第30話 棺桶、魚になる
「ここが、女神樹ネットの世界……?」
蒼い――そこは透明度の高い水の中だった。
変わった姿の魚が群れたり単独だったりであちこち泳いでいるのが見える。
俺たちも、一匹の魚のような形になっていた。
アバターという、仮想の分身らしい。風景は水の中だが、魚の姿を取ってるせいか何も支障はない。
眼下はどこまでも続いている森だった。
ほかの泳いでる魚は女神樹の精霊たちかな、マイアはお姉さま方と言っていたが。
同じような女性の姿をしているのだろうが、今は皆おさかなさんであった。
「おお?あれが……もしかして」
はるか続く森の向こうに青みがかった逆三角形のシルエットが見える。
それはとんでもない規模で枝葉を上に広げた、巨大な樹……あれが女神樹なのか。
「あれ? てことはここは大陸の東部……? だけど水の中……どうなってるんだ」
「ここは仮想空間って場所。魂を飛ばしていくところなのは聞いたっしょ。現実の世界とは違うワケ。
……まあ精神世界みたいなもの? ってとこっしょ」
分かったような分からないような。
とりあえず現実世界ではない、という認識でいっとく。
「今のところ、魔王のほうも人間のほうも大きな動きはないっぽいしょ」
マイアが何を見て言ったのかと思ったが、湖底だか海底だかの森に、女神樹ほどではないがそれなりの枝ぶりのでかい樹が生えており、その枝にいろんな大きさの板が釣り下がっている。
その板に文字が流れては消えたりを繰り返していた。
「なるほど掲示板か」
その掲示板の周りには多数の魚アバターが群れており、皆が最新情報を求めて閲覧しているのがわかる。
掲示板に流れてるニュースを軽くチェックしてみると……
『【朗報】魔王軍、東部方面軍司令ドーナ行方不明』
『ゴブリンの間で、濁点を使わない言葉での会話が流行ってる件について』
『新人吟遊詩人による勇者サーガ第一話感想まとめ』
ドーナの件は大きな動きではあるが、こっちとしては既出ネタなのでスルーとして、確かにほかに重要なニュースはなさそうだった。
「文字列に触れるとさらに詳しく見れるけど?」
「ほんとだ。『勇者パーティの女神官ちゃんが性的すぎる』……ふむふむ」
「何読んでるっしょ!!」
いやいや、実際俺勇者パーティの一員だったし(物扱いだったが)、メンバーについての話題はチェックしておかないと、ネ?
「もうここから立ち去っても良いんだケド?」
「……すいません」
名残惜しいが、その掲示板から離れる。
「つか聞くの忘れてたけど……今回は何の情報を探してるっしょ?」
「自分がこうなった経緯を探る」
魂を操るドーナが犯人でないのなら、魔王の仕業とも考えた。
しかし魔王の手によるものであると仮定すると、時間的に辻褄が合わない。
ドーナは鑑定で来歴を見る限り、1年ほど前には既にネクロマンサーだった。
となると、もう犯人は女神樹しかありえないと思ったのだ。
魔王を倒すため勇者選別。←わかる。
俺の魂を棺桶に封じて放置プレイ。←わからない。
女神樹の意図を確かめなきゃ気が済まないのだ。
「うーん……さすがにその辺の情報、下級程度じゃたぶん無理っしょ」
「そうなのか。んじゃ上級や中級の情報を見てみよう。どうすれば?」
「ちょっと女神樹に向かって進んでみるっしょ」
なんだかよくわからないが、マイアが女神樹に向かって泳ぎだした。
しばらく進むと、突然いままでほとんど存在を感じなかった周囲の水がやわらかい素材になったように感じられ、それに阻害されて前に進めなくなってしまった。
何か見えない壁がある……?
「女神樹の周辺は範囲分けがされてるの。
女神樹に近いほうから上級精霊の森、中級精霊の森、下級精霊の森、というように
等級で入れる領域が決まってるっしょ。
いまアタシたちがいる場所は下級精霊の森。これ以上は中級にならないと進めないってワケ」
んな明確に区別されてるのか。
「そして得られる情報も、レベルが上がるごとに重要なものになっていく?」
「そゆこと。魔力補充に関しても、前レベルを32にしてもらった時は中級扱いされて
引き出す量が相当上がったっしょ」
――つか、今は中級にも入れないってことか。
そういや一時的レベルアップの魔法は5分ほどの時間制限があり、すでにリミットは過ぎてたんだった。
「んじゃまた50に上げとくか」
「ここでやんの!?」
まあこんな状態で魔法が使えるか不明だったけど、とりあえず問題なく使えた。
すると、周囲を覆っていた見えない壁のようなものが消え、また前に進めるようになった。
――しかし、結局のところ中級の森に進んでも自分に関係しそうな情報は得られずじまいだった。
となると、ここはやはり、もっとレベルを上げて上級に進むしかない……!
「マジっすか……ええい、ここまで来たらやってやるっしょ!」
「いくぞ、倍プッシュだ……! レベル80っ……! ドラゴン越え……!」
「ごくり……! 全然倍じゃないっしょ……!」
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