第6話 棺桶、快適ベッドになる
「わあ……フィンさまの中、すごくあったかいです……」
俺の、中に、エルフの美少女が入ってる!
やはり入れるなら死体よりエルフの美少女だな!
棺桶としてその認識はどうかと思うが、だって死体なんて入れたくないじゃん、普通。
――メルリーネの提案とは、棺桶をテント代わりに使うというものだった。
当然、棺桶は立った状態から寝た状態にしてのことだ。
死んでも無いのに入棺するとか、どうなんだと思ったが、
「生きているうちに棺桶に入ると、寿命が延びるという言い伝えもあるんですよ」
などという初耳な話をメルリーネから聞いた。
入棺体験による長寿説……誰が考えたんだろうなそんな説。
棺桶(俺)の中は、小柄なメルリーネでも寝返りをうちにくそうな空間だったけど、不満を漏らすどころかうっとりとしたコメントをくださった(冒頭)。
「しかし勇者のスキル『異次元収納』が俺にも使えたのは幸いだったな……」
収納の中にブランケットのような布が数枚入っていたので、それを敷布団代わりに使えたのだ。
そしてさすがに世界樹素材、断熱機能も抜群なようだ。雨も外気もシャットアウト。
独特の木の香りもリラックス効果をうみだし、メルリーネは案外快適にしている。
抗菌作用や防虫・殺虫作用もありそうで、けっこう清潔感あふれる空間といえるかもしれない。
異次元収納のゲートを棺桶の外と中に小さく開いて繋ぐことで、換気面も解決済みである。
魔王の領土に近いのが懸念といえば懸念だったが、傍目には放置されてる棺桶にしか見えないし、
そんなのをわざわざ開けに来る輩もいないだろう。
そう考えるとメルリーネの提案もなかなか悪くなかった。
「とりあえず一晩は無事に過ごせそうで良かった。……それで話の続きだけど」
「ぐう」
「安眠されとるー!!?」
棺桶の外側に目がついてるので(あくまで感覚的に)寝顔が見れないのがなんとももどかしい。
話の続きは明日になってからで良いか……自分も休むとしよう。
あるはずのない目をつむって眠りに入ろうとする。
今のところ肉体的な疲れを感じてはいないけど、魂?が感じるのか精神的な疲れはあるので、
棺桶となった体でも睡眠は必要なんじゃないだろうか。たぶん。
というか自分が棺桶になっているという時点で、もう色々悩みと疲れが押し寄せてくるのだ。
考えても全くの無駄だったし。もういいや今日は。
悩んだら寝る。寝て英気を養う。これが最高の解決方法だって誰かが言っていた。
ほんと今日はいろいろあったな……勇者パーティに捨てられたと思ったら、勇者の力が自分に宿って……モンスター相手に無双……エルフの美少女を助けて体内に取り込み……いや取り込んではねえ……
……
■■■
そして夜が明けた。
メルリーネより先に目が覚めたようだ。
彼女の寝顔を起きるまで眺めて、照れさせるムーブが出来ないのは残念である。
とかしょうもない事を考えてるうちにメルリーネも目を覚ました。
棺桶の蓋を開いて外に出るメルリーネ。棺桶の横にきちんと並べて置いておいた靴を履き、うーんと伸びをする。
雨はやみ、気持ちよく晴れた朝だ。
木々の間から漏れてくる太陽の光を浴びて、彼女の長い赤髪がきらきらと輝き、実に絵になるなと
ちょっと見とれてしまった。あと豊満な体を包む薄物の服が実に、こう。
「はあ、良く寝ましたー」
寝返りもよく出来ない空間だったろうに、熟睡なされたようだ。エルフの特性かな?
あと棺桶から出て「生き返った気分だぜ」とか言って欲しかったがさすがにそんなキャラじゃないか。
「じゃ、とりあえず近くの街まで行くとしようか?」
「はい!」
「そんで歩きながら昨日の話の続きを」
「ええと、私がこの森に居る理由でしたっけ……」
と、ここでメルリーネがけげんそうにこちらを見てきた。
「……フィンさま、その、失礼ながら……歩くことは出来るんでしょうか?」
「まあ、歩くというより這いずると言った方が近いかな……土魔法で地面操作してなんとかね。
これでも移動は出来るんだ。魔力は多少消費するけど」
「……あの、私が抱えて運びましょうか?」
思ってもみない提案が飛び出した。
「え!? 棺桶ってけっこう重量あると思うんだけど……」
とてもじゃないが彼女の細腕では棺桶どころか、水を汲んだバケツ程度でも両手でなんとかって感じなんだけど。
「よっ……と」
しかし、驚いたことに彼女は軽々と俺を抱え上げた。
「うおお!?」
腕にちっちゃいオーガ宿してんのかい!
「この力、私がこの森にいる事にも関係がありますので、それも併せてお話させていただきますね……
あまり面白い話ではないかもしれませんが」
エルフは見かけによらないのか、それとも彼女もまた特別な存在だからとかいう話なんだろうか……?
「いや、でもこれすごい助かる。めちゃくちゃありがたいよ。前を向いて進めるんだもんな」
素直にそう言うと、メルリーネは一瞬ぽかんとしたのち、
顔を真っ赤にして喜びの表情をめいっぱい浮かべた。
――その目に涙が光ったように見えたのは、気のせいだろうか。
「この力、私の『スキル』によるものなんです」
「スキル?勇者のスキルみたいな?
……ん、そういえば昔聞いたことがあるな……」
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