第36話 棺桶、パンツを見る
――そして数日の馬車旅ののち。
「……あれがそうなんだな? 確かなんだな?」
問いただす俺の声に緊張の震えがまじる。
「確か。あれが魔王様の。居城」
「……マジか。マジで着いてしまったっしょ」
「着いてしまいましたね……」
ドーナに確認も取ったし、間違いはなさそうだ。
小高い丘から見下ろす先にあるのが、――目指していた魔王城。
ついに。
「ついにここまで来た……!」
城自体は白を基調とした壁、青っぽい屋根の尖塔が複数見られる、この国の王城と比較しても遜色のない規模の城。
この大陸がまだ統一される前は、とある別の国の王城でもあった。
統一後はこの国の第二首都候補になったこともあるらしい。
しかし今は魔王に乗っ取られ……城壁も城下町もなくなっている。
かわりに青緑色に怪しく光る巨大なクリスタルがいくつも周囲の地面から生えており、城を囲んでいた。
それぞれのクリスタルの間にはときおり稲妻じみた光が走っている。
城はそれらの光によって怪しく照らされ、何とも言えない不気味さをかもしだしていた。
「……いかにもクリスタル間を通り抜けられはしません、って感じだな」
試してみようとすら思わないレベルで怪しい。
「あ、歩いては入れそうにありませんね」
「当然。通り抜ける前に。死ぬよ」
やっぱりか。
「ドーナっちに先触れに出てもらって入れてもらう、とかどうっしょ」
「(っち?)アポとってないし……今。魔王軍でわたしの扱いがどうなってるか。不明」
「確かに……下手すると裏切り者扱いされてて、即取っ捕まるかもしれん」
普通の城塞や要塞だったなら、正面から攻撃魔法で城門吹っ飛ばしてゴリ押し侵攻するつもりだったけど、ああいうセキュリティは想定してなかったなあ。
「空。飛べない? わたし。飛べるけど」
ドーナが無表情ながらややドヤ顔じみた感じで聞いてきた。
「この勇者かんおけはそういう魔法持ってないっしょ。痒い所に微妙に手が届かない勇者サマっしょ」
「悪かったなー」
「ドーナさんにフィンさまを持って飛んでもらう……とか」
「重い。無理」
こうなると空を飛ぶ手段が必要となってくるが……
空飛ぶ絨毯みたいなのは街の店で見かけたけど、せいぜい地面から3ミリ浮かんで飛ぶ程度の性能だった。
現状何の役にも立たないし、そもそも低性能のわりに高価で買ってもいないけど。
「んじゃ、前のダンジョンみたいに地中から攻めるか?」
「地中にも。クリスタルは伸びてる。かなり深く。あまり良い方法とは思わない」
マジか、どこまで伸びてるかにもよるが……
地面の下って深く潜ると温度や圧力とかすげーことになるんだっけ?
「そうなんですね……あの、クリスタルを私が殴って破壊するというのは……どうでしょう?」
『怪力』スキルの持ち主メルリーネがおずおずと手を上げて提案するが、
「並みの人間があれに触れるのは危険。まず死ぬ。そして魔法反射特化素材の魔界水晶。魔法も反射する」
ドーナに即時否定されてしまった。
しかも魔法反射素材って。
「てことは棺桶ビームでもダメってことか……」
物理も魔法も不可、やっかいだな。
かといってこんな所でうだうだしてても、いずれ城から魔王軍のやつら(多分精鋭)がやってくるかもしれん。
城にいる連中をそうやって全部吐き出させて殲滅してしまえば、後は魔王のみ、なんて作戦も考えたがどれだけの兵力が居るかも分からないし……魔王が普通に部下と連携して攻めてきたりしたらどう転ぶか分からなさすぎる。
「横からは無理だけど。上からなら入れる。バリアに天井なし。穴あいてる」
なるほど。蓋がされてない円筒のバリアね……
「じゃあ、土を高く盛って城の屋根に飛び降りるというのはどうですか?」
「名案っしょ! つかバリアの高さはどれくらい?」
「城の高さの二倍。ほど? あったと思う」
よし、メルリーネ案採用。それで行くとしよう。
さっそく土塊操作を発動させる、が。
「……あれ、土魔法が効かない。土動かねえ。まっとうな土じゃないなこの地面?」
「なかば魔界化してる影響。と思う。それもクリスタルのせい」
ぐぬぬ……壁になるわ周囲の土壌を汚染するわ、やっかいすぎる代物だ。
魔王が周囲に警備兵みたいなのを一切配置してないのも分かる、信頼性抜群の防御機構だわ。
となると八方ふさがりか……上は空いてるっていうのに……
「きゃ!?」
その時強風が吹いて、メルリーネのスカートを盛大にめくりあげた。
へそまであらわになる絶景であった。
目に下着の色・形を焼き付けつつ――ある決断に至る。白。
「やはりそれしかないな……ありがとうメルリーネ!」
「何言ってんしょこのエッチマン!」
「いや違う、違わないかもだけど空を飛ぶ決断が出来たというきっかけであって蹴るな蹴るな!」
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