第12話 棺桶、硬くなる
――冒険者ギルドまでやってきた。
小さい街にあるギルドなので、冒険者たちの入りもそれなりだ。
受付嬢もやや暇そう。
掲示板には依頼が書き込まれた羊皮紙がたくさんピン止めされている。
「とりあえずメルリーネはここで冒険者登録をしてくれ。勝手に依頼を解決したら刑罰ものだからな」
「は、はい」
冒険者登録、自分もやってみたくはあったんだが対象はエルフを含む人間のみ。
棺桶はどう頑張っても登録できない。精霊も見えないので無理。なのでメルリーネに頼むしかない。
受付に向かうメルリーネ。
棺桶を担いだ赤髪のエルフが入ってきた時には、冒険者たちもさすがにざわついたがすぐに落ち浮きを取り戻し、興味を失うか油断なく注視しているかのどちらかになった。
そしてどうやら赤エルフは冒険者に登録する手続きをするらしいと分かると、一人の冒険者が歩み寄ってきた。
「よお、そこの赤髪エルフさん。あんたが冒険者になるってのかい?」
こいつは顔が赤い。酔っぱらってるな……
昼間っからそんな体たらくのやつは大概、ろくな奴じゃないのが定番だが。
――見たところ、格闘家のようだ。年のころは20台前半てとこか。
肩から先のない緑色の道着、細マッチョな体形。それなりの腕前っぽく見えはする。
「ちっさい体だなあ。胸はご立派だが……武器はこの、棺桶かあ?ぎゃははは!」
「いや、あの……や、やめてください……」
完全に絡まれている。髪をいじってきたり、体まで撫でまわし始めた。こりゃアウトだ。
メルリーネも力はあるんだから、とは思うが里から出たのも初めてだろうし、場慣れしてないのは仕方がない……まあ俺も以前なら逃げの一手だったかもだけど、今は違う。
ここはなんとかしてやらないと。
しかし棺桶が一般人相手に立ち回るわけにもいかない。
通報されてモンスターとして追われる身になってしまう。
――ということで。
「メルリーネ、こう言うんだ。『…………』(ぼそぼそ)」
「ええっ!? ……あ、あなたもひょろい体形ですね。そ、そんなんで格闘家とは、笑わせてくれます」
「な、なんだとお!?」
突然の挑発に顔をさらに赤くする格闘家。
「続けてこう言うんだ。『…………』(ぼそ)」
「あ、あなたの突きや蹴りなど、この木製の棺桶ですら傷一つつけられないでしょうね」
「い、いいい言いやがったなああ!?」
体を震わせて激怒する格闘家。
「フィンさま! 本当に良いんですか!? 並みのものより頑丈とは言え木は木なんですよ?(ぼそ)」
「大丈夫大丈夫」
「何をぼそぼそ言ってやがる!? おじけづいたか?」
おっと怪しまれないうちに次の行動に移らないと。
「次は『…………』(ぼそ)」
「じゃ、じゃあ棺桶は私が支えてますから、真正面から打ち込んでみてくださいな。ひょろひょろ突きでも蹴りでも」
とメルリーネに俺を床に立たせ、後ろから支えてもらう。
魔法発動のためにほんの少しだけ蓋を開いておいて。
「棺桶ごと吹っ飛んでも知らねえからなあ!?」
などと言うなり格闘家は突きを繰り出してきた。奇しくもメルリーネが前にやったのと同じ、正拳突きだ。
それなりの腕前らしいのは間違いなかったようで、姿勢、速度ともに申し分ない。
これならその辺に生えてる木くらいであれば、ワンパンで幹に大穴を穿つかそのまま折り倒してしまえるだろう。
そんな申し分のない突きが俺の体を正面から打ち抜く――!!
「ぐわあああ!?」
しかし、悲鳴を上げて床をのたうち回ったのは、俺ではなく格闘家のほうだった。
メルリーネも目をぱちくりしている。そして俺の体が鈍色に光っているのに気づいた。
「これは……!?」
「……勇者専用の特殊魔法、身体強化系の一つ『鋼鉄化』だ。
今、俺の体は鉄と同じ硬さになっている(ぼそ)」
つまり格闘家は、棺桶の大きさの鉄の塊に全力の突きを放ってしまったわけだ。
当然、砕ける。
鋼鉄化してしまえば、攻撃も魔法もまず通じなくなるという防御系の特殊魔法。
自分にだけではなく、近くの人間にも使えるのでメルリーネを鉄の像にすることもできる。
ただし一切動けなくなるデメリットがあるが……
「て、てめえええ! 何やりやがった!?」
……げ、仲間がいたらしい。
今までニヤニヤしながら状況を眺めていた鎧の男が、椅子を蹴って立ち上がった。
手を出すだけ無駄だってのが理解できんらしい。まあ、俺もメルリーネも立ってるだけだったし何が起こったのか分からんかったか……
くそ、ただの登録手続きに無駄に時間かかりすぎだ。
(ええい仕方ない)
鋼鉄化解除、風魔法発動。
小型の竜巻を発生させ、鎧の男の腰に吊り下げていた剣を巻き込んで剣帯ごと引きちぎり、その剣を竜巻で運んでメルリーネの手元にぽんと放ってやる。
「『……』(ぼそ)」
「は、はい!」
そしてメルリーネがアドバイス通り、剣を引き抜き……刀身を真ん中からぼきりとへし折った!
ギルド内がどよめく。鎧の男も今度こそ理解したようで、床にへたり込んでしまった。
状況終了。
――ひと悶着あったが、無事メルリーネは冒険者ギルドに登録を済ませることが出来た。
その後、メルリーネは風魔法を使う格闘家と思われたらしく、この界隈では『風の拳の赤エルフ』としてしばらく話題になったという……
「『駆け出し冒険者』の認識票をもらっちゃいました!」
嬉しそうなメルリーネ。
エルフの里を出て、未知の経験が続いてテンションが上がってるのかもしれない。
そしてまた自分のスキルを有効活用できたということも理由の一つだろう。
「これで、掲示板に張られている依頼を受ける権利が得られたわけだ」
冒険者としていくつかの義務も発生するが、ギルドには悪いけど魔王討伐まではバックレさせていただく。
「……それで何するつもりっしょ」
マイアが不機嫌に聞いてくる。
実のところさっきの騒ぎの間もぎゃーぎゃー文句を言っていたのだが、精霊の言葉は人間には普通聞こえないし、それに応答してたら変な人扱いされるだろうからスルーしていたのである。
それで何をするかって。
「メルリーネ、この掲示板で一番いいのを頼む」
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