オイルトテス.6ステータス
茂みを掻き分けたその先には、馬鹿みたいに大穴を開けているのはなに?
「サーナちゃん、これは?」
「ダンジョンだよ!ダンジョン!」
「うにゃうにゃ!」
あんずと一緒に瞳をきらきらさせてるけど、なんか暗そうだよ。暗いとこ好きなのかな?意外とインドア?
「お宝だよ、お宝!お宝があれば生活が潤うよ!」
「あ、ああ、そうなんだね」
「ん?どうしたのマキさん」
サーナちゃん天使かと思ったけど、ちゃんと人間らしく欲のある子供なんだね。当たり前か。
でも、そうだよね。清廉潔白な人間なんていないか。いないよね?
この世界の生活って大変そうだし。楽だったらサーナちゃんもせかせか働いていないし。
「お宝があるの?」
「うん!ダンジョンは、天の恵みだよ!生活に潤いを!」
どうやら、自然現象みたいに所々に生まれるらしい。中は危険な魔物と宝箱。恵みか?散歩するには適さないし、私はのんびりしたいんだけど、サーナちゃん行きたそうだしね。ダンジョンは、攻略され尽くすと消えてしまうらしい。
「ダンジョンは二種類あるんだー!」
それは、自然現象で生まれるもの。もう一つは誰かが造り出した建造物など。酔狂な誰かさんだ。迷惑なものを建てるな。
「サーナちゃん、行きたい?」
「うん。追加依頼していーい?」
「いいけど……今のレベルで大丈夫かな?」
出来るなら、もう少しレベルを上げたいとこだけど。
いやいや、小さい子を連れていくのはやっぱり危険だよねー。悩む。
サーナちゃんに断って嫌われたくない……いやいや。NPCになにハマってるのかな、私。
しかし、サーナの微笑みは人を惹きつけてしまうから。とてもそれはNPCのものとも思えないんだけどね。
「……一旦戻ろっか?」
サーナちゃんは、興奮を押さえて言う。確かにこのまま行っても危険は伴う。ゲームとはいえ、サーナちゃんになにかあっては困る。
「そうだね。準備も整えないとね」
一応、高そうなポーションは唸るほどあるけれど、他の症状に効く薬も必要だよね。
「にゃん♪」
あんずもそれがいいとばかりに一声鳴く。
森を出て街へ戻る道すがら、夕日が綺麗だなと思う。現実よりゲーム内が綺麗だなんておかしなもんだね。
琴美、元気かなー。今頃ナンパしてるかも。してないか。
街に戻りまずギルドに報告する。
「お疲れ様でした~。こちら、報酬です!」
夕方でも元気な受付嬢に報酬の入った袋を渡される。銅貨がジャラジャラ鳴ってるぜ。
「それと、あの~」
ダンジョンを見つけたことを話すと、受付嬢に驚かれた。
「わぁ!マキさん、幸運な方ですね~!」
受付嬢の大声に、周りのギルド職員や冒険者たちもざわついているよ。
「びっくりした。そんなに驚くことなの?」
「はい。ダンジョンは財宝の宝庫。人里離れたとこに自然発生してすぐに見つけられる人は中々いませんよ。ダンジョンはもしかして照れ屋さんなのかもしれませんね」
ね、じゃないよ。そんな考えの人はおかしい。
「そりゃ、ラッキー」
「か、感情こもってませんね。発見者には最初に入れる資格があるんですよ!」
は、鼻息荒いよ、ギルドの受付嬢さん。冒険者たちは、短く舌打ちしてる。
「ちっ。あんたみたいな良いとこのお嬢さんにはダンジョンは荷が重いんじゃないか~い?」
「俺っちたちに譲ればいいんだよぉ?」
「へひひ。そうさ。冒険者なんて止めて俺たちにお酌でもしてくれよぉ~」
変な酔っぱらいたちが絡んで来たよ。
「いや、断る」
「なんだと!?俺たちはなぁ~!モテないからなぁ~!」
「断られてもすぐに立ち直れるのさ!」
「まあ、サーナの知り合いじゃあしょうがねぇ!」
そう言いつつなんかあっさりと引き下がるよ?
なのであかんべーをすると「ま、マキちゃん?」
ぽかんと呆れられてしまった。うん、ごめんなさい。子供っぽかったです。おちょくるなんて私は、サーナちゃんより子供か。
「あの!依頼をまた出したいんですけど!」
サーナちゃんは、わくわくして受付嬢と話している。さては、冒険好きなのね。完成した依頼書はこうだった。
依頼
依頼者:宿屋の娘みんなのサーナちゃん
私を森のダンジョンまで連れてって?
報酬 サーナちゃんがなんでも言うことを一つ聞く。
同行者 サーナちゃん
職種モリガール
Lv.2
HP13
SP11
STR5
DFF6
SPD5
LUK3
SKILL 森の癒し 看板娘 天使の微笑み
薬草の知識 植物魔法Lv.12家事手伝いLv.4 料理Lv.3
………やった。また、サーナちゃんと一緒だ。無関心の私がこの世界に興味をもち、女の子に感心を持つなんて。ロリじゃないから。
でも、ステータスを比べると、やっぱり私のステータス高いよね。ま、いいか。取り敢えずその依頼受けます。報酬関係ないです。
「サーナちゃんを守って下さいね」
「サーナを守れよ!」
「怪我させたら許さんぞ」
なにこれ。冒険者のサーナちゃん人気高いんだけど。この街の人たちロリかな。サーナちゃんは私が守るからね。変な男は近寄らないで。
その後、サーナちゃんを連れて武器防具店を訪れた。しかし、夕方なのにそれなりに人が多いな。
「好きなの選んでね」
「え、いいんですかマキちゃん!」
「うん。あなたを守るためだから」
さりげなく足元にいる猫を撫でながら優しく話しかける。私が、帰ってきてから猫も心なしか喜んでいるようだ。
「うにゃう」
はいはい。あんずもね。かわいい、かわいい。顎の下を撫でて上げる。爪でちょいちょいつつかないの。
「このエプロンなんかいいかもです~」
サーナちゃんがにこにこして見せてくれたエプロンの名称を見てみる。
はだかエプロン-見た目より守備力が上がる。羞恥心よ、遠い彼方。スキル恥女を追加。
「………これは駄目」
「そうなんですか?」
サーナちゃんはまだ知らなくていいの。この、絹のエプロンとかいいのかも。防具と一緒に武器も探す。
私のは相変わらず良いのは無さげだけど、サーナちゃんのは、なにがいいのかな。モリガールの装備ってなに?
おじさんに尋ねると、木の杖を渡された。その辺の木じゃないの?
「これは、その辺の枯れ木なの?」
「失礼な!これは、ブエラの木じゃ。固い木を削って作ったのだぞ?サーナちゃんなら安くしておくよ」
おじさんは、サーナちゃんには優しい。ロリ………と言うよりは孫をかわいがる感じかな。
「わーい!ありがとうございます♪」
満面の笑みを見せられたら、タダにしても惜しくはないよ。サーナ。恐ろしい子。それと、絹のかわいい服を購入したよ。
「今日は色々とありがとうございます♪明日から、頑張りましょうね♪」
礼儀正しい子にそう言われると、しっかりした子だと再認識させられる。
サーナちゃんは、厨房にいるロッカーさんの手伝いに行ったので私も一旦部屋に戻る。明日、ダンジョンを覗きつつ、無理そうだったらレベル上げをしよう。ちなみに、ログアウトはやっぱり出来なかった。
つづく