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無力を知るだけ。

 ようやく南門に近づいて来た。あまり広くはないとはいえ、走るとかなりの体力を使う。

 門の近くを見渡すが他の皆の姿はない。かなり出遅れてしまったようだ。

 やはり飛ぶと走るではかなり差が出てしまう。シヴィルには申し訳ない事をさせている気がする。


「おい、おかしいぞ!門の前で待ってるように皆に伝えていたはずだぞ?」


 シヴィルの顔が一層険しくなる。


「僕が遅くて先に行っちゃったんじゃない?」


 これだけの差があれば、何かあった勘違いして先に逃げていてもおかしくはないはずだ。


「俺達の仲間にそんな酷い奴が居ると思うか?」


「でも緊急事態だし仕方ないよ。」


 人間に襲われているのに、たった1人の人間を待って、自分達の身を危険に晒しても構わないなんて思うはずがない。


 そんな卑屈な気持ちになっていると、門の向こう側に少し人影が見えた。

 卑屈な気持になっていたが、誰か1人でも待ってくれていると思うと嬉しかった。


 僕は走る速度を上げる。

 その瞬間服の首元を後ろに引っ張られ、「グハッ!」と漏れる声と共に、体が後ろに持っていかれてしまう。


「馬鹿野郎!!」


 シヴィルが僕を引っ張ってつけた勢いで、僕より前に出る。

 何がしたかったのかわからなかった。僕は首元を抑えながらうずくまった。


「なんだよ。シヴィル…。苦しいじゃない…か。」


 振り向いたシヴィルの口元から血が流れ、腹部には1本の矢が刺さっていた。


「なに…してる?さっさと逃げろ…。親父達がまだ北門に居る…筈だ。」


 腹部を押さえながらシヴィルは僕に言う。

 途端理解した。門の向こうに見えた人影は人間だった。


「逃げる?馬鹿言うなよ!?僕なんかを庇って…。置いてけるわけないだろ!!」


 シヴィルの肩を掴み連れて行こう試みるが、ドン!と思いきり突き飛ばされてしまう。


「はやく行け!」


 シヴィルは腕と、しまっていた羽を大きく広げた。

 その瞬間無数の矢がシヴィルを貫いた。

 その無数の矢はただの1本も僕には届かなかった。シヴィルが広げた羽と腕に阻まれて。


「行け!!!!!ジセム!!!!!こんな格好つかない姿見るんじゃねぇ!!!!!!」


 僕はすぐに駆け寄るが、シヴィルは唯の一度も痛みを口にする事なく、僕を突き飛ばす。

 その突き飛ばされた勢いのまま僕は北門へ向かった。


「死ぬな…よ。ジセ…ム……。」


 微かに聞こえた声に振り向くが、そこにはもうシヴィルの姿はなかった。

 無数に転がる矢の残骸の中には輝きを放つ紫色の石が転がっているだけだった。


「ちくしょおぉぉぉおおおお!!!!」


 自分の弱さを呪った。

 自分が人間である事を恨んだ。


 無力で何の力も持たない僕は護りたいものに護られるだけだと言う事を酷く痛感した。

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