま………ジジジ……
チャンネルを回してるうちに、男性の声がノイズの間から聞こえてきた。
「も~!誰この声?!あー!早くしないと歌チャン終わっちゃう~!」
彼女はイライラしながら、ラジオのチャンネルのつまみを回した。
───────ジッ…ちょ…ジジ…て…ジ……どう…いい?
「おっ、なんかいい感じに聞こえてきた…けど、さっきの歌チャンじゃないな~…てか、さっきからこの男の人誰なの?どこのチャンネルだろ?」
だんだん、その男性の声が明瞭に聞こえてきた、その時。
『ウワアアアアアアアアア!!!!』
突然、ラジオから男性のけたたましい悲鳴が上がった。
「は!?な、なに?!」
彼女は驚いて、音量のつまみを小の方に思いきり回した。
『頼む!何でもするからこっ…殺さないでくれぇ!!ウワアアアアアアア!!!!』
男性の悲鳴と、ナイフが何かを何度もザクザクと刺すような音が、ラジオから流れてきた。
「えっ…なに…これ?男の人…刺されてる?こんな時間にサスペンスなんてあったかな?それにしても、音がリアルで気持ち悪い…」
だんだん、叫んだり騒いだりしていた男性の声が聞こえなくなってきて…そして。
───────ジジジ……ジッ……あなたのことを~愛し…
また、ノイズが走り、先ほど彼女が聴いていた音楽チャンネルが流れ始めた。
「…今の何だったんだろ?なんか…音楽聴く気分じゃなくなったなぁ~…」
結局、音楽チャンネルの続きを聴かずに、彼女はラジオを切って、眠りについた。
その、次の朝。
『昨夜9時30分ごろ、○○県○○町で、37歳の男性が血を流して倒れているところを発見され、搬送されましたが、間もなく死亡が確認されました。男性は胸や腹などを刃物のようなもので、何度も刺された痕があり、また、男性の財布や金品を持ち去らずにそのままにされていたことから、男性に強く恨みを持つ者の犯行か、通り魔の可能性とみて、捜査を続けてるとのことです…』
テレビを付けると、そんなニュースが流れてきた。
「うっそ、○○町…ここじゃん。しかもこのテレビに映ってる場所、私のアパートの近く。嫌だ、今から大学に行かないといけないのに~…」
彼女はニュースの事件を怯えながら見ていると、ふと昨日のラジオのことを思い出した。
「そういえば、昨日のあのラジオ…あの変な声が聴こえてきたのって確か…9時過ぎ。まさか、この事件に何か関係が───って、あるわけないよね~」
そう言いながら、彼女はテレビのスイッチを切った。
◀▶
その日の夜。
彼女はまたラジオで音楽チャンネルを流していた…すると。
────────ジジ…ジジジジッ…
今まで鮮明に流れていた曲が乱れ、ノイズが走り始めた。
「え~また~?も~…今いいところだったのに~!」
そうぶつぶつと文句を言いながら、彼女はラジオのチャンネルのつまみを回した。
すると。
『イヤーー!やめて!誰か助けてえええええ!!!!』
ラジオから、女性の恐ろしい悲鳴が聴こえてきた。
「うわっ!?また!?も~ほんと、どこのチャンネルよ!」
彼女は音量を小さくした。すると。
『いや!いや!やめて…キャーーーー!!!』
「…え?」
そのラジオから聴こえる悲鳴が、外から微かに聞こえてきた。
彼女はベランダに出て外を確認すると、彼女のいるアパートそばのごみ捨て場の前で、覆面を被った怪しい人間が、倒れた女性の体に馬乗りになって、刃物でメッタ刺しにしていた。
「うっ…うそ、は、はやく、警察に………」
彼女は急いで警察に連絡した。
ラジオからは、ザクザクと刺すような音だけが響いていた…
◀▶
その後、警察がすぐに駆けつけたが、そのメッタ刺しにされていた女性はすでに絶命していた。犯人は逃走したのか、彼女が警察に連絡した後にベランダから確認すると、変わり果てた女性を残して居なくなっていた。
「…もうイヤ、こんなラジオ!聴きたくもない」
その事件の数日後の早朝。彼女はごみ捨て場にそのラジオを捨てた。
「これで変な声は聴かなくて済むでしょ。ん~…!今日は大学休みだし、二度寝しようかな?」
そう言って、彼女はアパートに戻って行った。
──────────ジジ…ジジジッ……どちら…ま?
『あ…あなた…あの日の…!や…やめっ!イヤアアアアアアアーーーー!!!』
『……………タス………テ……』
『……………シニタク…ナ…ィ………』
『……………』
─────────ジジジ…ジジ………
カチッ。