プロローグ 友人と両親に感謝を込めて!VRMMO世界へ
俺は幼い頃からヒーローに憧れていた。
俺の名前は織部ソウタ。大好きなものはヒーロー!三度の飯よりヒーローだ。
そのきっかけは仕事の関係で海外にいることの多い両親から送られてきたアメコミだった。俺はそのアメコミに出てくるヒーローたちのカッコよさに憧れたんだ。
巨漢で強くマッチョ!男にしてはかなり小柄で童顔な俺にはない要素ばかり。憧れない訳ない。
高校に入った頃には完全なヒーローオタクになっていた。
部屋にはヒーローのフィギュア、グッズで部屋が埋まっている。俺のお宝コレクションだ。
そんな俺には新たに欲しいと思ってるものがある。
最近世界的に人気を誇るVRMMOゲーム『未来都市ノア』と言うゲームだ。近未来の地球によく似た世界を舞台としたSF系ファンタジーゲーム。そのゲーム、様々なジョブがあり、なんとそこにはヒーローという物もあるそうだ。どういった物かまでは詳しくはみてなかったが、それがあるだけで俺からしたら好奇心が止まらない。擬似とはいえ、ヒーローを体現出来るなんて…ゲームの世界ってすげぇ!なんて某有名な主人公のような台詞を言ってみたり。
とは言うものの人気ゲームでもあるそのソフトはどの店も完売。ネットでもなかなか手に入らない代物。そもそもVRMMO機器を持ってない。一学生であり、バイトで、半一人暮らしの俺には手が届かない物である。たっかいんだーこれが。
一応コツコツと貯めてはいるが、いつになることやら。
そんなある日のことだった。学校のクラスメイト兼お隣さんの幼い頃からの友人タクマが声をかけてきた。
「ほい、これ」
と手には紙の袋が。タクマは俺にそれを差し出す。
「なに?これ」
「ノア」
「……はい?」
「だからノアだよ。未来都市ノア」
「お、おおお!?マジか!?手に入れたんか?ええ?いいなー!!いいな?」
「へへん。姉貴がさ、入学祝いに買ってくれたんだ」
「ほぉ」
タクマのお姉さんこと、ヒカリさん。タクマの家はある企業の上役で、かなりの金持ち。そしてそのお姉さんたるやかなりの文武両道、優秀で、高校生でありながら、既に家の事業に貢献しているらしい。ハイスペック女子高生だ。なのでこのタクマよりかなりのお小遣いもとい、給金を貰っているそうだ。
そんなお姉さん。幼い頃から俺にもすごく良くしてもらっていた。まるで実の弟のように扱ってくれる。偶にうちに来て料理をしてくれたりもしているんだ。これがまた美味。ハイスペック女子高生…嫁の貰い手は引く手数多だろう。
とは言うものの。
「へー。あのヒカリさんがねぇ。ゲームとかには一際厳しそうな人なのに。珍しいね?」
「頑張った俺らへのご褒美だとさ」
あー、まぁこの高校。地元ではそれなりの難関校だもんな。俺とタクマの成績じゃ、かなり無謀だったけど、ヒカリさんに協力もしてもらってなんとか合格を勝ち取ったんだ。あそこまで勉強したのは初めてってレベルだったよ。
「…ん?俺、ら?」
と疑問の顔をするとタクマはニヤニヤ顔で
「なんだよ。俺がわざわざお前に自慢するためだけにこれを持ってきたとか思ってんのか?」
…確かにタクマは意地悪な面も偶にあるが、そんなことをするような嫌な奴ではない。ましてや俺が喉から手が出るほど欲しがっていると知ってるから尚更そんな事はしない。
「これはお前の分だよ」
「……へ?」
なにを言ってるだろ?この男は。と言う顔をする俺。
「姉貴からお前に渡してくれってさ。だからお前の」
「なんば言いよっとか?こん男は」
「なんで方言なんだよ。どこ出身だ?お前は」
「生まれも育ちもここだぜ。ってそんな事よりマジで言ってるのか?それ。ヒカリさんが俺の分も買ったってこと?」
「そっ!お前も頑張ったからな。ご褒美だってさ」
「いやいや、貰えないよ。そんな高価な物」
「いや、貰っとけって欲しかっんだろ?」
「…勿論」
「なら、な?」
「……うん。ありがとう」
「お礼は姉貴にもな?」
「勿論!!」
一度は断ったが、断然嬉しいに決まってる!ヒカリさんありがとう!マジ感謝!愛してるよ!
「んで、ヒカリさんは?今日、学校来てるの?」
「ああ、来てたけどもう帰ったよ。準備があるってな」
「ええ!そうなのか。早速お礼を言いに行こうと思ったのに。…いや、今度、菓子折を持参して、タクマのうちに行くよ」
「お前は姉貴を嫁に貰いにでも行くのか?まぁいいや。んじゃせっかくだし、夜8時にはじまりの街で待ち合わせしようぜ」
「イイね!楽しみだよ!」
「俺、既に昨日アカウント作成してログイン済みだから。アカウント名は『タク』な。よろしく」
「OK!」
と言ってタクマからソフトを受け取り、学校を後にした。
…さて、皆様はお気付きでしょう。この時点で俺はとんでもないことを忘れています。
ソフトはあっても機器がないのです!!
帰宅途中、俺はそれを思い出しました。ワクワクからガックリへと肩が落ちます。
よりにもよって一番重要なことを忘れるなんて…。ああ、タクマになんて言えば。
と話しているうちに自宅の前まで着いた。
「ん?あれ?」
既に周り薄暗くなっており、家に明かりがちらほらとつき始めている。そして無人の俺の家にも明かりがついていた。
やっば!俺、電気つけたまま出ていっちゃったのか。と思っていると窓から人影が。泥棒!?にしてはなんとも…。
「…あ、もしかして」
俺はドアの鍵を開けて、家の中に入った。
ドアの開閉音に気が付いたのか、人影の主が玄関へとやってきた。エプロン姿のヒカリさんだった。
「お帰り、ソウちゃん」
「ただいま。ヒカリさん」
先の話にもあったようにヒカリさんは偶にうちに来て、料理をご馳走してくれている。それに気を許した両親はヒカリさんに合鍵を渡していたんだ。だから時折、こうして出迎えられることもある。
「夕飯できてるよ」
「ありがとう。いつもごめん。ヒカリさん」
「いいのよ。好きでやってるんだし」
「そう?でもありがとう」
…って俺!それも言わなきゃだけど!真っ先に言うことがあるだろ!
「ヒカリさん!このゲーム」
「あ、タクマから受け取った?」
「うん。本当にありがとう。すっごく嬉しいんだけど…こんな高価な物もらって…今度なんかお礼させてよ!」
「別にいいのに。ただの入学祝いなんだから」
「俺の気が治らないの!何かさせて?」
「うん。考えておくわ。さぁ、食べましょう」
そう言われて、リビングのテーブルに置かれたヒカリさんの作った料理を食べた。相変わらず美味。今日はイタリア料理。オリーブが効いてうまい。
…しかし、言い出せないよな。せっかくもらったものを俺は実戦できないなんてさ。これ話して、側から聞いたら、完全に催促してるようだし。そうだ!バイトの量を増やすか。今は週三だし、今度は五に、いや六にしてみるか。
そんなことを考えているとふとある物に気付く。
空の段ボールが置かれていた。俺の出掛ける時にはあんなものは無かった。
「なんだ、あれ」
「ん?あー、おじ様たちからのソウちゃんへの入学祝いよ」
「へー。え!?」
「あ、おじ様たちから開封の許可は得ているから」
「いや、それは別にいいけど、物はなに?」
ヒカリさんは俺が変な買い物しない様、届いた物を確認しておいて欲しいと母親から言われているので…信用無いな俺。
「ふふーん。ソウちゃん。私たちがあなたが持ってないゲーム機のソフトをプレゼントするとか生殺しをするとでも思いかな?」
「……いや、そんな…まさか…え?ウソでしょ?そんな幸せなことある?」
「うん。おじ様たちからのプレゼントはVRMMO機器一式よ。おじ様たちと打ち合わせしていたのよ。被らないようにね。一番欲しい物は私がリサーチ済み」
…ヤバイヤバイ!涙出そう!
「既に機器はセッティング済みよ。実は私、2人とやる為に先にプレイ済みなんだ!あとで一緒に遊びましょ…っ!」
嬉しさのあまり抱きついていた俺。
「ありがとう!姉ちゃん!」
つい昔の呼び方が出ていた。俺、嬉しいことがあると暴走する節がある。
「〜っ!!」
「本当にありがとう!ヒカリ姉ちゃん!」
「……おーけー、いっかいおちつこうか?しょうねん」
「ん?…ごめんなさい!」
我に帰る俺はそっと離れて土下座。
幼馴染とはいえ、年頃の女性に気安く抱きついたとか普通に変態行為だ。
「……もういいから。ご飯、食べたんなら部屋行ってきなさい。アカウント作成割と時間食うから。今のうちにやっておきなさいな」
「ありがとう!本当に今度何かお礼させてね!絶対!」
と言って俺は急いで部屋を後にする。
「…あの馬鹿!なんてことするのよ!びっくりして、年上頼れるお姉様キャラが崩れるところだったじゃない!はぁードキドキした!あの天然年上ゴロシショタ属性が!高校生であの可愛さは反則だろ!私に襲われても文句言えんぞ!まったく!」
部屋着くなり、俺は自分のPCに繋がるVRMMOを起動させる。
本当に何から何までやってある。姉ちゃん様々だな!
ソフトを入れ、頭に機器を装着。そのまま横になる。
すると、目の前に文字が出る。
『用意ができましたら、リンクスタートと発声してください』
なるほど、音声認識機能付きか。なら早速!
「リンクスタート!」
そして俺の意識はゲーム世界へと入っていった。
さぁ、これより俺のヒーローストーリーが始まるのだ!