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ダイヤモンドの女神  作者: 駿河ギン
1章 大嫌いな野球の神様は
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グラウンドへ集合

 女の子の着替えに同行するわけも行かず、先にグラウンドに向かう。野球をする気もなく、ジーパンにシャツにスニーカーというラフな格好だ。野球をする格好ではないのは目に見えていた。でも、コーチをやることになってしまっているから勝手に帰るわけには行かない。勝手にコーチにさせられたから帰っても問題ないと思うんだけど、なぜか俺の足はグラウンドに向かう。

 野球をやめることを心に決めて2年。縁を切ろうと戦い続けた2年だ。最近ようやく決心が付き始めた頃にこれだ。野球の神様は俺に野球をやってほしいのかほしくないのかわからない。

「今度はどんな嫌がらせをするつもりなんだ?」

 と小言を呟きながらグラウンドに向かっている途中で校則違反気味の金髪のポニーテールの少女と目が合った。グラウンドのほうを眺めていた。むすっとした鋭い目つきに少し引き気味になってしまう。不良の風貌がるけど、星美高校は偏差値の割りに落ち着いた高校だ。だから、目の前の金髪不良気味少女もたぶんまじめな子なんだろう。

 俺を睨むと身を翻して校門のほうへと小走りで言ってしまった。

「なんだ?」

「あら?下僕じゃない?」

 後ろから聞こえた美女の声には覚えがある。というかここに来て俺のことを下僕とか呼んでいたのは一人だけだ。

「確か、冬木さんだっけ?」

「雪音よ。ここでは下の名前で呼びなさい。みんなそのほうが慣れてるから」

 勉強になります。

 改めて雪音は濃い青色に白いラインの入った長袖長ズボン学校指定のジャージを着ている。

「誰も来てないじゃない。せっかく来たのに」

 そういえば。

「来れないとか言ってなかったか?」

「気が変わったのよ。別にいいでしょ。空気の読めないマヌケね。小学生でも空気くらい読むわよ。もう一回小学生からやり直したら?」

 空気を読めか。残念ながら野球しかしてこなかったからその辺の能力は欠けてるんだよ。

「いつまでそこにいるんですか!」

 このがみがみした感じは恵美か。

 予想通り雪音と同じジャージを着ているめがねおさげの少女だ。

「時間は限られているんですよ。決められた時間にできることをやらないとせっかく借りたグラウンドが無駄です」

「あ~、はい。わかりました」

 と俺は素直に従うが、雪音は違った。

「がみがみうるさいわね。もう、更年期?それとも生」

「どういうことは男の人の前で言わない!」

 すると勝ち誇ったみたいな表情を浮かべる雪音。

「それを言っちゃいけないってルールはどこにあるわけ?別に言っても問題ないでしょ?」

 なるほど。ルールに縛られる恵美にとってルールではないことを突きつけられると否定できない。それをどうも雪音はわかっているようだ。

「そ、それは!プライバシーの侵害よ!」

 間違ってはいないな

「いいから!練習に行くわよ!」

 そして、強引に話を逸らした。

「いじめがいがあるでしょ?」

「お前、最低だな」

 恵美はまじめなだけなのに。

「お!見つけた!」

「見つけた!見つけた!」

 この元気な同じ声をしたふたりは。

「神野ツインズだっけ?」

「正解!」

「大正解!」

 髪を確か右にまとめてるのが姉の右樹で、左が妹の左樹だっけ?どっちだっけ?

「あ!雪音と」

「恵美がいる!」

 ふたり同時に野球だー!と叫びながらグラウンドへかけていった。

 元気だな。これが若さか。

「数分ぶりですぅ」

「お。桃香…さんですね」

「なんで敬語なんですかぁ?」

 ジャージの上からでもわかる胸のボリューム。共学ではあるが、女子が多い高校でよかったな。この胸を見てどれだけの男が…。

「邪悪な気を感じる」

「ん?」

 良くみたら皆と同じジャージ姿のなっちゃんが襟元を桃香につかまれて引きずられていた。変なしゃべり方と格好をやめれば完璧なのにもったいない。しかし、今の中ニ病的な発言はあながち間違っていない。良かったな。異能に目覚めたかも知れんぞ。

「お三方!」

 この元気な声は凜子か。そして、それを追いかける有紗の姿もある。

「みんなそろってるね!行こう!」

 その掛け声と共に凜子と桃香、なっちゃんがグラウンドへかけて行く。その後ろを俺がゆっくりと追う。と有紗が動かないことに気付いて振り返る。

「どうした?」

 その表情は困惑しているように見えた。

「いえ。初めてだから」

「何が?」

 今にもこぼれ出そうな涙を堪えて有紗は呟く。

「みんなで野球をするのが」

 そういうと駆けて行った。元気良く。

 そういえば、まだ俺はあの言葉の意味を聞いていない。

 ―――女の子は野球をしちゃダメなんですか?

 みんなで野球をするのが始めてってどういうことなんだ?

 たくさんの疑問と突きつけられた理不尽な現実に埋もれているせいで俺は気付いていない。野球に深く関わり始めていることに。

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