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第5話 棺桶、豚を焼いて美少女エルフを助ける

「や、やめてくださあい!」


 悲鳴の発生源と思われる場所まで這いずって来てみれば、一人のエルフの女の子が豚頭のオークどもに囲まれていた。


 腰まで伸びた髪は、この世界のエルフにしては珍しく赤い。

 遠目でも分かる、美少女だった。

 

 オークどもはそんな彼女をにやついた目で嘗め回すように見ており……その薄布の服を掴み今まさに引きちぎろうと手を伸ばし……

 

 (おっと、待て待て)


 慌てて土塊操作で地面を持ち上げ、それを支えに立ち上がる。

 蓋を開いて、『炸熱火球』を一つ発射。


 「ぶぎゅうっ!?」


 背後から火球を食らい、マヌケな鳴き声と共に丸焼きになるオークが一匹。


 「!?」


 ほかのオーク連中が慌てて振り返る……が目の前の俺にけげんな視線を送っただけで、周囲をきょろきょろと見まわしている。

 そりゃそうか、棺桶が魔法を使って自分らを襲ったとかそんな発想、人間だってしないだろう。


 その発想の限界が命取り。


 「ぶぎゃあああ!?」


 ――数秒後、すべてのオークが地面に黒焦げになって倒れ伏していた。

 火球の連続発射を正面からアホみたいに食らってくれたのである。楽勝。

 まあ、ゴブリンより一つ格上とは言え雑魚ではあるので、最初から敵と認識されてても同じ運命だったとは思うが。


「助かった……?」


 赤髪のエルフが震える声でつぶやいた。

 目の前で繰り広げられた出来事を理解できないでいる様子だ。まだこちらを怯える目で見ている。

 ……まあ仕方ないな。一応攻撃の意思はありませんよという意味で棺桶の蓋を閉めた。


 その意味は一応は通じたらしい。

 彼女はおそるおそるこちらに歩み寄って来て、自分のやることはおかしいのではないか……という迷いがありありであったが


「あ、あの。危ない所を助けて頂いて……ありがとうございます……

 なんて一応、言っておきます、ね……?」


 とお礼を言ってくれた。なので、常識的に


「どういたしまして。危ない所でしたね」


 と応答した。


「棺桶がしゃべったあああああ!?!?!」


 彼女も常識的な反応をした。

 案の定、想定内、思った通り。


「大丈夫! 大丈夫だから、ぼく悪い棺桶じゃないよ!!」


 棺桶に善も悪もないだろうけど……

 とりあえず、驚いて尻もちをついたエルフと思われる女性にそう声をかけてみた。


 なんとか警戒心を解いてもらいたくて、思わずぼくって言ってしまったな。


「え、ええ。助けていただいたみたいなので……悪い棺桶さんには見えないです」


 棺桶さんと来た。


「私は、……その、エルフの里から来ましたメルリーネと申します」


 初めて見る赤髪のエルフだ。エルフは金髪のみと聞いていたけど。

 オフショルダーの白いミニドレスに、濃い緑のサッシュベルトを腰に巻いている。

 見た目、年のころは16,7くらいか……エルフ年齢だと数字が3倍になるんだっけ。


 背は低いけど立派な胸部装甲……!雨に濡れて薄くて白い布がす、すk……とか言ってる場合じゃない。自分も自己紹介するところだろここは。


「あ、俺は……」


 やや言いよどんだが、それ以外の何者でもないのは見ての通りなので、


「……棺桶のフィン、だ」


 と答えた。

 自分が人間ならここで握手の1つでもかわすところなんだろうけど……

 とか思ってたら、メルリーネはややおっかなびっくり気味ではあるがハグをしてきた。


「フィンさま。重ねて、助けて頂いてありがとうございます。

 あら、いい手触り。美しい木目……匂いも……」


 うおおおおおきくてやわらいかいものがあああ……!!

 痛覚とかが戻ってきたのは不便だと言ったな。ありゃ嘘だった。お詫びして訂正をいれよう。


 ……ってなんか撫で回されてるぞ。このひと木目フェチかなにかか!?


 ――たっぷり5分くらい、さわさわされてみたりふんふん嗅がれてみたり。

 そうしてようやく我に返ったようにメルリーネは身を離した。


「し、失礼しました」


 顔を赤くする。


 ……柔らかくて暖かくて大きい感触タイム終了。

 実に名残惜しい。

 まさか棺桶になって良い事がこんなにも続くとは夢にも思わなかった。


「でも、動く棺桶さんなんて初めて見ました。魔王軍には命を吹き込まれて動く道具のような

 モンスターも居ると聞きますが……フィンさまは違いますよね?」

「モンスターではないのは確かだよ。そもそも俺は元は人間なんだよ……どこから話したものか」


 答えあぐねていると、


「触った感覚からして、フィンさまは神木で作られた棺桶ですよね。元が世界女神樹だとするなら

 人格があってもおかしくない、のかも……?」


 とメルリーネ。え、棺桶に人格があってもおかしくないの?初めて聞いたけどそんな話。


「私も聞いたことはありませんが……」


 ないんかい。あと、俺は元人間だからね!?


「そ、そうなんですか。失礼しました。人間になりたいと思ってる棺桶の人かと」


 メルリーネもだいぶ混乱してるな。まあ人間が棺桶になる話なんて聞いたこともないだろうし……つか棺桶の人ってなに。

 しかし、どう自分のことを説明したものかな……謎しかない話だしなあ。


「そういえば、エルフって里からあまり出てこないって印象があるんだけど、メルリーネはどうしてこの森へ?」


 とりあえず説明は棚上げして、メルリーネについて聞いてみることにした。

 実際エルフに会うのも初めてだったりする。


「それはですね、」


 メルリーネが答えようとしたところでさらに雨足が強くなってきた。

 ――そしてもう日が暮れかけている。


 さすがにそんな状況でモンスターが徘徊してそうな森の中、というのはいかにもよろしくない。

 自分一人ならともかく……


「場所を変えようか……このあたりに街かなにかあったかな……?」

「ええと、ここから徒歩だと3日くらいの距離にありますね」


 3日もか。

 雨にうたれながらの移動、俺はいいけどメルリーネに強いるのはちょっとなあ。

 かといってここをキャンプ地としようにも道具もなにもない。


「うーん、移動もきついしキャンプも出来ず、となると……」


 しばらく悩んでいるとメルリーネがおずおずといった感じで提案してきた。


「あの……フィンさまの中で一晩過ごさせていただく、というのはどうでしょうか?」

「……は?」


 は????

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