時計仕掛けの迷宮.1
そこは、いくつもの時計があるダンジョンだった。私は思わず頭を抱えるよ。のんびり散歩したいのに。なんで、ダンジョンなの?
せっかく、自然溢れる世界なのにね。あんずが、慰めるようにスリスリしてくる。これが終わったら少しのんびりしようと誓う私は、あちこちにある鳩時計みたいなのを眺めながら、いきなり襲ってきた魔物を裏拳で吹き飛ばす。今は、機嫌よくないから。鑑定眼で分かったことは、シャドウと言う名前のみ。
黒い魔石を落として消えたので拾って、アイテムボックスに入れとく。
他のみんなはどこだろう?さっきまでいたのに。村人は?
私は、肩に乗っかるあんずの背中を撫でて安心感を得る。
ことの発端は、この街にたどり着いて猫に案内してもらった時のことだ。確か、おじいさんが一人だけいたので、話しを聞いたのだ。
「あなたは、ここの人?私たちは、ギルドの依頼を受けて来たのだけど……」
「……ギルド?」
「クインさんは、この村の出身ですよね?」
「ちゃんと話した方が身のためだぞ、じじー?」
「ドロンは、黙ってて」
「……クインの実家はこの家じゃ」
そこは、今まさに猫たちに案内された場所。そして、あんずを含めた猫たちが、このおじいさんを見て毛を逆立てるよ。めちゃ、怪しいよ。
「おじいさんは、なにか知りませんか?」
「……わし、一人になってしまった。なんで、こんなことになったのか。いや、わしが悪いんじゃない!
わしが、この服の下に女性物の下着を身につけて安心してるのを嘲笑ったあいつらが悪いんじゃ!」
おじいさん、それ、言わなくても言いと思うよ。サーナちゃんは、引いている。無理もない。私は、この世界に来て変態とばかり出会っているから慣れて来てるのかも知れないよ。そんな自分が怖いんです。
おじいさんは、どこかに走って行ってしまう。
「…………」
「…………」
「…………」
「さ、さあ、探索を再開しますの!」
「そうだね。ね、マキちゃん。猫ちゃんたちが扉の前でがりがり引っ掻いてるよ」
サーナちゃんが、扉の前に行くと猫たちが引っ掻くのを止めて道を開ける。
「みんな、用心して行くよ」
「……そうか。女性ものの下着を身につけると落ち着くのか…」
ドロンの呟きは、スルーね。サーナちゃんも、聞かなかったことにしている。ドアノブを掴んで扉をゆっくりと開けると、ぎぎぎと鈍い音と共に外側に開く。
中は薄暗くランプの灯りをつけるとそこは、工房なのかたくさんの時計 が壁に飾られていて、そこで目につくのは、作業台に置かれた鳩時計かな?見事な装飾で他の時計とは違うのが分かるよ。詳しくはないけど。
貴族様の屋敷にでもありそうな時計ですかね。ま、いいか。
「あの時計から、魔力的なものを感知しますの!」
マナが、警戒の声を上げる。あんずも、作業台に乗り毛を逆立てている。
「なんだなんだ?俺を出迎えるお茶もないのか?」
「ドロンさん、危ないから下がってくださいですの!」
「ロリ顔、引っ張るな!」
「……ロリ顔」
止めようとしたマナの手を振りほどこうと引っ張るものだから、パッと放したよ。ドロンの言葉がショックだったんだね。
勢いで例の時計の方へ。すると、スポンと吸い込まれてしまった。
「………さ、さあ、帰りますの」
踵を返すマナをサーナちゃんが慌てて引き止めるよ。だよね。あの時計は危険だし。ドロンもだけど、村人たちのことも探さないと出し。
あの時計がなんなのか知らないけれど、調べないとね。
「みんな、行こうよ」
「うん。マキちゃん男前!」
「私は、女だよ」
苦笑してサーナちゃんの頭をなでなですると、あんずも、自分もとばかりに頬にすりすりだよ。
「こ、これは興奮ものなのです!ダンジョンは、自然発生するものか、元々あるものですの!それなのに、時計の中に吸い込まれるなんてこれは……!」
「これは、なんだよ、ロリ顔?まさか、この俺の心みたいに深くて広い迷宮だなんて言うつもりか?」
誰もそんなこと言わないよ。ホントに誰も言わないからね。ひん曲がってはいそうだけどね。
「ロリ顔ではないですの!ねえ?」
ねえ?と言われても私は、嘘つくのは出来るだけしたくないし、嘘をつくなら優しい嘘をサーナちゃんにつきたいな。そんなこんなで話していると至るところにある時計の中から魔物が降ってきて私たちの邪魔をする。黒い影?
「影の薄い人間みたいな薄さだぜ……」
台詞の途中でドロンが消えたよ。永遠に?なんてね。
しかし気づくと、私とあんず以外が消えていた。景色が変わる。相変わらずダンジョンの中だけど、移動したのは私ってことみたい。まあいい……よくない。サーナちゃんが心配だよ。現れる魔物を蹴散らして進む。ちょっと焦るよ。クセの強い二人しかいなんだもん。カチカチと時計の音が耳障りだよ。
つづく




