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第4話 棺桶、無双する

「なんじゃそりゃあ!」


 とりあえず心の中でツッコミの意を込めて叫んだつもりだったが、声が出ていることにしばらくして気がついた。


「あれ、喋れる……?どこから声が出てるのか全く分からんが。

 とりあえず……状況を整理しよう。落ち着いて。すーはー。ってそればっかだな棺桶になってから……」


 喋れることにちょっとした嬉しさを感じたので、もう堂々と独り言をどんどん言っていくスタイルになった。

 

 はたから見れば、しとしと雨の降る中、道端に置いてある棺桶からブツブツと何やら声が聞こえてくるのだ。

 通りがかる旅人でもいれば、都市伝説のエピソードが確実に一つ増えるだろう。


「俺は棺桶だ。それはいい(良くないけど)。そして勇者の力に目覚めた。ってことなのか。

 それについては普通に良い話だ……地水火風の属性系を基本として、勇者専用の光系の魔法が使える!

 あと身体強化系。『異次元収納』などの勇者の3つのスキルも使えそうだ」


 脳みそに瞬時に情報が入ってきたかのように、何もかも問題なく把握できている。


 さっきの棺桶ビームは勇者が使える中で最強の魔法だ。妹はまだ使えてなかった。

 経験を積んでレベルアップすればいずれ習得はするのだろうが――自分はその辺すっ飛ばして全部使えるみたいだ。


「しかし、いきなりえらいもんをぶっ放してしまったな」


 地図が書き換わるレベルだぞあれ。試射が空でよかった。


「光系には回復魔法もあるみたいだ、試してみるか……えーと、回復!」


 魔法を使うぞ、と意識しただけで即発動するようだ。『身体治癒ヒール』が発動し、棺桶の体が緑の光芒に包まれそれが消えた時には破損した部分が全て元通りになっていた。


「どういう訳か詠唱無しで使えるな。普通は詠唱必須なはず……

 まあめんどくさくなくていいか。つか魔法楽しい!」


 この高揚感、万能感。

 まさに『覚醒』したという!なにせ勇者の力だ!願わくば人間体の時に目覚めたかった!


「しかし、結局動けんのは同じかあ……」


 棺桶の体には手も足もないので、勇者の力に目覚めたところで当然そういう状況だ。

 移動手段はないものか?脳内検索して使えそうな魔法を探す。棺桶のどこに脳があるのかとかもう考えない。


「身体強化系になんかないかな?

 ……ドッペルゲンガー、これは自分の分身を生み出す魔法か。棺桶増やしてどうするの……」


 うーん、勇者の力、万能そうにみえて飛んだりするようなことは出来ないみたいだ。

 色々試してみた結果、土系魔法の『土塊操作ランドワーク』で棺桶の背中側の地面を隆起させ、なんとか立つことが出来た。


「土塊操作で地面を動かして寝そべったままずりずり動こうかとも思ったけど……やっぱ立った方が視界的に便利だな」


 などと、棺桶の蓋をばたんばたん開閉しながら(任意で動かせるのはここだけだった)、ブツブツつぶやきつつ状況把握に努めていると――


 いつの間にか全身緑色の子供みたいな連中に包囲されているのに気づいた。


(ゴブリン……!)


 緑一色で子供ぐらいの背丈、ぼろ布を腰にまとったみすぼらしい恰好。

 尖った頭に尖った耳、全身から悪臭をまき散らしている雑魚敵の代表格――ゴブリンだ。


 そのゴブリンどもはガギグゲゴ系の多い謎言語をわめきながら、自分の周りを

 グルグル回って警戒している。立ち上がったところを見られたかな。

 いや思い切り蓋も開け閉めしていたっけか。


(棺桶が立ち上がるわ蓋が勝手に開閉するわで、そりゃ怪しいわな)


 そのうち手に持ったこん棒やら石斧やらでガッツンガッツンつつきだした。

 痛てて、今までは無かったはずの痛覚が。これは不便な。

 前は破壊されてもなんともなかったのに……痛し痒しとはこのことか。


 ガッツンガッツンガッツンガッツンガッツン。


 ……小鬼ども鬱陶しい! 表面削れる!

 と、なれば。

 実戦で確かめてみるとするか、勇者の能力……!


「よし……まずは基本、火系。『炸熱火球ファイアボール』……の下級でいいか。発射!」


 その瞬間、棺桶内部で火球が発生して蓋の内側に衝突し、鍋の蓋ほどの大きさの焦げ目がついてしまった。


「あっつ!! ……そうか魔法は基本的に蓋を開いて発動するものなのか……閉じたままだったわ。

 使ったのが下級で良かった、棺桶ビーム撃ってたら体半分くらい消滅してたかもな」


 一人で(一基で、かな。棺桶の単位は基なのである)どったんばったん大騒ぎしてる様子を見た

 ゴブリンどもが笑い声を一斉に上げ始めた。


 くぐもった爆発音がして棺桶が微振動したと思ったら、蓋の隙間から煙が立ち上ってきたわけだからな、

 言語は分からんけどなんとなくバカにされた雰囲気は伝わってくる……こいつら!


 思い切り蓋を開き、火球を発射。正面に居たゴブリンは炎につつまれ黒い塊と化した。

 なるほどゴブリン程度だと魔法は最下級で十分みたいだな……勇者の戦闘は見てはいたけどどの魔法がどのランクなのかは実感なかったし。


 慌てるゴブリンどもを見て、ほくそ笑む自分(脳内で)。


「さあ、どんどん実感、いってみよう!」


 正面のゴブリンどもは『炸熱火球』を連続発射して焼き尽くし。

 側面や背後に回り込もうとする奴らには、軌道を操作できる風系の『風刃裂断ウィンドカッター』で輪切りにする。

 棺桶の足元から氷のフィールドを広げ、足を滑らせたゴブリンを『氷柱突出アイシクルタワー』で下からつららを生やして串刺しに。


 そんな感じで自分の魔法の効果を把握しながら、ゴブリンを余裕をもって全滅させることができた。

 雑魚とはいえノーダメージで(自爆は除く)、相手に反撃のいとまも一切与えないまま……

 まさに一方的、だった。


「本物の勇者なみか、それ以上に戦えそうだぞ……!」


 子供のころから、もし俺が勇者なら、勇者の能力が使えるならという、脳内シミュレーションを何度も何度も繰り返してきたんだ。そのおかげか実にスムーズに能力を使いこなせている。


「これで体が棺桶でなければなあ……」


 つくづくその一点に尽きる。


「しかし、これからどうしたものか。勇者パーティに戻る?いやいや……

 棺桶が命を得て動き出したとか、モンスターそのものじゃないか。話を聞いてもらう前に

 殲滅されそうだ。……よく考えたら人間社会にすら戻れんぞ」


 なら、今後一体何のために生きればいいのか。

 木材と生物の中間の生命体となり永遠に世界をさまようのか。

 つかこんな状態は生きているといえるのか。


 生命の定義とは……


 雨が降る中、ゴブリンたちの死体に囲まれながらしばらく黄昏てみる棺桶の俺。

 ――どれだけの時間が経ったのか、1時間かもしれないし10分かそこらだったかもしれない。

 とつぜん森の中から悲鳴が聞こえた。


 女性のようだ……


 自分の力も確認できたし、これならまさに勇者のごとく誰かの危機に颯爽と現れ救い出す、などという事も可能な気はする……のだが。


「助けたところで確実に怖がられるだろうな……」


 ……しかし、かといって無視するということは出来なかった。


 それより問題はどうやってその場所まで行けばいいのかである。


「まあ、当初考えたように足元の地面を土塊操作で、ってのでいいか」


 足元に集中し、接地面の地面を前方に動かして前進。


「ぶほっ!」


 とたんにグラグラと揺れたあげくばったりと倒れてしまった。背中を強打する。

 ……重心が高い!

 そもそも棺桶は立って動くものではないわけで……こうなったらもう寝たままで移動したほうが良さそうだ。


「這いよる棺桶……新しい恐怖の誕生ですよー……」


 などと言いつつ仰向けの俺、悲鳴の聞こえた方向へ地面をずりずりと進んでいく。



 ……そして俺は、赤い髪の美少女エルフと出会うことになったのだった。

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