第10話 棺桶、異世界ワードを聞く
――当然、街中を棺桶を軽々と担いで歩くメルリーネは滅茶苦茶目立ってしまった。
しかしなにせ物が棺桶、「何か深い事情があるのだろう」と街の人々も勝手に察してくれるか不気味がって近づかないようにするかのどちらかで、結局は聞きとがめられることもなくなんとか宿を確保してやっと落ち着くことができた。
……といっても、部屋の扉に棺桶がつっかえてしまったので結局、馬小屋で寝るハメになったが。
うまくさい。
「宿屋の親父、かなり怯えていたな」
「悪いことをしました……あ、その。フィンさまが悪いってことはないんですけど」
物が物だけに仕方がない……どこの世界に棺桶と一緒に宿に泊まろうとする人間がいるかっていう。あの親父も宿泊を許可した場合、拒否した場合、それぞれで起きそうなトラブルを天秤にかけてるっぽくてだいぶ迷ってたもんな。結局泊めてくれたのは僥倖というしかない。
「やーれやれってとこね。で、何の話だったっけ」
棺桶からしゅるりと出てくるマイア。と言っても蓋を開けて出てくるわけではない。
半透明の人間の形をしたものが棺桶の蓋を通り越して出てくるのだが、その様子はどう見てもお化けです。本当に(ry
……で、何の話だったっけ?
「フィンさまの……」
「ああ身の上話。アタシは特に興味ないので勝手にやっといて」
とか言ってすぐ引っ込んでしまった。自由か。
つっても宿った物から離れられないわけから、そこまででもないかも?
「まあとりあえず、始まりは妹が勇者に選ばれたところからかな……」
■■■
――そんな流れで、俺が今なんでこんな形をしているのか、元々はどこに住んでて何をしていたらこうなってしまったのか。
メルリーネに会うまでをひととおり説明した。
「なるほど……勇者になった妹さんの血の力で、勇者の力に目覚めたと……」
「たぶん、だけどね」
「初めて聞きました、そのような話……」
「結局、アンタの魂が棺桶に宿った手がかりなんて無さそうねえ、聞いてて損したっしょ」
結局聞いてるんじゃないかマイア。まあ自分が宿ってる棺桶自体が喋ってるんだから
嫌でも聞こえてくるんだろう。
「アンタの魂が宿った時点でアタシが追い出されかけたワケで……誰がそれをやったかが分からない、と。
アンタ何か呪われるような事したんじゃないの?」
「全く身に覚えがございませんな……」
「アンタ選ばれし者になりたかったんしょ?誰かがその願いを聞いてくれたとか。邪神とか」
こんな選ばれし物やだー! 邪神やだー!
「棺桶に死んだ人間の魂が宿り、魔法を使うなんて。聞いたことのない話にもほどがあります」
メルリーネも腕を組んで困り顔だ。
「しかし文句言う相手が不在なんて気持ち悪いっしょ。アタシを死にかけるところまで追いつめたやつは
絶対許さんっしょ……ぶつぶつ」
口も悪けりゃ人相も悪い状態でマイアがグダグダ言い続ける。
俺もこんな目に合わせた奴、なんとしても突き止めてやりたい。棺桶ビーム、撃ち込みたい。
……と、マイアがいきなり静かになった。
急に気持ちが収まったか?と思ったら、
「え……マジで……? ……まさかっしょ」
とかボソボソつぶやきだした。
完全に白目だし、空中に向かって両手を上げて指をわきわきやってる。
なんかこわい。
「何か悪い霊にでもとりつかれたんでしょうか……」
突然だなあ。この馬小屋、何か曰くでもあるのか?馬刺しにされた馬の怨念がさまよってる?
メルリーネがおびえて自分の側にすり寄ってきた。
つか実体の無い精霊が、悪霊に憑かれるとかあるのか。
と、マイアの怪しい動きが止まり、くるっとこっちを向いた。
ビクっとして自分の後ろに隠れるメルリーネ。
悪霊に効きそうな光系魔法でも一発かましてみようか、と棺桶の蓋を開きかけたところマイアが普段の軽いノリとは真逆の口調で告げた。
「勇者の魂が魔王の手に落ちた、って……」
…………
「――は???」
今までの話題からすっ飛び過ぎた台詞に疑問符しか浮かばなかった、というか内容についていけなかった。
なんて言った? 勇者が魔王を落とした的な感じだったかな?
「勇者の魂が、魔王の手に落ちた、て言ったっしょ」
繰り返すマイア。
なんだそりゃ。唐突な話にもほどがある。
メルリーネも頭上に「?」マークを飛び散らかしているぞ。
「ええと……精霊冗句?」
「ハァ? 真面目に聞けかんおけ野郎!勇者が魔王にやられちゃったつってんの!」
「なんでそんな事を突然言い出すんだ……脈絡が全くないぞ」
「まあ人間は知らないか……」
とややマウント取った感じの目でこちらを見てきたのでつい、
「棺桶ですけどー?」
などと答えてしまったが、
「元人間でしょうが。都合よく人間と棺桶を使い分けるんじゃないわよ」
正論を言われた。うぐぐ。普通聞くことのないような正論だが。
「私も知りませんが、どういうことなんですか?」
「……世界樹の精霊全員が共有できるSNSがあって、そこに勇者についての
最新情報も随時アップロードされてるんだけど、今そこに勇者が魔王の手に落ちたという
情報が上がってきたってワケ」
とマイアは説明した。
「なんだそれ……えすえぬえす、とか、あっぷろーどとかお前は何を言っているんだ?」
聞いたことのない単語だ。余計混乱してくる。
「アタシも良く分かってないんだケド、女神樹が使ってる言葉なワケ。SNSはまあ情報交換が出来る集まりみたいなもん。
アップロードってのは情報を提供する事、ってとこかな」
「はあ、私も聞いたことのない言葉ですね……」
メルリーネも首をかしげている。
「噂では、この世界よりも文明が進んだ異世界で使われている言葉だとかなんとか」
異世界と来たか……叙事詩にもたまに登場する、この世界とは異なる世界。
そこから勇者が降臨することもあったというが。
「ともかく、世界の情報をアタシの仲間である精霊たちが集めて、誰でも見れるようにしてある場所があるってコト。
――女神樹ネット。情報の正確性と迅速性はまさに女神樹の折り紙付きよ。
あ、誰でも見れるっていうのは精霊なら、ってことだケド」
精霊専用の新聞社って感じなのか?見えない新聞でも飛び交ってるんだろうか、その辺の空間。
分かったような分からないような。新しい概念すぎる。
「さっきの不審な行動は、そのSNSとやらから号外のお知らせが来て情報を確認してたってことか?」
「察しは悪くないわね。そんな感じよ……って、不審な行動てなに!」
マイアが思いもよらないことを言われたとばかりに慌てる。
「いやさっきの、情報を確認してたって時。
マイアの挙動は傍から見たらいかにも頭おかしい人のそれだったぞ」
「うげげ……誰かに見られてる状態で女神樹ネットにアクセスしたことなかったから分かんなかったわ」
頭を抱えるマイア。
精霊は人には見えんらしいし、そりゃ初めて見られたってことになるわな。
なんであんな動きになるのかは分からんが……しかし、女神樹の保証つき情報ね……
「……いやちょっと待て。という事はさっきの、うさんくさい話ではなくマジ情報ってことなのか!?」
事態の重さに気づいて慌てだす俺。
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