美少女、冬木雪音
急かす少女、凜子を追いかけて体育館にやってきた。
広い体育館を中央のネットで半分に区切っている。俺たちが入ってきた入り口はちょうど区切られた体育館の中央だ。ステージ側でバスケ部が練習をして、その隣でバレー部が練習をしている。どちらも女子しかいない。JKたちが汗を流して動き回っている。ずっと、見ていられる。
「あ!いた!雪音~!」
と少女、凜子がぴょんぴょんと手を振りながら跳ねて雪音という少女の名前を呼ぶと、ステージ側で練習をしていたバスケ部の中でひときわ咲いている一輪の高嶺の華のような少女が水筒を片手に振り返る。腰辺りまではつややかな黒に透き通った白い肌。大きな釣り目に低い鼻。顔立ちからしても風貌からしてもこちらに歩み寄ってくる歩き方からして美女感がひしひしと感じた。
有紗が極平凡なかわいい少女で、凜子が元気一杯の明るい少女なら、その雪音という少女は完全無欠の美人だ。
「何かしら?ピーピー喚いていて犬かと思ったわ」
ただし、言葉はきつい模様。
「約束してたよね!」
「約束?」
「コーチが見つかったら野球部に入ってくれるって言う!」
「コーチ?」
美少女、雪音は俺のほうを睨む。
「この下僕のこと」
誰が下僕やねん!っと思わず関西弁が出てしまう。
「そう!えっと…」
もう、忘れたんかい!俺の名前!
「松葉俊哉さん」
親切な少女、有紗が耳元で教えてあげる。
「そう!松葉さん!すごいピッチャーなの!後で練習するからグラウンドで!」
元すごいピッチャーな。
「急すぎるわ。こっちもバスケ部で忙しいのよ」
「そこをなんとか!」
「あのね。完璧な美少女の私も今はバスケ部では一番下っ端の1年生なのよ」
自分で美少女って言っちゃったよ。
「練習を抜けたいですなんて言ってOKがもらえると思ってるの?無理よ。練習するなら放課後になる前に言って頂戴」
再び俺の方に目を向ける。
「こんな貧弱な下僕がコーチねぇ」
貧弱でごめんなさい。もう2年近く運動していないからな。
美少女、雪音を呼ぶ声が聞こえる。
「じゃあ、明日練習するなら早めに教えなさいよ」
「ちょ!」
少女、凜子が止めようとしたが美少女、雪音は言ってしまった。
「……もちろん!明日も来るよね!」
「明日、バイトなんだが」