みえないものは、むずかしい
張り出し窓の内側には、鉢だとか小物を置いておけるようなテーブル状のスペースがあって、そこが少女の特等席だった。乗っかると少し狭いけれど、じっとしていれば落っこちたりはしない。ひとりの時は、あぐらをかいて外を眺めて、部屋の主が帰ってきたら、彼と一緒に話したり、静かにしていたり。でも向かい合って会話をするのに、あぐらは少し、はしたない気がするので、そういう時は内壁に沿って両足をぷらぷらさせて――そんな毎日を過ごしていた。
日焼けに弱いから、レースカーテンは常に締め切っている。白のベール越しに長いこと外を眺めていて、彼から「楽しいか?」と聞かれたけれど、そんなこと、決まっているではないか。
少女は楽しかったし、幸せだった。少女にとっての不幸とは、必要とされなくなること、邪魔者扱いされること、捨てられること、この三つで、そうならない限りは全てが幸せだった。あの日までは。
不幸に四つ目が増えたのがいつだったか、少女は明確に覚えていた。そのときは腹の底から怒りが湧いてきて、それがいつしか悔しさに変わって、今では自分でもよくわからない感情になって、体のどこか奥深くで、ぐるぐる渦を巻いている。
ある日、彼が落ち込んだ様子で口にした。母親と口論になったらしい。聞く所によると、彼は母親の古い友人という女性のことを心底嫌っているけれど、その人とは単に馬が合わないだけで、さほど実害を被っているわけでもない。ここのところ母親からの小言が多くなって、腹立ち紛れにその友人について文句を言ったら、そこから無関係のことにまで口論が飛び火したのだと言う。彼は自分の発言が難癖だったと反省していたし、悔いてもいた。
もちろん少女は彼を慰めた。どうしてもなにも、彼のことが好きだからだ。好きな人が落ち込んでいるのを見ていると、自分まで気持ちが塞いでしまう。
慰めながら、少女は思った。気持ちというのは、いつも発露を求めているのだろう。ずっと胸の内に秘めたままではいられないのだ。溜まりに溜まった感情は、不本意であっても、いずれどこかで顔を出す。もしかしたら自分でも気づかないうちに、少しずつ漏れ出しているのかもしれない。
不本意のうちに、少しずつ、漏れ出しているのかもしれない。