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ダイヤモンドの女神  作者: 駿河ギン
5章 今度は負けない
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3回裏 折られる

 やばい点を取らないと。

 そんな焦りをチームの中で感じた。

 後続の八王子さんをファーストゴロに抑えて攻撃の手を何とか止めることができた。エラーからがらがらと音を立てて崩れ始める。先生が左樹ちゃんがエラーしてすぐにマウンドに来てくれた。守備の安定感はチーム一の神野ツインズのエラーと四之宮さんに打たれた長打がチームの空気を重く悪い方向へと行かないようにするための声掛けだった。結果として左樹ちゃんは言うほど落ち込まず捕れはしなかったけど全力で打球に飛び込んだ。それでも、チームは逆転を許した。

 私がもっとうまくやれば…と思ったけど、口にせずにバットを握った。

 この回で私に打席が回ってくる。

 私が打って少しでもチームの勢いを戻す。

 失点の原因は打たれた私にもある。それを取り返す唯一の手段がこのバットだ。

「行けー!」

「打てー!」

「雪音ちゃん!」

 元気の象徴、神野ツインズと凜子ちゃんが必死に応援する。

 打席に向かう雪音さんの目は全然死んでいない。

「取り返すって気持ちはあんただけじゃないわよ」

 キャッチャーのプロテクターを着けたままのミキちゃんもじっと試合を見つめる。

「雪音の悪送球はあたしの中途半端な指示のせいでもあるわ。雪音自身も自分のせいで点差が広がったことを意識していないはずがないわ。あの子は誰よりも負けず嫌いよ」

 それはチームの誰もが知っている。初めての試合の時はただ大口を叩いて弱者だけの見下すようなことばかりしていたけど、今は違う。自分の力を見極めてそれより強い人に立ち向かう。まさにスポーツ選手だ。

「いい気迫ですわ」

 四之宮さんは楽しそうだった。

「ハウエバー。気迫で打てるほど野球は甘くない」

 初球はストレート。若干高くボール球だったけど手が出てしまって空振る。次のストレートもさっきと同じ高めのボール球のコース。これも手が出て空振ってしまう。

「雪音!落ち着け!」

 歯を食い縛り悔しがる雪音さんは明らかに冷静じゃない。

「次は打つ!」

 完全に前のめりになっている。私がピッチャーなら次に投げるとしたら……。

「雪音!」

「遅い球が来るわよ!」

 と先生とミキちゃんが同時に叫ぶ!

「レイト」

 四之宮さんの長い手が鞭みたいにしなって投じたボールは今まで剛速球と違って腰が抜けそうなくらい遅いカーブだった。

「は!」

 先生とミキちゃんの声が届いていなかった雪音さんは突然来た遅い変化球に態勢を崩しながらなんとかバットに当てたけど、その場でバランスを崩して倒れる。打球はフェアゾーン。サードの五十嵐さんが掴んでファーストに投げる。

「雪音ちゃん。大丈夫?」

 倒れた雪音さんに手を伸ばすのは次のバッターの凜子ちゃん。

 でも、その手を雪音さんは拒んだ。

「完全に私の負けよ」

 そういってベンチに戻って行った。

「乗ってきましたわ」

 四之宮さんは白い歯を見せて笑った。

「負けない!」

 と威勢よく打席に立つ凜子ちゃんだったけど―――。

「ふん!」

 3球すべてカーブだった。

 今までないパターン。凜子ちゃんの頭は早いストレートでいっぱいだった。いきなり遅い球で来たんだから次は速い球のはずだ。また、遅い球。でも、次こそは速い球だ。そんな思考を完全に読まれてしまっていた。結局、3球目のカーブを強引に振りに言ったけど、バットにかすりもせず三振となった。

「もう、私しかいない」

 バットを握る力が強くなる。

「待っていましたわよ、綾元さん」

 雪音さんの気迫もすごかったけど、打席に立つと改めて実感する。四之宮さんの威圧感で息苦しい。でも―――。

「負けない」

「チャレンジャーね」

 六道さんがサインを送ってミットを構える。大きく振りかぶって投げたストレートは勢い良くミットに収まる。

 ―――速い。

 最初の打席は雪音さんと凜子ちゃんに連打を浴びて動揺していた。だから、ストレートの威力も言うほどじゃなかった。結果的にはライトフライだったけど、パワーのない私が四之宮さんの剛速球をあそこまで飛ばすことが出来て進塁打にも繋がった。

 今のが本来の四之宮さんのストレート。

 ぐっと力をこめて構える。次もストレートだけど、低めにワンバウンドしてボールになる。次も高めに外れる。これでツーボール、ワンストライク。バッティングカウントになった。

「さすがね。よく見えてるわね」

「ありがとう」

 見えているかもしれない。でも、あの剛速球を打ったところで飛ばすことが出来るか自信がない。私が狙うならカーブだ。ここまで四之宮さんはほとんどカーブを投げていない。この回になって雪音さんに使ったのは始めてだ。凜子ちゃんには躊躇せずに3球連続でカーブを投げてきた。私にもカーブを投げてくる可能性は十分ある。私は最初の試合で速いストレートに意識し過ぎて遅いカーブにタイミングを崩されてしまった。次は打ってやる。

「打ってみなさい」

「え?」

 拍子抜けた。四之宮さんは私がカーブを待っていることを知っていたようだった。それを承知でカーブを投げてきた。

 この気を逃すな!長打を打って次のミキちゃんにつなげ!

 カキーン。

 打った打球は低い弾道でセカンド正面へ。

「嘘!」

 セカンドの二葉さんの正面でショートバウンドするけど、それをしっかり捕球されてしまい、そのままファーストに投げる。

「アウト」

 走るのを途中で諦めてしまった。

「ユーがカーブを待っている気がした」

 六道がベンチに戻り際で私に言った。

「だから、シオリに低めにカーブを投げさせた。ほぼ、ボール球。速いストレートでは押し負けると思って待っているカーブが来たら打つよね。でも、ボールはしっかりミートさせないと」

 六道さんはベンチへ行ってしまった。

 確かに私はカーブを待っていてそれが来たから打った。確かに低かった。でも、待っていたから打ちに行ってしまった。その強引なスイングが弾道が低くなってしまってセカンドが捕れる高さになってしまった。

「有紗!」

 いつまでもホームとファーストに間にいる私を呼ぶ先生。

 はっとしてすぐにベンチに戻ってヘルメットを脱いで、グローブを掴む。

「有紗」

 再び私の名前を呼ぶ先生。

 その声は不安でいっぱいだった。このチームの精神的支柱は私。私が折れてしまったらそれこそ試合にも勝負にも勝てなくなってしまう。だから、無理やりでもいい。

「大丈夫です」

 笑ってそう答えたけど、みんなそれが偽物の笑顔だって気付いていた。私はそのことを知らない。

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