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第1話 棺桶、妹を入れる

  俺は夢を見ていた。


 それはただの夢ではなく、俺が今まで過ごしてきた日々とこれから起きることがないまぜになったような、不思議なもののように思えた。

 勇者になることを誓った幼少時代……自分が凡人だと思い知らされ絶望した日……

 そしてついに勇者の力に目覚めた未来。


 その未来では、俺は三人の女性に囲まれてモンスター相手に無双していた。


 周囲にいる女性の一人は、人形を抱えて魂を操る、ここぞと言うところで期待に応えてくる頼れる幼女。

 もう一人はこの世のありとあらゆる情報を集められるという精霊。

 そして残る一人は自分を精神的にも物理的にも支えてくれる、赤毛のエルフ。


 ……物理的?


 そして俺は、勇者のスキルや魔法のすべてを自由自在に使いこなしていた。

 俺の蓋を開けて放たれる魔法はドラゴンですら焼き尽くすのだ。


 ……蓋?


 蓋ってなんだ?

 俺の体に、蓋がついている……!?



 ■■■



 次に目が覚めたとき、俺は棺桶だった。

 何を言っているのか自分でも分からないし、一体何をされたのか……


 見えるのは見覚えのない木製の天井。それが見えるってことは目がある生き物のはずなのに、自分が棺桶になっていることをなぜか認識している。


(……いやそんなバカな!)

 

 だいたい棺桶のどこに外部の視覚情報をとらえる部位があるってんだ?

 しかしどういうわけか人間同様の視界、視力があるのだ。


 その謎の視界で周りを確かめる。自分のほかにもいくつか棺桶が置いてあるっぽい。

 自分と同じような木製で、蓋の表にはこの国の正教会の紋章が浮彫りされている。


 暗くてなんとも辛気臭そうな場所だ……


 目が蓋の表についてる感じなので、感覚的にはあおむけに寝かされてるように思える。

 しかし全く動けねえ……そりゃ棺桶だもんな!


(おーい! 誰かー!)


 てか声が出ねえ! 棺桶だもんな!


 ともかく、落ち着け自分。すーはー、深呼吸。口も鼻もたぶん肺もないから気分的に。

 ……ちょっと色々整理してみよう。自分は誰か。どうしてこうなったか。


(自分の名前は、……分かる。フィン。フィン・ザーク。歳は15歳)


 直前の記憶は、確か……



 ――そう、空を眺めていた。

 青く晴れた空に、きれぎれの雲がゆるやかに流れている。

 そんな爽やかな午後に俺は血を流しながら、仰向けに倒れていたのだった。


 生まれ育った村の近くの森をうろついていた時に、オークの群れに襲われ……

 何匹かは倒したものの、後ろに回り込んできたオークに後頭部を殴られ――崖から転落。

 そうして空を眺めながら……



(……そうだ。……俺は死んだんだ)


 そして棺桶になったんだな。なっとk……できるか!

 人は死んだら死体になる。棺桶にはならない、普通は。そのはずだ。


 しかし実際自分は棺桶になって、どこだか分からない場所に運ばれてきて、なんか放置されている。


 それともここが死後の世界か。人間が死んだ数だけ棺桶が増えていく世界……?

 ほかの棺桶にもそれぞれの意識があって、自分のように誰にも聞こえない声を上げているのだろうか。


 声……

 そういえば、さっきは女の子の声で起こされた気がする。


 思い出してきた。なんか「落ちる、落ちるぅ~!」みたいな事を言ってたような。

 でも、今は聞こえない……?

 つか落ちるって何がだよ。俺はもう既に崖下に落ちたっての。


 ……うう、考えても全く何も分からない。


(これは何かの罰か? ……俺何かやっちゃいました?

 勇者を夢見てそれっぽい修行をやってた、どこにでもいる普通の少年ですよ!?)


 輪廻転生という概念をどこかで聞いたことがあるけど、生物間でぐるぐる回るものではなかったか?

 無生物もありなのか? せめて動けるものであってほしかった……


 妹がいるんだ。自分がいなくなれば悲しむだろう。

 そんな妹を陰からそっと見守れるような、転生するならせめてそういうので!蚊とかでかまわないから!

 常に妹の耳元で飛び回り励ましていきたい!


(……てかまず死ぬなんてのが嫌だ!まだ、まだ自分は何もやれちゃいない……

 誰か……助けてくれー!)


 ――その時だった。

 扉が開く音がして、誰かがこの部屋に入ってきた。逆光だが、人の姿をしているのは分かる。

 少なくとも、ここは人間がいる世界、らしい……?


 入ってきたのは、鋼の全身鎧で身を固めた戦士風の、禿頭のいかつい男だった。

 誰かを抱えている。青を基調とした軽装鎧姿の美少女だ。黒髪おかっぱで……あれ、見覚えがある……!?

 次の瞬間、棺桶の体に電流が走った。


 その少女は、妹のミリアムだった。


 1年ほど前、世界女神樹のお告げにより選ばれ、首都正教会の祝福を受け勇者となり……

 選りすぐられた精鋭の戦士たちを率いて魔王討伐の旅に出た、自慢の妹のミリアム。

 見間違えるはずもない。しかし戦士風の男に抱えられた、その妹は、


 ……死んでいた。


 そして戦士風の男は俺の――棺桶の蓋を開き、中に死体のミリアムを入れた……


(うわあああああああああ!?!?!?)


 いったん意識が、途切れた……



 それからどのくらいの時間が経ったのか……いつしか地面を引きずられている自分に気が付いた。

 俺の頭部?あたりの棺桶の端にロープが結び付けられ、それを使って戦士の男が引っ張っているようだ。

 どこかへ運んでいるのか。


 いやそんな事よりやっぱり俺は棺桶だった……次に目覚めたときには人間に戻ってると思いたかったが……

 そしてどういうわけか妹も死んで――ただの屍として自分の中に寝かされている。


(悪夢だ。悪夢のような現実だ……)


 ――自分たちの周りには戦士の男に加えて、とんがり帽子に灰色のローブを着た魔法使い風の中年男、四角い帽子、ゆったりとした白い服に青いストールをかけた神官風の若い女がいる。

 もしかして彼らは勇者となった妹のパーティの面子なのか。


 彼らは、勇者が死んだという状況にふさわしく沈痛な面持ちで……


 ……いや、全然そんな事はなかった。散歩でもしてるかのようなのんびり感。

 魔法使いなんて口笛吹いてやがる!


(こいつらみんなイカレてやがんのか!? 神は連れていく人間を間違えてるんじゃないか!?)


 などと声もなく喚いていると、神官女が口を開いた。


「……しかしこれで何回目でしょうか? 彼女が死ぬのは」

「15回目だ。勇者とは思えねェ情けなさ、大丈夫かねこの先」


 魔法使い男が答える。


 15回も……死んでる?え?15回?いや、ということは、14回生き返っている?

 えっとつまり……まさか。


「いくら勇者固有スキル『生還』があるからって、ほいほい死に過ぎだぜェ」

「生来戦う事が不得意と見ましたが……それでも勇者として女神樹に認められた者。我々は補佐せねばなりません」

「女神樹のお告げか……しかし生還つっても、首都教会まで運んで大神官による復活の儀式が必要、

 ってのはちょいと面倒だよなァ」


 なんだこいつ……勇者パーティの面子にしては口が悪いな。

 いやそれよりも!

 この会話内容からして、教会とやらまでたどりつければ、妹は、生き返る……のか?

 俺の中、棺桶の中から再び甦って、くれるのか!!?



 ――そして驚いたことに実際、そうなった。

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