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第16話 棺桶、馬車に乗る

「そういえば、フィンさまのドラゴン退治の件もギルドに報告しませんと!」


 メルリーネが誇らしげに提案してきた。

 それもあったな、うーん。しかし。


「……それについてはこの際黙っておく」

「なんで!? とんでもない報酬が出るんじゃない!? もったいないっしょ!」

「せっかくの偉業ですのに……」


 当然、マイアもメルリーネも渋い顔。が、


「あの難度のクエストになると国への詳細な達成報告も必須だし、もろもろの確認、手続きに結構な時間がかかるはず」

 

 そして、棺桶の自分がやったなんて報告するわけにもいかないし、駆け出し冒険者のメルリーネがやったことにすると相当な話題になるだろう。そうなると確実に、彼女の周りによからぬ考えを持つ輩が寄ってくることになる。

 疑う奴、腕試しを仕掛けてくる奴、取り入ろうとする奴……


「そんなので足止めされたくない。なるべく早く妹の魂を開放したいんだ」

「なるほど……確かに、そうですね」

「まー、それを言われちゃ、しょうがないっしょね」


 それで二人も一応納得してくれた様子だった。

 報酬はちょっと心残りだが、なに、金銭面の当てはあるのだ。


 なるべく早く、ということで馬車も調達する必要があるな。

 徒歩では魔王城までの道のりが果てしなさすぎる。

 旅の開始は街での準備が終わってからだな……


「とりあえずさっきの街でいろいろ調達しよう。支払いは頼んだぞ、マイア」

「はあー!? なんでアタシが!?!?」

「ドラゴンの財宝をちょろまかしてきてるの、気づかれてないとでも?」

「……チッ」


 生身じゃないくせに、その辺自由に触ったり持ち帰ったりできるんだもんなコイツ。


 しかしなんだかんだと二人に頼ってる自分である。

 棺桶の身であるとはいえ、少し申し訳なくなる。

 早く人間に戻りたい。けどもそんな方法、どこで探せばいいのやら……



 ■■■



 山岳地帯を目指して、棺桶一行は平原をかぽかぽと進む。

 街で一頭立て四輪の無蓋馬車(屋根無しタイプ)を調達したのだ。


「これがウマかあ。初めて見たっしょ」


 普段女神ネットでしか情報を得られてないマイアが、物珍しそうに馬を眺めている。

 メルリーネが御者。自分は荷台に立ち、足元を土嚢で固めてもらった。倒れないようにするためである。


 馬車で棺桶を立てたまま運ぶ女エルフという、謎しかない見た目に

 この辺に出没するという盗賊団も気味悪がったか、一切襲撃などもなかった。


 ――朝日に照らされた緑が実に爽やかだ。


 ダンジョン攻略後、街で装備品や旅の必需品などの調達をしたあと、もう一泊して改めて魔王討伐の旅を始めることにした。マイアのちょろまかした財宝の一部はそれだけでも相当な額に換金することが出来た。


 当面金の問題で困ることがないくらいである。ほくほくである。

 マイアはぷりぷりしていたが。もともとお前のもんじゃないだろ……


 さておき、あと少ししたら昼ごはんタイムってくらいの時間だ。


「そろそろ魔王軍の領土に入ったかなというところですね」

「え、なんか境界線を越えたとかあったっけ?」

「人間側と魔王側、明確に国境線が引かれてるわけじゃないっしょ。

 この辺になると魔王軍の連中がちょいちょい出没するよねー的な」


 メルリーネがなんでそんな事知ってるのかと思ったが、冒険者ギルドで情報を得ていたらしい。

 周到で助かる。


「それじゃそろそろお昼にしましょうか」

「待ってたっしょ!」


 マイアが歓喜の声を上げる。


 実体のない精霊のくせに、金には執着するわ人間の食い物は食べたがるわ。

 魔力で生きてるという、食べ物なんて別に必要ないはずの体なのにどうなっているのか。

 精霊って、前世は人間だったりするのかね……


 いったん馬を止めて、メルリーネが適当な野原に俺を下ろして寝かせ、棺桶の周囲の空間に手を突っ込んだ。

 異次元収納である。そこから布製のレジャーシートを取り出して広げた。

 もう慣れたものだなー。


「今回はサンドイッチにしましょうか」


 そう言ってシートの上にたくさんのサンドイッチが並べられた。

 ベーコンサンド、たまごサンド、フルーツサンド、ハムサンド……


 異次元収納にはいくらでも物が入ること、入れた物質は命あるもの以外は時間が止まることをメルリーネに教えたら、存分に腕を振るってくれたのだ。


 サンドイッチだけではなく、ほかにも様々な料理を作ってくれたようで、異次元収納には大量の食糧が浮かんでいる。

 劣化しないからって、生魚の切り身と玉ねぎを合わせたカルパッチョ的なものまであった。

 メルリーネが一晩でやってくれました。


「おお、彩り豊かっしょ。さっすがメル」


 しかし完全にピクニックモードである。

 暖かな陽の光の下、モンスターのいないのどかな風景、女の子二人、色とりどりのサンドイッチ。そして棺桶。

 どう見ても完全に楽しげなピクニック風景である。


 なにか一部、雰囲気にそぐわない異常物体がある気がするのはスルーしてほしい。


「お口に合えばいいのですが。どうz」

「いただきガツガツ……」


 マイアが何もかも食い気味で食べ始める。洒落ではない。


「……ええと、フィンさまには申し訳ないのですが」

「いや、気にしないで食べて食べて」


 メルリーネはやっぱり律義だな。


「それでは失礼して……」


 と淑やかに食べ始めたが、サンドイッチ群がメルリーネの口の中に消えていくスピード、尋常じゃない。

 ヒュゴオオとかいう効果音が聞こえるようだ。あの大量の食糧はもしかして自分のため……?

 俺と会ってから街までの旅の間は、木の実程度しか食べれてなかったがよく持ったな。


 棺桶の身ではモノは食べられないので、黙って二人が食べてるところを眺める。

 なんとも美味そうな様子だ。

 なぜか普段そういう欲求もわかないし空腹も感じないが、やっぱり誰かが食べてるところを見るとおいしいものをまた食べられるような体になりたいとは思う……


 メルリーネは静かに(高速で)食べているが、マイアは目を見開きながら「うまい!うまい!」を大声で連呼している。

 お前は食えない俺に対してもう少し配慮してもいい。

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