第3話 棺桶、道端に捨てられ覚醒する
「てえやあああー!」
「あァ!?不用意に吶喊すんじゃねェ!」
「……きゅう」
「また、死んだのですか……防御魔法をかける暇もありませんね……」
「……」
異次元収納の空間から勇者パーティの旅をしばらく眺めて分かったことがある。
それは妹ミリアムは、やはり性格的に勇者に向いてないということだった。
(妹が勇者に選ばれた経緯には『女神のお告げ』があったというが、完全に人選ミスではなかろうか)
――とにかく死ぬ。
もともと戦うことが嫌いで臆病な性質なので、戦闘になれば常に恐慌状態に陥り、意味不明な行動を取りがちなうえ戦いのセオリーをまるで分っていなかった。
敵の魔法使いに正面から切りかかって(しかも及び腰)、即死呪文で死ぬ。冒頭の流れがそれ。
ゴブリンの群れに単独で向かって行ってフクロにされて死ぬ。
オーガにタイマン挑んで死(ry
(いくらパーティの面子がベテランぞろいとはいえ、妹の無謀行動を全フォローは無理か……
首都教会に戻っての復活、これで繰り返すこと何度目だろう)
最初のほうこそ妹が死ぬのを目撃するたびに血の気が引き、その死体を入れられることにとてつもない悲しみを感じたものだが……あまりにも回数が多いのでそのうち多少は慣れてしまった。
復活は約束されているようなものだし、死体も、女神官が回復魔法を使ってある程度治して棺桶に入れてくれるし。
なんでいちいち棺桶に入れて運ぶかというと、教会に死体を直接運びこむわけにはいかないというのと、この棺桶は『女神世界樹』の分身たる『神木』から作られた特別製とのことで、並のものとは頑丈さや保存性などで段違いの性能を持つらしい。
しかも多少破壊されたとしても回復魔法をかければ、たちどころに元の形を取り戻す。
(まさに勇者専用にふさわしい棺桶……と言いたいところだけど)
この世で唯一のものってわけでもなく。
特別製であってもいつかは壊れる程度のもので、俺が使われるようになったのも以前のものが壊れたからっていうことだし。
(結局棺桶になっても、俺の代わりなんていくらでもある、ってことか……)
■■■
――妹が勇者に選ばれ、村から旅立っていった後。
俺はそれなりに気落ちはしたものの、嫉妬に駆られて闇落ちするような精神は持ってはいない。つもりだ。
「勇者にはなれずとも、勇者パーティの一員に加えてもらう余地は残っているじゃないか!」
そんなわけで、俺も首都まで出向き、勇者パーティに参加するための試験を受けることにしたのだ。
――結果は、水晶選考落ち。
最初の個別面接の時に、用意された水晶に手をかかげて自分が何の資質があるか、現在の能力はいかほどのものかを魔法で判別する儀式が行われたわけだが……判明した事実は、
『特に何にも向いていない』『能力的に勇者一行に加われる域に達していない』『おきのどくですが……』
というものだった。
……これが現実。
そりゃ、俺は誰か有名な戦士などの血を引いてるわけもなく、きちんとした訓練を積んだわけでもなく。
ただの……凡人だ。よたよたと試験会場を出る。
「……結局、俺はこの物語の主人公じゃなかった、てことだ……
主人公は妹で……たぶんこの先、叙事詩として語られるような活躍をするんだろう。
自分はその傍にいる事さえできない……脇役ですらない、モブか……モブリンか……!
こうなればモブリンチャンピオンでも目指すモブ……首都でお土産に木刀でも買っていくモブ……」
よく分からない思考のまま、人生どん底オーラをまき散らしつつ俺ことモブリンは家路につく。
気づくと、故郷の村ではなくその近くの森をさまよっていた。
そして行き交ったオークの群れと遭遇し……
「俺、モブリンチャンピオーーーン!!」
やけくそ気味にお土産木刀を振り回し応戦、転落、……死。
そして棺桶に転生するという、訳の分からない経緯を経て――念願の勇者パーティに加わって……
■■■
……そして今、俺は魔王軍領土に近い森周辺の街道ぞいに放置され、雨に打たれていた。
街道で魔王軍に奇襲された際、またしても死んでしまった妹。(3日ぶり40回目、死因:即死魔法)
その妹の死体を棺桶の俺に入れる際、巨人系モンスターのトロールが不意を突き俺ごと妹を攻撃してきた。
何度も蘇ってくる勇者の情報が魔王軍で共有されて、魔王から徹底的に死体を破壊せよ、とかの指令を受けたのかもしれない。
トロールによる棺桶への攻撃は、棺桶と妹の死体を一部損壊し、妹の傷からは大量の血が棺桶内部に飛び散った。
トロールは直後に戦士によって倒されたが、魔王軍のさらなる増援を察知した勇者一行は、棺桶を修復・回収する時間はないと判断。
戦士が妹の死体を担ぎ、王城に向かって街道を撤退していったのだ。
――中破した棺桶の俺はみごとに見捨てられたわけである。
(俺を捨てるなんてとんでもない!)
などと騒ぐこともできず、ただ彼らの背中を見送るしかなかった。
(終わり……? まさか俺、これで終わり? そんな……ひどい。
死んで棺桶になって……今度はその魂はどこへ行くんだ?)
ただただ絶望感を味わう。このまま、動けないまま、朽ちていくしかないのか。
ふりしきる雨と、自分の中に飛び散った大量の妹の血が物理的に身に染みていく。
木製のこの体に、勇者の血が……
染みる……
……染みて、いく……
(……なんだ、これは?)
血が染みるごとに、何か力が満ちていくような気分に……
世界女神樹の一部から作られた、この棺桶の体に。
勇者の血が染みとおり。
それがなんらかの反応を引き起こしたのか。
――なぜか今なら魔法が使える気がした。
人間だった頃にも感じた事がない、この奇妙な感覚――それは魔力。その魔力を集中させる……
天に向かって開かれた棺桶の内部に、徐々に光の粒子が集まっていき、次の瞬間。
ごおっという炸裂音とともに太い光の柱が空に向かって放たれた!
光の柱は、重く立ち込めている雲の一部を大きく穿ち……その丸い穴からは青空が見えた。
「これは……勇者専用、光系の最大級攻撃魔法――!
たしか魔法名は、万象万魔必滅神光波(アルティメット・ディバインホーリーレイキャノン)。……長っが」
なので、今後は棺桶ビームと呼称しよう。
「……いや、違うだろ。そんなことより、いったい何が自分に起こったんだ……?」
と言ったものの、訳の分からない状況のはずなのに、感覚的には何もかもを掴んでいた。
理解が追い付いてないだけ。
それは、つまりはこういうことだった。
自分に、勇者の能力が宿った――と。
この、棺桶の体に。
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