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投げ捨て  作者: 仮:綴
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 戸を開ける。陽が入る、暖かい。

 気がつけばずっと家にいる。いや、確かに外には出てはいるが。それが避けるべき行為となったそのときから、出ることが少なくなったのは確かである。

 ニート、引きこもりなんて言葉は自身には似合わないだろう、そう昔は考えていた。今はそれに近いのではないだろうか。

 学がないということはない。成績はともかく、学校にはちゃんと通っていた。ただ、働くという言葉に対して遠く離れた場所で生きていただけだった。その距離は年齢を踏めば勝手に縮まるものだろう、そう考えていた。

 しかし実際、近づいてみると恐ろしい。自らの行為をもって他人から報酬を受け取る、報酬に見合うだけのことをしなければならない。そうややこしく考えてしまうのが決していいこととは限らないとはわかっている。しかし、そう大雑把にいるには義務や責務、対価という言葉に対して敏感、あるいは従順すぎているのだ。そして、臆病であった。

 自由に、したいならすればよいという態度で生きてきた。だがそれが難しい世界へとこれから向かうのだ。その切り替えはそう簡単に、はいはいとできるものではないらしい。

 同級生がバイトを始めた、などと言っていることを、ほかの友のようにブルだと茶化せないことに気がつく。働き、稼ぎ、今まで支えてきてくれた親に、家族に恩返しをしたい。親戚の子らに何かプレゼントでもあげてみたい。そんな気持ちも湧いてくる。

 だというのに、することができない。わかっている。そんなに難しいことではない。同級生だってやっている。私ではできない、そんなことばかりではない。それでも、その一歩に対して臆病でいる。きっかけを見つけられないでいる。

 踏み出せれば私は強い。すぐに適応して、打ち解けて、程々に給料分は働いて、しっかり生きていける。私は自信家である。それでもその臆病さ故に持った自信も掻き消える。


 気持ちを切り替え、今日も液晶と向かい合う。ターミナルを開き、決まった文字列を打ち込む。ああ、そうだ。まだ早かった。

 サーバー機の起動を待つ間、朝食を済ます。親は都合で外出していた。食パンを二切れ出し、トースターにセットする。牛乳とブルーベリージャムを出しながら、結局身長は低いままだな、とその飲料にまつわる都市伝説を疑う。

 程よく焦げ目のついた食パンをつかみ、皿に乗せる。ジャムを塗りつけ食す。


 自宅サーバー。不安視していた電気代については省電力プロセッサーの採用や、スリープやシャットダウン、再起動の自動化により解決している。また、高性能なプロセッサーが比較的安価で入手できる現在の市場についてもありがたかった。

 将来のため、と称して親に求めて始めはしたが、そんなものは後付けに過ぎない。ただ友達と遊びたい、サーバーを立てればきてくれる。そんな子供じみた欲求でしかない。だから騙したような罪悪感もあるし、あまり真剣にも挑んでもいなかった。

 そうして増えた知識の活用法もなく、ただ文を打ち込むだけの生活をしている。

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